スタートアップが切り開くスマートシティとウェルビーイングの未来[Scrum Open Inovation Day 2023 Report Vol.2]

December 22, 2023 イベントレポート

日本の大企業の中で、新規事業を運営していくポイントは?

世界各国のスタートアップと、日本の大企業を繋いで新たな共創を産み出していくScrum Studio。その取り組みの成果を発表するScrum Open Inovation Day 2023レポートの後編です。

<前編はこちら> スタートアップと日本企業の力を結集[Scrum Open Inovation Day 2023 Report Vol.1]

後半は、まず、特別セッションとして『ウェルビーイングと新規事業の結節点』のお話からスタート。

登壇された株式会社博報堂ミライの事業室長代理の堂上研氏は、社内でさまざまな新規事業に取り組んでいて、Well-BeingXにもスタート時から参加いただいています。さらに、ウェルビーイングの取り組みを紹介するメディア『Wellulu』も運営されています。守屋実氏は新規事業家。『守屋実事務所』として、さまざまな企業の新規事業創出のサポートをされています。

堂上さんは、これまで企業のビジネスでは『商売になりにくい』と思われがちだったウェルビーイングの領域を、いかにして一般の方に関心を持ってもらい、インセンティブを獲得し、企業が取り組める形に工夫していったか? についてお話されました。

大手企業の新規事業開発は、どうしても本腰が入っていなかったり、外部の人に任せきりになったり、外部の人が協力しているのに、内部的に進まなかったり、最悪、内部事情でプロジェクトが終わってしまったりしがちです。

お二人からは、どのように組織体制を変えていくか、どのように戦略設計をしていくかについて、失敗例や苦労した例を含めて、具体的にお話をうかがえました。第2創業に準ずるものなのか? 派生事業なのか? 飛び地のM&Aなのか、目的意識をしっかり持つことも大事だし、ちゃんと経営陣と新規事業の内容に関するプロ、そして起業のプロが三位一体で取り組んでいくことも大事だとお話しされました。非常に興味深いお話でした。

社会貢献を『時間』という単位で交換していくシステム

続いて登壇されたのは、Hourvillageの創業者兼CEOのAndy Mankiewicz, OBE氏。

Andy氏は、過去日本に20年間住んでいらっしゃったとのことで日本語も堪能。そこから温暖なシンガポールに移住して11年が経つそうです。

さまざまな上場企業、新興企業で働き、それらの取締役も務めた経験をお持ちで、日本にいる間に在日英国商工会議所の会頭や、在日欧州ビジネス評議会の理事も務めており、その功績が認められ2011年に大英帝国最優秀勲章(OBE)も叙勲されています。

AndyさんがHourvillageで実現しようとしているのは、誰もが平等に持っている資産『時間』を等価交換するシステムです。

たとえば、高齢者の生活のサポートを1時間行うことで、誰かに1時間英会話を教えてもらったり、ギターのレッスンを受けたりすることができます。

「1週間は168時間あります。50時間を仕事と15時間を携帯電話に、45時間を睡眠に費やすでしょう。となると残りは58時間しかありません。平均寿命まで生きるとして74万時間。でも睡眠時間や若い間の教育に費やす時間を差し引くと、30~35万時間しかありません。これは誰しも平等です。これを仕事のため、自分のため、家族のため、社会のために使うのは自分の最大の自由です」とAndy氏。

Hourvillageは時間という資産を有効に活用するシステム。人のために何かしたい……という人が、自分の時間を提供して人のために費やすことができるようになります。これは会社がCSRプラットフォームとして活用できるシステムでもあり、会社と社員が社会に貢献する、社員が社会によりコミットしている実感を得られるようにすることができる仕組みが設けられています。

Hourvillageはまずシンガポールで運用を開始しており、次に日本で展開を予定。すでにJT、品川区、ためまっぷ、明治学院大学、立正大学とパートナーシップを結んでいます。

より良く生きる。ウェルビーイングに広がる広大な領域

「もともと保険の会社なんですけど、我々はウェルビーイングの会社になろうと思っています」という大胆な切り口で話を始めたのは、住友生命保険相互会社、上席執行役員兼新規ビジネス企画部長の藤本宏樹氏。

きっかけになったのは、『健康増進型保険Vitality』なのだそうです。健康にいいことをすると、ポイントがたまってリワードをもらえる。保険会社としても、誰もが健康で長生きすると支払いが少なくて済むわけですから、人々の幸せな長生きこそが企業の目標という理想的な状態になるのです。

それをさらに進化させて、本業である保険を外した『Vitalityスマート』を月額330円のサービスとして提供。個人はもちろん、企業や自治体でも取り入れられているそうです。

そんな住友生命が取り組むプレコンセプションケアの一環として、ヘルスケア系スタートアップであるTRULYが取り扱う男性ホルモン検査キット『MENOPO CHECK FOR MEN』を社員向けの福利厚生として導入されるそうです。

男性にも『更年期』があることをご存知でしょうか?

男性の『更年期』は、あまり知られておらず、知っていてもチェックするのが不安、恥ずかしい……などの理由により認識している人自体が多くありません。

しかし、テストステロン量の減少は、単に日々の活力が減退するというのみならず、仕事への情熱の低下、疲れ、集中力の低下、鬱病の原因、性的な欲求の低下など、さまざまな影響を及ぼしています。その世代の男性となると、重要なポジションに就いている人が多いこともあり、更年期が原因の離職などによる経済損失は2100億円にのぼると言われています。

しかし、他の多くのヘルスケアの指標と同様に、きちんと数値化できれば対策もできるもの。筋トレや睡眠、タンパク質の摂取、日光浴、亜鉛やマグネシウムの摂取などで、対策は可能です。男性ホルモンを増やすと、バイタリティやモチベーションの向上、筋トレの効果アップなど、心身の健康に役立ちます。

知らずにいるより、きちんと測って対策をした方がいいということです。

また、住友生命はウィメンズ漢方とともに信頼できる専門家が伴走していくサービスを福利厚生として導入します。これまで、専門的にサポートできる医療機関が少なかった『女性特有の不調』に対して、ライフタイムを通じて生活の改善をサポートできるというわけです。

海外スタートアップが日本市場に参入する際の問題について語る

働き方や意思決定のスピード、組織を優先するか個人を優先するかなど、『日本企業の独自性』というものも見逃せません。我々が気付かなくても海外のスタートアップにとって、この日本企業の独自性というものが、非常に大きな障壁になっていることがあります。

これをいかに解消、打破するかについて、『海外スタートアップの日本展開、日本企業との事業共創のリアル』と題して、Notion Labs Japanのゼネラルマネジャー アジア太平洋地域担当である⻄ 勝清氏、Realtime RoboticsのBusiness Development担当VPである小林幸司氏のおふたりに話をお聞きしました。西氏は、シスコシステムズ、LinkedIn、WeWorkといった会社を経てNotionに。小林氏は、元ホンダのエンジニア。モデレーターはスクラムスタジオ代表取締役の高橋正巳です。

すでに日本市場にある程度参入していて、ワールドワイドでも非常に大きな企業となっているNotionと、これから日本に入ってこようとしているRealtime Roboticsではだいぶステージは違うところですが、それぞれ非常に参考になるお話がうかがえました。

スタートアップの技術を体験できる6つのブース

会場には、先にご紹介したLOOVIC、futto、MENOPO CHECK FOR MENを合わせて合計6つのブースを出展して、実際に進行中のプロジェクトをご覧いただきました。

Geopipeは、AIを使って非常に短期間で、都市のデジタルツインを作成するサービスです。

一般に公開されている写真や、レーザースキャンなどのデータを元に作成することもできますし、より正確で高密度なデータが必要であれば、市販されているデータを購入してそれをベースとすることもできます。従来であれば、それらのデータを元に年単位の時間をかけて作業する必要があったことを、AIの力を利用して情報を統合し、都市全体の3Dデータを1時間もかけずに生成できます。これは、都市計画の作成者、建築家、映画の背景の制作担当者、VRゲーム製作者にとって非常に便利な情報となります。Geopipeはオーダーに応じたデータを短時間で制作できます。

VMLは、スポーツ庁が推進する『スポーツオープンイノベーション推進事業』であるScrum Studioの『SPORTS INNOVATION STUDIO』の取り組みに基づいて、JAF(日本自動車連盟)が支援しているスタートアップです。

VR空間の中に、サーキットとレーシングマシンを構築し、その中で自動運転アルゴリズムの開発体験を行います。この空間内で、レースイベントも開催されており、中高生などが参加して、自動運転のアルゴリズムの開発を体験することができます。

VR空間内で、コース取りのプラン、アクセル、ステアリング制御を行い、画像から障害物回避のためのモデル予測制御をして、車載カメラ映像を元にした強化学習を行っていくことができます。より速く走るレーシングマシンを作ることで、AIや自動運転テクノロジーに強いエンジニアを育てることができるのです。

AugmentalのMouthPadは、舌でポインティングデバイスをコントロールするデバイスです。頚椎損傷の怪我を負った人など、首から上しか動かせない人のために開発されました。

センサーの中央に突起があって、これを基準に舌を動かすことで、舌先の操作でトラックパッドのようにカーソルを操作できます。身体が不自由で、これまでコンピュータの操作が不自由だった人にとっては、大きな可能性を開くデバイスになるでしょう。

2024年度は、さらに新たなスタジオを展開

壇上では、最後にScrum Studioのシニアディレクター上松真也から、Scrum Studioの来年の展開について発表させていただきました。

2024年度のWell-BeingXは『フード』『メンズヘルス』『フェムテック』『メンタルヘルス』『Agetech/Longevity』『Z世代』『インクルーシブ』『ジェネレーティブ AI』を注力カテゴリーとして扱っていく予定。

そして新たに、派生する事業共創プログラムとしてAgetech/Longevityに注力した『AgeTechX』の開始も発表させていただきました。すでに先行して、楽天生命保険株式会社、ロート製薬株式会社、株式会社博報堂などの企業が参加される予定となっています。

さらに、グリーン成長や、脱炭素社会を推進するグローバル事業共創プログラムを目指す『GreenX』、スポーツ庁とともに『スポーツ×オープンイノベーション』の方向性を模索する『SPORTS INNOVATION STUDIO』のスタートも発表しました。

300以上の参加スタートアップ、40以上のクライアント、7つの事業共創プログラムを稼働させ、オープンイノベーションの力で世の中のをより良くしていく、Scrum Studioのプログラムにぜひご参加下さい。

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