Scrum Ventures投資先企業によるピッチ [Scrum CEO Summit 2016 Report vol.3]

January 27, 2017 イベントレポート

Text by 松村太郎@taromatsumura

2016年11月16日に、Scrum Venturesは、東京・渋谷でCEOサミットを開催しました。

シリコンバレーやニューヨーク、ロサンゼルスから、Scrum Venturesの投資先CEO達も参加し、ファッション、ヘルスケア、ビデオエンターテインメントなど、新しい分野とテクノロジーが融合したサービスの成長の秘訣を知ることができました。

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vol.1 : シリコンバレーにおける日本企業の投資活動 [Scrum CEO Summit 2016 Report vol.1]
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Scrum Ventures投資先企業によるピッチ

Scrum Venturesが投資しているスタートアップが東京に集まり、それぞれの事業を披露しました。各企業とも、データと専門性ある視点、そしてひねりのあるアイディアが魅力的でした。

Spire / Jonathan Palley

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Spireは小石のようなデバイスを身につけることで、呼吸のペースを1日中計測することができる仕組みを提供します。呼吸は、ストレスやリラックス、集中などのその人の心理状態を反映する最も有効なデータとなります。

モバイルアプリを通じてリアルタイムに現在の自分の状態を観察することができますが、それに加えて、データ分析から導かれたよりリラックスしたり生産性を向上させる方法も教えてくれます。

Spireは、スタンフォード大学にあるテクノロジーと心理の研究がきっかけになり、医学的な見地とテクノロジーの融合により生まれたスタートアップです。ストレスの軽減から頭痛が緩和したとのフィードバックもありました。

今後プラットホーム化していく際には、呼吸と関連性の深いぜんそくや睡眠障害、メンタルヘルスといった医学的なシグナルとして活用することを目指していくとしています。

ちなみに、このイベントの直近で行われた米国大統領選挙。トランプ氏の当選のタイミングで、米国のSpireユーザーのストレスが最高潮に達したデータも披露しました。こうした社会的な話題や問題についても、敏感に反応を示すことがわかっています 。

Spireは日本のApple Storeで現在販売中です。

Le Toto / Rakish Tondon

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Le Totoは、購読型で洋服をレンタルすることができるサービスです。 創業者の妻の妊娠をきっかけにして、アイディアが浮かんだと言います。妊娠中に洋服を買っても、出産後には着られないものばかりになってしまいます。

様々な洋服を着たい、というファッションの社会的なニーズと、無駄にならず、自分に的確なモノを見つけ出したいという日々の悩みを解決するのが、Le Toteのミッションです。

Le Totoの強みは、ユーザーの洋服の好みやフィッティングに関する膨大なデータを持っている点です。Eコマースサイトは、自社ブランドと顧客の購買履歴などのデータは持っているが、ブランド横断的な顧客の好みを知っているわけではありません。

Le Totoのユーザーは平均100アイテムを受け取っています。色、素材、プリント、シルエット、スタイル、そしてフィッティングのあらゆる面で、顧客が何が気に入ったかというデータを持っています。さらに、顧客のサイズの変化までつぶさに把握している企業は他にありません。

ファッション企業であると同時に、テクノロジー企業でもある強みがここにあります。

Noom / Saeju Jeong

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Noomは、健康的な生活を作るためのサービスを提供しています。

生活習慣の改善やエクササイズの計画を立て、確実に実行に結びつける仕組みを提供しています。プログラム終了率は84%、減量成功者は64%にも上ります。

すでに4500万ダウンロードを実現しましたが、拡大の戦略は企業との連携にありました。肥満改善プログラムは、保険会社やデバイスメーカーによって活用され、を400倍に拡大させるきっかけを作ったのです。

同社の強みは、トレーナーによるコンサルテーション。現在1人で150人を管理することができる仕組みを実現していますが、今後は1人で500人の管理が行えるように改善していくとしています。

なお、日本でも2013年8月からサービスを展開しています。

Maestro / Ari Evans

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Maestroは、現在急成長中のライブ放送に関わるビジネスを最大化するサービスです。ビデオに対して様々な情報をオーバーレイとして表示、聴衆に次のアクションを起こさせます。

例えば、ビデオで注目すべき瞬間を表示したり、ユーザーからの投稿を表示しエンゲージメントを作るポイントを示します。

これまでは、ライブ配信をすることそのものが新しく、またユーザーとの新たな関係作りのきっかけを与えてくれました。Maestroは、これにビジネスモデルを与え、広告表示やゲームのデジタル課金、ファングッズなどの購買を促します。

もちろん、こうしたオーバーレイに対してユーザーがどのようなアクションを起こしたのか、という分析を行い、より効果を高めていく仕組みを提供しています。

Vidpresso / Randall Benett

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Vidpressoは、Vidpressoは、創業者のテレビやネットメディアにおいての第一線での経験を生かした、新たな付加価値を持つ配信サービスです。

Facebook Live向けの配信プラットホームは、世界最大のSNSのライブビデオ戦略への舵取りから急成長しています。

テレビ局での経験から、オンラインでのライブ放送に注目し、よりクオリティの高いビデオをいかに素早く、効果的に作るかを実現するサービスです。

例えば3分のビデオを作る際に、スタッフの人数や膨大な時間をかけてきたのがテレビの世界でした。これをいかに短く、かつオンラインらしい効果を狙うかが重要となります。

テレビの時代との大きな価値観の差は、ユーザーからのコメントも放送の一部として扱われるべき重要なコンテンツになったという点です。人々はインタラクションを求めているのです。

FacebookやPeriscopeは、初めからこうしたインタラクションを取り入れていますし、日本にはニコニコ動画やAbemaTVもあります。米国のテレビ局にも意識変革が起きており、我々のビジネスの源泉は、その放送の変化になります。

ウェブベースで簡単に挿入することができる、コメントやグラフィックス、ツイート、投票などの機能を映像に追加する我々のソリューションは、今後も伸びていきます。 例えばエンターテインメントやジャーナリズムといった、既存の親しまれているメディアの形に組み込まれ、変化を与え続けていくでしょう。

Placemeter / Alexandre Winter

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Placemeterは、我々が過ごす世界を、ビデオとコンピュータビジョンで価値づけていくサービスです。実世界のトラフィックや人々のトラッキングを、非常にレガシーなビデオカメラでも実現することができる点が、革命的です。

ビデオには非常にたくさんの情報があります。人、クルマ、自転車といった交通の種類から、その速度や量、色など、膨大な情報が含まれます。しかも、ウェブカム程度の画質でも、十分解析対象になり、世界中のカメラが利用できる点でスケーラビリティがあります。

例えば、米国ではニューヨークのあらゆる交差点のデータを採取して素早く分析することができました。これはインフラ整備や交通渋滞の改善に役立てる事ができます。

また東京・有楽町の無印良品の店舗にも試験的に導入され、入店や回遊に関するデータを取り始めています。自治体や当局、あるいは小売店は、人々がどのように動いており、どのようにその場所を利用しているか、すなわちリアルな場所とのエンゲージメントのデータを求めています。

ビーコンは、各個人を特定した動きを見つけることができますが、サンプルの少なさやスケールの問題から、現段階では有用とは言えません。

Placemeterが目指す世界は、リアルな街や店舗のデータを揃えることによって、
ウェブで行われているようなABテストによる最適化を実現することです。

今後は、スマートホーム分野で、我々の技術を活用して行く道を模索していくそうです。

まとめ:そしてシリコンバレーと日本 by 松村太郎@forks.tokyo

今回、Scrum Ventures Summitを取材して感じたことは、日本と米国の間にある、モバイル発展の方法の違いでした。

日本の携帯電話の発展は、通信会社が主導でした。ネットワークのインフラはもちろん、端末や、iモードを初めとするモバイルネットサービスとコンテンツ。ガラケーと揶揄されていますが、2011年当時は技術とサービスの面で10年進んでいたと振り返ることができます。

しかし、モバイルが成熟するにつれて手を広げてきた、金融や健康、住宅、そしてテレビなど、通信会社とかけ離れた領域のサービスは、ユーザーの反応も鈍く、出来映えも素晴らしいものではなくなっていました。

他方、米国を見ると、専門家が、プラットホーム化されたモバイルを駆使して、時には破壊的に、着実でモダンでスマートな世界を作り上げていました。Y Combinator出身の企業が登場した各セッションが印象的でした。

また、日本発のCVCが集まるセッションでは、「シリコンバレー進出」の意味を、正しく補正してくれました。

これまで、日本で「シリコンバレー進出」というと、現地オフィスを開設して米国向けのビジネスを開始する、あるいはシリコンバレーで起業する、といった意味合いで伝わっていたことがほとんどでした。あるいは日本にシリコンバレーを作ろう、という動きも過去にはありましたが、結果はご存じの通りです。

スタンフォード大学から日本を研究する櫛田健児氏は、「日本人は、シリコンバレーを日本から活用すべきだ」と指摘しています。その重要な方法として考えられるのが、日本企業によるシリコンバレー投資の加速ではないか、と感じました。

シリコンバレーの多様性ある魅力的な人材は、日本企業が既存のビジネスを世界に展開していく上で非常に重要であり、また非連続的な発展を手に入れるための方法を学ぶ上でも他にはない環境です。投資という活用方法は、より多くの日本企業が取り入れるべきでしょう。

その上で、日本の経済や社会の発展にどのように生かして行くかが重要となります。

既にモバイルプラットホームは米国企業によって制圧されてしまいました。よって、ハード面、ソフト面での発展の主導権は米国にあります。しかし、「モバイル社会での生活」や「モバイル文化」は、依然として日本人が10年のアドバンテージを保っています。

例えば、独自の非接触IC通信規格であるFeliCaでモバイル決済を10年前から実現してきました。iPhone 7がこれをサポートした瞬間、日本が、Apple Payが最も多くの場所で利用できる国になり、JR東日本のサーバがパンクするほどのSuicaの登録が押し寄せました。インフラと人々の経験、ともに揃っているのが日本なのです。

近い将来、世界の多くの企業が「日本は、ビジネスしやすい環境と、センスの良い消費者が揃っている国」であることに気づき始めるでしょう。同時に、そこで生じる新たな社会問題が発生する場所が、日本であり、東京になると思います。

新たな問題が日本で起きることが重要であり、それを日本で解決することがさらに重要なのです。

そのため、日本は、言語や規制の壁を取り払いながら、日本企業がシリコンバレーを活用したり、Y Combinator企業の日本に上陸を促すことで、初期環境を整えて行かなければなりません。

Scrum Venturesのシリコンバレー投資は、「問題解決大国・日本」を作り上げる大きな波を作る、主要な活動と位置づけることができるのです。

今後も、驚きを与えたり、確実に生活を変えるような企業への投資、そしてこうした企業の日本進出を支える活動に、期待しています。

[Scrum CEO Summit 2016 Report]
Vol.1 シリコンバレーにおける日本企業の投資活動
Vol.2  Yコンビネーター卒業生が語る「特別」の理由
Vol.3 Scrum Ventures投資先企業によるピッチ

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