マイクロ化、インド進出、インドコピー : YC S19 Demo Day
二つのデモデー同時開催!
先月、8月21日からの一週間は、Scrum Venturesにとって、創業以来もっとも忙しい一週間でした。
今年一年間電通、パートナー企業、アドバイザー、メンターなど多くの方々のご協力のもと取り組んできた「スポーツテック」のグローバルプログラム、SPORTS TECH TOKYOのデモデーを、San FranciscoのMLBチーム Giantsの本拠地Oracle Parkで開催しました。

大きなスコアボードに、自分たちのロゴがデカデカと表示されるのはなかなか壮観です。
「メジャーリーグの球場を貸し切ってのイベント」というのは初めての取り組みでしたが、多くの関係者に世界中からお集まりいただき、無事開催することができました。
NHK、TBSなどのテレビニュース、TechCrunch、Bridge、日経XTrend、Engadget、時事通信、flick!、eiicon、など多くのメディアにも取り上げていただいておりますので、「スポーツ x テクノロジー」の未来にご興味のある方はぜひご覧ください。
そしてこの自社の一大イベントの会場と日程が決まった後で発表されたのが、毎回参加をしているY Combinator(YC)のデモデー。
野球場を丸ごと貸しきる予約の日程を動かすこともできる訳もなく、巨大な自社のDemo Dayを運営しながら、同じ日に200社弱のスタートアップのピッチを一気に聞き、投資検討をするという前代未聞の状況となってしまいました。
今回のポストでは、このY CombinatorのS19(2019年夏)バッチの特徴とScrumが注目した10のスタートアップを紹介します。
こちらは過去3年のデモデーのポストです。毎回その時々のトレンドが表れていて中々面白いのでこちらもご覧ください。
- (W19) 中国コピー、ピーターティール、大麻
- (S18) 拡大するバイオエコシステムとモビリティ革命
- (W18) DNAパーソナライズ、バイオAWS、Crypto、保険
- (S17) 進化するモビリティ、音声、医療
- (W17) 「AIの一般化」
まずは、冒頭で紹介された直近のデータから。

どの数字もすごいのですが、創業から15年で積み上げたポートフォリオの時価総額の合計が、去年過去最大となった米国のベンチャー投資額($130B)のトータルを上回っているということでしょうか。
インドでの募集イベント開催
昨年、初の海外進出として、BaiduのCOOだったQi LuをトップにYC Chinaを立ち上げたYCでしたが、今年はインドで初めて募集イベントを開催しました。
シリコンバレーを見回すとアメリカ人と同じかそれ以上にいる中国人、インド人にフォーカスするというのは自然な話ですが、実際に募集イベントまで開催するというのは中々大きな力の入れようです。
このグラフは、YCによる過去のインド発のスタートアップへの投資の推移ですが、過去3年で一気に増えていることがわかります。

また、前回、YCのバッチの中に中国のスタートアップのコピーが複数あって驚いたという内容を書いたのですが、今回はインドのスタートアップ、OYOのコピー(Kuarti : 南米向けOYO)がありました。
すでに中国、インドで大きな投資をしているソフトバンクが、中南米でのスタートアップ投資にさらに力を入れていくというニュースが昨日ありましたが、これからはさらにイノベーションのグローバル化がさらに進むということでしょう。
「マイクロ化」
今回のバッチに参加したスタートアップの全リストはこちらです(Day 1 / Day 2)。トータルは、174社で、前回(189社)とほぼ同等の数字です。
毎回見ているので「カテゴリー」と「業種」のトレンドを見てみます。

これは今回のバッチに参加したスタートアップのカテゴリーの分類ですが、ここ数回ほぼ変化はありません。

こちらは、今回と前回のバッチの業種の比較ですが、こちらも特に目立って言及すべきトレンドはありませんでした。
数年前にあったような「モビリティ」「AI」「バイオ」というような全く新しい業種トレンドというのはなかったというのが今回のバッチです。
そんな中、二日間スタートアップのプレゼンを聞いていて感じたのが「マイクロ化」というトレンドです。
Matagoraは、リアルな場で商品を販売したいブランドに店舗の一部を貸し出す「店舗Airbnb」です。この数年、D2Cブランドがリアル店舗を出すことを支援するLeapなどの業態が注目されてきましたが、Matagoraは「店舗」を「売り場」まで細分化してマッチングしています。
Simmerは、「レストラン単位」ではなく、「料理単位」でレビューが投稿できるレビューサイトです。これはゴーストレストラン、デリバリーというトレンドの中で、「どのレストランに行くか」ではなく「どの料理を頼むか」ということにニーズが高まっていることから生まれたサービスです。
Globeは、1時間単位で家をシェアできるAirbnbです。これまでは宿泊を前提として1日単位で家などをシェアするサービスが伸びてきましたが、昼寝、シャワー、仕事など細かいニーズに対応しようという視点です。
レストラン、小売店、など20世紀のインフラをベースにして設計された様々なサービスが、スマホというGPSデジタルデバイスの出現により一気に逆流したのがこの10年でした。
受け手となる消費者も提供される商材も十分な形でオンライン上に存在し、流動性が高まったことで、こうした「マイクロ化(=より小さな単位でマッチングする)」というトレンドが生まれつつあるのかもしれません。
より多くのデバイスが高速かつLatencyなくつながるIoT、5Gというようなインフラが進むことを考えると、「マイクロ化」というのはこれから5-10年で一気に進むトレンドなのかもしれません。
Scrumが注目する10社のスタートアップ
最後に、今回プレゼンをした174社の中で、注目をしておきたい10社のスタートアップをご紹介します。
1 : Matagora (売り場Airbnb)

まずはオンラインで創業し、ある程度のサイズになったタイミングでリアル店舗を出す。これは最近D2Cスタートアップの成功の定石となっています。弊社の投資先の女性下着D2CのThirdLoveも先日NYにリアル店舗をオープンしました。
Matagoraは、そうしたスタートアップに対して、一つのお店ではなく、お店の中の売り場の一部をAirbnb的に提供できるプラットフォームです。ある程度スケールすれば、お店としても面白い商品を仕入れるルートになる可能性があります。
2 : Simmer (料理レビュー)

ゴーストレストラン、デリバリー、キャッシュレス。1日に誰しもが3回お世話になる食事の領域では多くのイノベーションが起きています。
Simmerは、急増するフードデリバリーのトレンドに乗り、レストランではなく料理単位でのレビューが投稿できるプラットフォームを提供しています。
一つのお店から複数のメニューを頼むのではなく、前菜はこのレストラン、メインはここ、デザートはこのパティシエから、なんていうキュレーションデリバリーもそのうち実現しそうですね。
3 : Globe (1時間Airbnb)

Globeは、Airbnbのように「1日単位」ではなく、一般の住宅を1時間単位で貸し借りしようというサービス。
宿泊でなく、休憩、シャワー、仕事などより小さなニーズに対応しようというもの。ホテルでは、Dayuseなど同様のサービスがありますが、一般の住宅で果たして広がるのでしょうか。
4 : Revel (オンライン老人会)

多くのネットサービスは若者向けに作られていますが、インターネットの歴史が20年を超えた今、50代以上のネットユーザも大きなボリュームとなっています。
Revelは、50才以上の女性をターゲットにしたコミュニティサービスです。
月額$15の会員制で、ユーザが主催するピクニック、ファッション、写真、芸術、など様々なテーマの会に参加することができるようです。
5 : Talar (冷蔵庫デリバリ)

成長を続けるECの分野でも、さらに急成長を続ける生鮮食品のECの分野。YCの卒業生で弊社の投資先であるGrubmarketも、売上$150Mという規模まで成長し、先日$25Mの大型調達を発表しています。
Talarは、生鮮食品を箱に詰めて玄関まで届けるのではなく、スマートロックを活用することで、ユーザの自宅の冷蔵庫の中まで届けてくれるサービスです。
「自宅に勝手に入る」と聞くとギョッとする方もいるかもしれませんが、最大手の小売企業であるWalmartも今年の6月に同様のサービスを発表しています。もちろんその先には、2年前のCESでAmazonが語ったような「IoTコマース」の時代が待っています。
6 : Lumineye (災害救助レーダー)
犯罪や災害、そういった現場でも新しいテクノロジーは活躍の場を広げています。
Lumineyeは、壁や障害物の先にいる人を検知し、すぐに見つけることのできるレーダーを開発しています。災害などで倒壊した建物の中のどこに生存者がいるか、または誘拐、DVなどの現場でも活用が考えられています。
このSan Diegoの事例のように、ドローンなどの技術を犯罪捜査や消防活動の支援などに使う事例はかなり増えてきています。
7 : TrustedFor (LinkedIn 2.0)

投資のリファレンス、採用など様々な場面において、LinkedInは、今や我々の仕事に欠かせないものとなりました。ただ巨大なインフラとなった今、それぞれのつながりの重みや信頼関係まで理解するのは難しいというのが現状です。
TrustedForは、招待制で、スタートアップの創業者、VC、経営者などがお互いを評価し合うプラットフォームです。
スポーツの世界で、様々なMetricsが選手の移籍時などの評価のインフラとなったように、ビジネスの世界でも個人の力がよりクリアに可視化される時代がくるのでしょうか。
8 : Cloosive(バーチャルスタバ)

もう四年も前になりますが、弊社の三浦が日経に寄稿した米国のスタバの「事前オーダー」の仕組みは、今やそれをベースにした中国のLucking CoffeeがIPOするなど、世界の大きなトレンドとなっています。
Cloosiveは、小規模な珈琲店でも事前オーダーの仕組みを取り入れることができいるようにするプラットフォームです。
これもある意味マイクロ化の一つの在り方かもしれません。
9 : Tandem(Zoom2.0)

SlackやZoomなどのツールの出現は、多くのオフィスワーカーの生産性を劇的に向上させています。
Tandemは、「その次」を目指すツールで、Slackなどのツールから直接顔を見て話をしたいなという時にすぐに動画でコミュニケーションができるツールです。
数年前にトレンドとなった「VRの世界で業務をこなす」という世界はまだまだ随分と先になりそうですが、「同僚は画面の中にいる」という世界はすぐにやってきそうです。
10 : Sorting Robotics (AI仕分けロボット)

AIの中でも画像認識の進化はめざましく、医療など様々なアプリケーションで活用が進んでいます。
Sorting Roboticsは、画像認識とロボティクスの組み合わせにより、今アメリカで急成長している大麻の選別に活用を提案しています。仕入れた大麻の中から、「実の部分」と「枝の部分」を画像で見分け、それを空気をぶつけることで高速で仕分けていくというロボットです。
これは大麻に限らず、今でも人力を使っているであろう様々な仕分けの現場で使えそうな発想ではないでしょうか。