シリコンバレーにおける日本企業の投資活動 [Scrum CEO Summit 2016 Report vol.1]

January 27, 2017 イベントレポート

Text by 松村太郎@taromatsumura

2016年11月16日に、Scrum Venturesは、東京・渋谷でCEOサミットを開催しました。

シリコンバレーやニューヨーク、ロサンゼルスから、Scrum Venturesの投資先CEO達も参加し、ファッション、ヘルスケア、ビデオエンターテインメントなど、新しい分野とテクノロジーが融合したサービスの成長の秘訣を知ることができました。

また、日本企業としてシリコンバレーに進出し、積極的な投資活動で成功しているコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のトップによる議論も行われ、シリコンバレーにおける日本企業の投資活動の現在と、その仕事のスタイルの違いに、会場を埋め尽くした聴衆も注目をしていました。

シリコンバレーは、世界でも非常に特殊な形で成立した、イノベーションとビジネスが生まれる場所になっています。そのリアルな話題を、東京にいながら垣間見ることができた、貴重なイベントであったと振り返ることができます。

シリコンバレーにおける日本企業の投資活動

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日本の企業のシリコンバレー進出にはいくつかの方法があります。その中でも注目を集めているのが、企業によるベンチャーキャピタルの投資活動です。

今回のCEOサミットには、積極的な投資活動を展開しているヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーCEO(最高経営責任者)兼マネージングディレクターの西城洋志氏、リクルート・ストラテジック・パートナーズ代表兼マネージングディレクターの西条祐介氏、三井住友カード戦略事業部長の利田義郎氏が登壇しました。

3社ともにそのゴールは様々ですが、シリコンバレーのメリットを最大限に日本企業に取り組む方法を垣間見ることができました。

ヤマハ発動機は、非連続のイノベーションを取り入れることが目的

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ヤマハ発動機はオートバイなどで知られるメーカーです。

シリコンバレーの進出は2014年5月、投資活動開始以降、アーリーステージで4社、レイター投資で1社を実現しています。年間1000万ドルから3000万ドルのレンジでの投資を行ってきました。

シリコンバレーと移動手段というと、自動運転や電気自動車などの次世代モビリティの発達をすぐに想起することができますが、「それにこだわらない」と語ります。

「ゴールは、新規事業創出のエキスパートになることです。新しい価値や事業の創出を可能にするチーム作りを学ぶことが、投資活動の最大の目的となっており、事業開発とCVCを1つのチームで実現していくことが重要です」

シリコンバレーにおける非連続的なイノベーションを取り入れることを目的としており、ヤマハのような日本の大企業がアクティブに活動している点は驚きに値します。その秘訣は、社内のレイヤーを減らすこと、そして社長以下役員に好奇心を持ってもらうことでした。

「2015年5月に法人を作る際、実際に社長がシリコンバレーを訪れ、2日間視察をして回りました。帰り際に『全然分からなかった』と言われ、頭を抱えたことを覚えています。ダメだったか、と。しかしこれはポジティブでした。その後の経営会議で、シリコンバレーが分からないのは問題ということで、シリコンバレー投資を進めることになりました」

リクルート・ストラテジック・パートナーズは日米で活発な活動を展開する

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登壇した西条氏が参画したのは2014年4月、このタイミングからリクルート・ストラテジック・パートナーズ(RSP)の投資活動は加速しています。全ファンドは215億円、直近の6号ファンドは100億円の規模。既に件数は100件を数えており、米国は32件、日本は48件となっています。

「リクルートグループにおける位置づけは、将来の事業機会の獲得に備えた、新しいテクノロジーや新しいビジネスモデルの発掘です。中長期的に取り組む、研究開発寄りの視点を持っています」

日本でもアグレッシブな投資を行っており、シリコンバレーと同じ視点を共有している点がユニークです。そのため、国内外の変化やトレンドに敏感になることができるそうです。 貴重な情報源は、現地の人々との関係作りにあると語ります。

「基本的には、現地のベンチャーキャピタルとの関係作りから、投資案件を獲得しています。リクルートの営業マインドを生かし、愚直に紹介、紹介をつなげていきます。すなわち、ギブ&テイクというわけですが、5回ギブして、1回テイクするという感覚。その5回のギブも、良いディールを持っていくことがポイントで、これを高速回転させています」

こうした投資活動には、常に学びもあるといいます。シリコンバレーでネットワークを築くことはとても大切なことだが難しくもある。そのため現地に根ざしたファンドへの出資は、ある種の「シリコンバレーへの入場料」。このキーワードは、同様に投資する日本企業にも響く至言となりました。

三井住友カードは、既存事業強化を成功させる

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2012年11月にパロアルトにオフィスを開設した三井住友カード。投資の予算を持っているわけではなく、チームはシリコンバレーに3人、東京に20名ほどだといいます。

「これまでの投資先は、モバイルデバイスで決済を実現するSquareで、こちらはIPOをしました。また、評価額50億ドルにもなるクレジットカード決済サービスStripeへの投資を行っています。ただしStripeについては、東京本社からの投資でした」

投資については、特に大きな案件は「運」もあるそうです。ただし、日本にいては、こうした運を引き寄せることも難しかったと振り返ります。

「現地にいることの重要性を感じてきました。例えば現地のコンサルタントを経由して、将来の重要なディールの相手と会うことも多いし、日本進出を狙いカントリーマネージャーを探しているという話も日常的に耳に入ってきます。とにかくシリコンバレーでは、会社を作りまくっている印象。そうしたネットワークの中に身おくことで感覚をつかんでいきました」

既に東京に帰任している同氏は、東京での会議の多さに驚いているといいいます。シリコンバレーでのスピードと自由さは、東京の本社チームとの距離感を拡げ続けてしまうため、その調整を行うことに苦労したと経験を語りました。

これからの分野

シリコンバレー進出の各社は、どんな未来を見ているのでしょうか。

ヤマハ発動機は、今後は、オートメーションやロボティクスに注目していくそうです。また、スマートシティにも関心が高いとのこと。またリクルートは、働き方の変化に注目して、シェアリングエコノミーに強い関心を寄せているほか、世界を大きく変えるテクノロジーとなる人工知能、ロボティクス、ブロックチェーンに注目しています。

また三井住友カードは、本業に関連するフィンテックに着目しているそうです。特に金融業界は未だに、カーボン紙の複写と印鑑などに頼った業務を行っており、今後変化率が最も大きくなるだろうと話していました。

Yコンビネーター卒業生が語る「特別」の理由 [Scrum CEO Summit 2016 Report vol.2] に続く

[Scrum CEO Summit 2016 Report]
Vol.1 シリコンバレーにおける日本企業の投資活動
Vol.2 Yコンビネーター卒業生が語る「特別」の理由
Vol.3 Scrum Ventures投資先企業によるピッチ

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