スタートアップからポストコロナを考える:YC W20 Demo Day

April 7, 2020 スクラム代表・宮田ブログ

いよいよ日本でも緊急事態宣言が出ましたね。

我々がシリコンバレーでこの三週間経験しているロックダウン(いわゆる外出禁止令。公園などの公共施設もほぼ閉鎖)とはだいぶ趣は異なるもののようですが、これでなんとか日本の新規感染者の増加傾向も落ち着くことを期待したいですね。

こちらでは、散歩に出かけてたまたま会った知人と近づいておしゃべりしていたら、警察に数万円の違反切符をその場で切られてしまうと言うほど厳重な外出禁止なので、本当に朝から晩まで一日中自宅にいる生活をしています。

月に1-2回日本などへ頻繁に出張をしながら生活をしていた時と比べると制限が大きいのは事実ですが、ミーティングを含めてほとんどの業務がオンラインにうつり、かつ移動時間が全くなくなったことで業務が捗っている面もあります

一方で、我々が投資やスタジオ業務で一緒に仕事をしているスタートアップの世界は本当に大きな影響を受けています

カテゴリ毎に明暗分かれるスタートアップ

まずロックダウン下で移動が制限されているということで大きな影響を受けているのが「モビリティ系」です。

Getaround(自家用車シェア)は利用者急減でいきなり身売り観測Bird(スクータシェア)は大規模レイオフ(30%)LIME(スクータシェア)は大幅ダウンラウンド(80%)と立て続けに厳しい状況がニュースで伝えられています。

「旅行系」も当然影響を受けていて、今年IPOと見られていたAirbnbがValuationを引き下げService(旅行予約)はすでにサービス閉鎖に追い込まれています。

「小売系」は、デリバリ需要が伸びているAmazonとInstacartがそれぞれ10万人30万人を新規に採用と生活必需品系は大幅に伸びている一方で、ファッションなどのカテゴリーは厳しい状況のようです。Walmartでは、リモートワークの伸びでトップスだけが売れ、ボトムスが売れないという珍現象も起きているようです。

上の写真はバイクシェアのWheelsがコロナ対策として発表したバイク用の除菌ハンドルですが、知らない人が使ったものをみんなでシェアすることを前提とした「シェア系」はこれから全般的に厳しくなりそうです。WeWorkのライバルKnotelも大規模レイオフを発表しました。

一方で、伸びているのがリモート時代の仕事や生活を支えるカテゴリです。

セキュリティの問題などが噴出してはいますが、ビデオ会議ツールのZoomは、利用者が一気に20倍の2億人へと成長しています。Notionというコラボレーションツールは、このタイミングで資金調達に成功し、一気にユニコーンへと駆け上がりました。会議、コラボレーション、電子署名などこの分野は一気に進化が進みそうです。個人的な期待ですが、ぜひ日本でもCartaのようなオンライン株券管理のサービスも広がって欲しいなと思っています。

みんな長時間自宅にいると言うことで、Netflix (利用急増でスピード制限)などの動画視聴や、Stream(2000万同時接続達成)などのゲームも一気に伸びています。またジムにも行けないと言うことで、自宅筋トレツールのTonalも、売り上げが3倍に伸びているそうです。

緊急事態宣言やロックダウンである程度は新規感染者数の伸びを抑えられたとしても、根本的な解決にはワクチンの開発を待つ必要があります。

これから少なくとも1-2年の間は、こうした形で人々の移動が制限され、リモートでの生活を前提として、ビジネスを新たに組み立てていく必要があると言うのが現状でしょう。

完全オンラインのみのYCデモデー

この写真は三年前のY Combinator (YC)のデモデーの写真です。

同じ場所に同時に集まり、エンジェルや投資家がトレンドや各社の状況を話しながら一気に投資を決めていくのがデモデーの醍醐味でした。

今年は残念ながら3/23に予定されていたYCのデモデーも当然オンラインのみでの開催となり、しかも急遽ビデオなしという味気ないものになりました。

以前のポストでも書きましたが、新型コロナ騒動のだいぶ前から、StanfordのStartXやAngelPadなどデモデーをオンライン化するアクセラレータもどんどん増えていました。これをきっかけにして、アクセラレータやデモデーも一気にオンライン化が進むような気がしています。

スタートアップ向けSaasそして建設業界

今回はデモデーもなく、かつビデオもなかったのでなかなか骨が折れました(=面白くない)が、一応全ての197社を見ました(全リストはこちら I / II

以下は、毎回見ている参加スタートアップ全体の「カテゴリー」と「業種」のトレンドです。

カテゴリーとしては、今回は、Saasの割合が非常に多いと言うのが特長でした(今回39% / 前回 25%)。

その中身を見ていると、全く新しいカテゴリーが生まれていると言うよりも、拡大するスタートアップをターゲットにした細かいSaasの会社(オプション税務デビットカード健康保険、その他開発ツールなど)がたくさんあった、と言う印象です。

市場規模的にはクエスチョンマークがつきそうなのですが、M&Aの可能性が高いので成立すると言う、シリコンバレーならではの事情があります。

こちらは、今回と前回のバッチの「業種」の比較です。

新しいトレンドと言う意味では、建設設計の自動化ツールを提供するPillarPlus、建設の入札自動化ツールを提供する1Build、など建設系が増えたと言うのが印象的でした。

建設業界は、これまで売上の1%しかテクノロジーに投資をしてこなかった業界なので、まだまだシンプルなDX含め、大いに伸び代がありそうです。

Scrumが注目する10社のスタートアップ

最後に、今回のY Combinator W20バッチの197社の中で、「ポストコロナ」に向けて注目をしておきたい10社のスタートアップをご紹介します。

1 : Healthlane

一つ目はHealthlane。「OneMedical for Africa」を名乗るアフリカのスタートアップです。

OneMedicalはご存知の方も多いと思いますが、昨年アメリカで上場した「スマートクリニック」のスタートアップです。年間$199のメンバーシップで、オンラインとオフラインの医療サービスが受けられます。企業契約が多いのが特徴で、株主でもあるGoogleが最大のクライアントです。

日本でもついに初診でもオンライン診療可能にというニュースが出ていましたが、医療は今後リモート化進むカテゴリーの一つでしょう。

弊社の投資先のスマートスキャン社も、日本でこのカテゴリーをリードするスタートアップの一社です(下に詳細な記載がありますが、今月開催する弊社のイベントTackle!でスマートスキャンの無料券が賞品になっています)。

2 : FitnessAI

次は、FitnessAI。「パーソナライズフィットネス」を提供するスタートアップです。

トレーニング進捗などのデータを見ながら、それぞれの筋トレプランを細かく作成してくれるアプリです。私も数年筋トレアプリを使ってトレーニングをしているのですが、確かにメニューがすぐにマンネリ化してくるので、今度試してみたいと思います。

昨年上場した「自宅でライブクラスが受けられるバイク」Pelotonはポストコロナ銘柄として注目されていますし、「自宅用スマートジム」Tonalは売り上げが一気に3倍に急成長と、「リモートトレーニング」もこれから注目のカテゴリーだと思います。

3 : Sayana

外出制限でDVが増加していると言うのがニュースになっていましたが、リモート生活で難しいのがメンタルの管理

Sayanaは、チャットベースのメンタル管理アプリを開発するスタートアップ。チャットをしながらパーソナライズされたセラピーが受けられるそうです。

このカテゴリでは、No.1のCalmがすでに4,000万ダウンロードでユニコーンとなっていますが、まだまだ成長しそうなカテゴリーです。

少しカテゴリは違いますが、弊社の投資先のVoiは独自のAIで「自殺の予兆」を見つけるAPIを様々な機関に提供しています。

4 : Trustle

Trustleは、オンライン経由で育児サポートが受けられるサービスです。

月額$50で、赤ちゃんの睡眠、好き嫌い、癇癪、など育児の悩みを担当の専門コーチといつでもチャットで相談できるというサービス。

これから数年は自宅に来てもらうタイプの家事手伝いなどは難しい状況になりそうですが、こうした「オンラインコーチ」のカテゴリーは育児に限らず、もっと伸びそうな分野です。Zoomなどのビデオ会議プラットフォームがオープン化するようなことがあれば、成長は加速されそうです。

弊社が投資している、ダイエットコーチのNoom、教育コーチのEmpowerly、いずれもこの環境下で伸びているスタートアップです。

5 : Edlyft

Edlyftは、オンラインのComputer Scienceの教育サービスです。

理系離れが進んでいるのは日本だけの話で、アメリカを含めて他の国では、文系理系を問わずComputer Scienceは人気の専攻です。

Edlyftは、そのComputer Scienceのクラスを、その専門の学生からオンラインで家庭教師をしてもらえるというサービスです。

日本では、なかなか進まないオンライン教育ですが、ぜひこれを機に、花開くといいなと思っています。

6 : Pilot

Pilotは、世界中に散らばる遠隔勤務者向けの従業員サポートサービスです。

今やシリコンバレーでは、給与水準の低い地域でエンジニアを確保すると言うのは一般的となっています。

法律や税務などが異なる国々での、給与支払い、福利厚生、法務対応など130カ国に対応に対応しているそうです。

厚労省の調査を見ると、まだまだ日本のリモートワーク普及は道半ばのようですが、将来日本でもこうしたサービスが必要になると言う期待も込めてピックアップします。

7 : Robotire

Robotireは、タイヤ交換の自動化ロボット(動画)です。

完全自動化とまでは行かないようですが、人間が不得意な部分をロボットが行うことで、4つのタイヤの交換を15分で行うことができると言うことです。すでに6箇所で稼働中とのことです。

ロボットや自動化は、時間短縮やコストセーブという視点で注目されてきましたが、これからは「人との接触を避ける」という視点で、レストラン、コンビニなどもっと普及が進む可能性があると思います(Social Distance by Robot)

日本市場でローソンの無人コンビニに活用されている投資先 Zippinの技術もさらに利用が広がれば良いなと考えています。

8 : Jamipfy

Jamiphyは、「ミュージシャン向けのTikTok」を謳うスタートアップです。

まだサービスをスタートしたばかりのようですが、ミュージシャンに特化して、自分の作品やパフォーマンスをシェアできるようになっています。

エンタメ業界もライブやイベントが行えず大きな影響を受けています。Lady Gagaがオンラインでのコンサートを行うことを発表したり、星野源がYouTubeでコラボ曲を発表したり新しい動きが出ています。「リモート環境でのエンタメ」という新しいジャンルは、これからまだまだいろんなサービスが出てきそうな気がします。

弊社の投資先 Maestroにも、ミュージシャン、レコードレーベル、eSports、教会、大学など様々な方々が、リモートでパフォーマンスをしたい、マネタイズしたいという要望が急増している様です。

9 : Glimpse

Glimpseは、友達とのビデオチャットアプリです。

ちょっとした隙間時間に、友達とその場でカジュアルにおしゃべりをしようという趣旨のようです。

リモートワーク中心になると、ビデオチャットなどで同僚などと頻繁にあってはいても、オフィスで起こる様な雑談はカジュアルなコミュニケーションは期待できません。「Zoom飲み」の様な新しいコミュニケーションも生まれつつありますが、「リモート環境でのカジュアルなコミュニケーション」というのは新しいテーマの様な気がします

今日、AppleがVR配信のスタートアップNextVRを買収したというニュースがありました。リモートコミュニケーションの普及の先に、VR/ARがあることは間違いありません。

10 : Genecis Bioindustries

Genecis Bioindustiresは、食品廃棄物から再生プラスティックを作るというスタートアップ(動画)です。

まだパイロット段階である様ですが、すでに食品の包装などの利用で$55MものLOIを獲得している様です。

しばらくはウィルスとの戦いが大きなテーマですが、こうした世界的な危機を経て、廃プラスティック問題、地球温暖化、など大きな社会問題にも再度光が当たるのではと期待しています

Tackle!もオンライン開催

これまで東京、サンフランシスコでそれぞれリアルなイベントとして開催してきましたTackle!イベントですが、今回は初めてオンライン開催します

このブログの内容に加えて、過去1ヶ月の注目スタートアップなどについてお話しします。

日本時間の来週の水曜日の朝、サンフランシスコ時間の火曜日の夕方、オンラインで開催しますので、ご興味あればぜひ

ディスカッションに貢献いただいた方には、スマートスキャン社の脳ドックの無料券があたります。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。まだまだ長い戦いが続きますが、皆さん健康にお過ごしください。

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