進化するモビリティ、音声、医療。Y Combinator S17のDemo Day。
先週は、半年に一回やってくる恒例行事、Y CombinatorのイベントDemo Dayの一週間でした。
Dropbox, Airbnb, Stripe, Instacartなど数多くのユニコーンを生み出しているインキュベータの夏のバッチに参加をしたスタートアップが、投資家の前で一斉にプレゼンをして資金調達をするイベントです。
過去のDemo Dayポストもご参考まで。
イベントは、現在Y CombinatorのアクセラレータプログラムのCEOをしているMichael Seibelの挨拶からスタートしましたが、その彼もたくさん登場するのがこの本です。
Y Combinator出身企業として最も有名なスタートアップの一つであるAirbnbの3人の創業メンバーが、創業直後に窮地に陥っていた時に、Michaelがメンタリングを行い、Y Combinatorに入るきっかけを作ったことが描かれています。
今や3兆円以上の時価総額となったスタートアップの創業ストーリーとしてものすごく面白いのですが、トップインキュベーターのY Combinatorやシリコンバレーの起業家コミュニティを知るうえでも非常に良い本なのでオススメします。
今回のポストでは、今回のY Combinatorのバッチ(S17)の特徴と注目企業について取り上げたいと思います。
プレゼン企業は124社
二日間で登壇した参加スタートアップはトータルで124社( 17社のメディア非公開企業含む。一日目の全リスト / 二日目の全リスト)でした。
前回は106社で、今回は少し多めですが、大体100-130社くらいという最近の傾向から大きな変化はありません。
参加企業を「カテゴリー」で分類すると下記のような感じで、このトレンドも大きな変化はありません。Saas 、サービス、ハードウェア系で大半を占めています。
一時期マーケットプレイス系が急増したのですが、今は落ち着いたかなという印象です。
YC S17のカテゴリー分布
次に「業種」で見てみると、今回のバッチで3社以上いた業種は以下の通りとなります。
YC S17の業種分布(3社以上のもの)
前回は、タイトルに「AIの一般化」とつけたほど、「Deep Learning」「Machine Learning」を押し出しているところがたくさんありましたが、今回はあっという間にそれを売りにする会社はいなくなりました。
今回は二日間を通して、「こんなのあるの?」と言うような全く新しいカテゴリーや業種のトレンドはありませんでしたが、医療 、モビリティ、音声など、この数年で大きなトレンドとなってきた重要カテゴリーが着実に進化をしてきたと言う印象です。
Scrumが注目する11社のスタートアップ
今回プレゼンをした124社の中で、注目をしておきたい11社のスタートアップをご紹介します。
1 : VIDA & Co. (オンデマンド製造ファッション)
「これからの小売を理解する20のキーワード」でも取り上げている、「ファッションのオンデマンド製造」に取り組むスタートアップ。基本無在庫のアパレルブランドです。世界中の10万人のアーティストのデザインから、好きなものを選び、スカーフやカバンなどに印刷、購入できます。
2 : Fat Lama(保険付きc2cレンタル)
これも最近のトレンドである「c2c」「レンタル」というキーワードの組み合わせに「保険」をつけた新しいサービス。DJ機材、ドローンなど高価だけどたまにしか使わない機材の貸し借りを、保険付きで安心して行えるマーケットプレイス。
3 : Standard Cognition(Amazon Go実現ソリューション)
WholeFoodsの買収が完了したAmazonのリアル戦略の次の一手であるAmazonGo。それと同様のレジなし店舗を実現するためのソリューションを提供する。動画はこちら。年内には店舗テストを開始すると言っていましたが、さてどうなりますか。
4 : Flock(クラウドセキュリティカメラ)
「AIとカメラがコモディティ化」したことが可能にした新しいセキュリティサービス。車のナンバープレート認識が可能なクラウドカメラをコミュニティ内に設置することで、近隣で起きる盗難などの犯罪を未然に防ぐことができる。
5 : PullRequest(クラウドデバッグ)
クラウドソーシングの「マイクロ化」と「オンデマンド化」のトレンド。自社のコードをレビューしてくれる専門家をオンデマンドで依頼することができる。コードに限らず、こうしたマイクロタスクのクラウドソーシングはますます増えそうです。
6 : AssemblyAI(音声API)
Amazon Alexaによってパンドラの箱が開けられ、次の標準インターフェースへと着々と進んでいる「音声インターフェース」。Amazon、Googleの軍門に降りたくない企業向けの、カスタマイズ可能な音声API。音声インターフェースは、「画面がない」と言う特徴からどのようなエコシステムが形成されるのかはまだ明確には見えていません。
7 : Dharma Labs(ブロックチェーンp2pレンディング)
企業やプロジェクトなどの新たな資金調達手段として大きく注目されているICO。大きな市場となったP2Pレンディングの世界にICOの仕組みを持ち込もうというスタートアップ。レンディングに限らず、今後セキュアでコストの低い仕組みとしてブロックチェーンや仮想通貨を活用したサービスはどんどん増えてくると考えられます。
8 : May Mobility(自動運転バス)
研究開発ではなく、一気にサービスを立ち上げようとしている自動運転スタートアップ。トヨタとFordで自動運転技術の研究を指揮していた人物らにより創業され、今年後半にはすでにデトロイトにおいて試験運用を開始する。実用化のフェーズに入ってきた自動運転モビリティサービス、注目しています。
9 : LifeBot(スマート音声ボット)
Alexaなどの音声インタフェース向けのボットは急速に増えていますが、多くのボットは継続して使わせることをに苦労していると言う実態があります。LifeBotは、日常的なスキルを一通り取り込んだ音声ボットで、リマインダーを送る、ニュースを聞く、スマホを探すなどが一つのスキルで実現できます。音声インターフェースが拡大する中で、何が「キラーボット」となるのかはこれからの注目です。
10 : Darmiyan(アルツハイマー薬)
MRIなどの画像診断は、確実に人の目よりもAIによる効果が出る領域。これは、症状がでる遥か手前から、アルツハイマーの兆候を発見できる技術。症状がでる5-15年前に検出できることもあるといい、まだ効果的な治療方法がないアルツハイマーの診断手法として期待ができそうです。
11 : Zendar (全天候レーダー)
自動運転の実用化にはまだまだ様々な障害があるのですが、その一つが天候です。現在多くの自動運転技術に使われているセンサーはLIDARですが、悪天候に非常に弱いと言う特徴があります。Zendarが開発しているレーダーは、悪天候下でも高解像度の周辺情報を測定することができるとしています。
改めて、参加企業の全リストはこちら(一日目の全リスト / 二日目の全リスト)です。自分のご興味のない領域からもいろんなヒントがあるはずです。ぜひ週末にでも眺めてください。