中国コピー、ピーターティール、大麻。YC W19 Demo Day
先週の月曜日と火曜日の二日間、初めてのSan Francisco開催となるY CombinatorのDemo Dayが開催されました。
これまでは同社があるMountain ViewのComputer History Museumの2Fで長らく行われてきましたが、今度彼らがSan Franciscoに移転をするということと、今回のBatchが過去最高の「200社超え」ということとで、より大きな会場(=だだっ広い)San Franciscoの埠頭、Pier 48で開催されました。
MLBのジャイアンツスタジアムの隣にあるPier48は、TechCrunch Disruptも行われている会場で海からの風でものすごい寒いことがあるのですが、今回は二日間とも割と穏やかな天気で助かりました。
今回ついに上場するAirbnbを含めて名だたるスタートアップを生み出し続けているY CombinatorのDemo Dayは、その時々の新しいトレンドを感じさせてくれます。
こちらは、過去三年の私のDemo Dayポストです。
- S18:拡大するバイオエコシステムとモビリティ革命。
- W18:「DNAパーソナライズ、バイオAWS、Crypto、保険」
- S17:「進化するモビリティ、音声、医療」
- W17:「AIの一般化」
- S16:「老人向けUBER、無人宅配便、農地A/Bテスト」
今回は、会場がSan Franciscoになったということも大きな変化でしたが、それ以外にも「3つの変化」を感じました。
その3つの変化と合わせて、Scrum Venturesが注目した10のスタートアップをご紹介します。
変化①:中国スタートアップのコピー
「Paypal for Africa」「Netflix for Mexico」「UBER for India」
これまでも、シリコンバレーで生み出されたモデルを海外の市場に適用するコピー戦略のスタートアップは、Y CombinatorのDemo Dayに数多く登場してきました。
今回驚いたのは「中国で生み出されたモデルをコピーするスタートアップ」が複数あったことです。
そのモデルになったのはPinduoduo。
昨年上場した中国のソーシャルショッピングのサービスです。
WeChat経由で友達を誘って一緒に購入すると、大きなディスカウントがあるという共同購買が核となっています。
今回Demo Dayに登壇した Friendshipは「Pinduoduo for beauty」、Caliiは「Pinduoduo for Latin Ameria」と、2つのスタートアップが同じPinduoduoのサービスを参考にしたと公言しています。
先日日経産業新聞の連載で「シリコンバレーにオフィス、時代遅れかも」というコラムを書きましたが、その中で紹介した統計(世界全体のVC投資シェアに対するシリコンバレーのシェアの急速な低下)を見ても、「イノベーション=シリコンバレー」と言えた時代は終わりが近づいているのかもしれません。
2017年に、中国で当時流行していたシェアリングバイクが、LIMEによってシリコンバレーに紹介された時に「ついに中国発のモデルがシリコンバレーに逆輸入される時代がきた」と感じましたが、その流れは今後どんどんと加速していくということでしょう。
変化②:スタンフォード卒ではなくティールフェロー
もう1つ、今回初めてだったのがFounderたちの経歴に「Thiel Fellowship」とあるスタートアップが多数あったことです。
Thiel Fellowshipは、ご存知の方も多いと思いますが、PayPalのFounderであり、Facebookの初期の投資家であるPeter Thielが設立したプログラムで「23才以下の若者で大学を辞めてプロダクトを作りたい人に$100,000提供する」というものです。
プログラムは大人気で、その合格率は、Stanfordの5%よりもはるかに低い1%以下と言われています。
これはTeamMobotという、「ロボットを使ってスマホアプリのテストを自動化する」というスタートアップのFounder, Eden Full Gohのプロフィールスライドですが、ドロップアウトした名門Princetonの横にThiel Fellowshipのロゴを誇らしげに載せていました。
Thiel Fellowship出身というと、大きな話題となった「カフェロボット」CafeXのFounder Henry Yuが記憶に新しいところです。
機械学習が勉強したいと思えば、小学生でもCourseraでAndy Ngの授業を簡単に受けられる時代、スマホ、5G、VRとプラットフォームも劇的に変わっていく中、従来のパスに乗って、大学、大学院と物理的に一箇所に集まって4年、6年かけてじっくりと知識、経験を積み重ねて行くというのは時代遅れになったということなのでしょう。
変化③:さらに広がる業種。エネルギー、大麻、不動産
今回、Demo Day初日「つまらなくなった」「わかりにくい」という声が多々聞かれ、途中で帰ってしまう、二日目には顔を出さない人も多くなかったようです。
それもそのはず、プレゼンした会社は189社(事前に200社を超えるという話をありましたが、Demo Day前に調達を終えた数社はプレゼンに出てこない)と過去最大規模であり、止むを得ずプレゼン会場は二箇所となり、全てを見ることは不可能という状況。
効率を考えたら、オフィスでビデオ参加(数分遅れますが、Demo Day参加者は全てのDemo Dayのビデオを見ることができます)した方がはるかに良いという状況でした。
それはさておき、今回Demo Dayでプレゼンした189社の「カテゴリー」と「業種」をまとめてみました。
まずは「カテゴリー」から。
Saas系(31%)、Service系(19%)が過半を占めるというのは、ここ数回変わらないトレンド。前回よりHWが少し増加(8%->12%)しましたが、目立った変化ではありませんでした。
次は、「業種」。
これは、今回のバッチで「3社以上いた業種」だけを抜き出して、前回と比較したグラフです。
今回大きく伸びたのが、「開発」「フード」「教育」「不動産」「モビリティ」。そして、前回まで全くなくて今回出てきたのが「エネルギー」と「大麻」です。
「エネルギー」は結構多様で、再生可能エネルギーのD2C Green Energy Exchange、EVチャージャーのシェアリング AmpUp、空気からガソリンを生成する Prometheusなど多種多様。業界知識や経験がないと取り組むのが容易ではなさそうな分野ですが、この業界もいよいよ変化が起きるという兆しなのかもしれません。
「大麻」は、大麻のコストコ Flower、 大麻の卸 Nabisなど、いずれも合法化され市場が急拡大する大麻ビジネスのゴールドラッシュに乗ろうとするスタートアップ。 大手のファンドを含めて「大麻(Cannabis)」というのは一気にバズワード化して大きなお金が流れ込んでいるので、引き続き盛り上がりそうなテーマです。
また今回、2社以下だった業種を並べてみると
- 量子コンピュータ
- 映像スタジオ
- ギャンブル
- Crypto
- 農業
- 船
- 政治
- 環境
- 本
- 材料
- 家具
などなど、まさに多種多様でした。
上述のエネルギー、大麻も含めて、とにかく「あらゆる業種」でDisruptionがおきているので、DemoDayとして見ると話がいろんな業種に飛ぶので、テーマとしてはどうしてもまとまりのない印象になりがちなのかもしれません。
今回、数という意味でも業種の広がりという意味でも過去最大規模となったY CombinatorのDemo Dayが、次回以降どうなっていくのか注目したいと思います。
Scrumが注目する10社のスタートアップ
最後に、今回プレゼンをした189社の中で、注目をしておきたい10社のスタートアップをご紹介します。
1 : Board (不動産現金買取)
昨年OpendoorにSoftBankが$400Mを出資するなど、盛り上がりを見せている不動産テック分野ですが、Boardは「住宅を全額キャッシュで購入できる」サービスです。住宅ローンはどうしてもプロセスに時間がかかるため、その手続きの間に別の人に先に契約されてしまうという状況が生まれてしまいます。Boardは、買主に代わって先に現金で不動産を購入し、ローンが成立した後に、引き渡すという仕組みになっています。
2 : Modern Labor(給料シェアトレーニング)
テック業界の拡大に伴って、テック人材の人材不足は深刻で、エンジニアの給与はどんどん上がっています。ModernLaborは、プログラミングを学びたい人に$10,000を提供し、その代わりに今後2年間の給与の15%を受け取るというサービスです。まだ始まったばかりですが、すでに1万人がWaitingしているということでした。
3 : Pulse Active Station Network(駅健康診断キオスク)
今急成長中のインドですが、まだまだ健康診断を受ける人は少なく、そのために命を落とす人も少なくないそうです。Pulse Active Station Networkは、「駅に置く健康診断キオスク」で、一回一ドルで21の健康チェックが行えるという仕組みです。日本でも多くの人が使う駅では様々なサービスが展開されていますが、インドならではと言える事業かもしれません。
4 : Middesk(取引先チェックAPI)
どこの世界でも取引先が潰れて支払いをしてもらえなかった、債権が回収できなかったというのはよくある話です。Middeskは、企業間取引のバックグラウンドチェックを行うAPIです。オンライン版、帝国データバンクというところでしょうか。UBERなど幅広く使われている個人版のバックグランドチェックAPI、Checkr (YC S14)のメンバーが立ち上げた会社です。
5 : Flower(大麻コストコ)
カリフォルニアを含む11の州で合法化された嗜好用の大麻。今、シリコンバレーを車で走っていると、他の広告に混じって大麻のネット通販の広告を多数見かけます。Flowerは、会員制のマリファナ通販で、年会費$100で格安大麻を販売しています。
6 : Green Energy Exchange(エネルギーD2C)
日本でもようやく小売の自由化が始まったエネルギー分野ですが、アメリカでは12の州で消費者が自分で何のエネルギーを使うかを選択できるようになっています。Green Energy Exchangeは、風力と太陽光のエネルギーを発電所から直接買取り消費者に届けるというサービスです。通常は複数いる中間業者を飛ばして、直接消費者と繋がるということです。FounderのPatrick Woodsonは、e-onという大手のエネルギー会社の元CEOという異色の経歴です。
7 : YourChoice (男性用避妊薬)
先月、YC S15の「コンドームサブスクリプション」のLが、P&Gに買収されました(途中でPivotして、今は生理用品がメインのようです)。金額もなかなかのサイズで、やはり定期的に消費するものはサブスクリプションに向きますね。YourChoiceは、精子の特定のタンパク質を殺す男性用避妊薬です。副作用はないとのことですが、まだ発売は未定ということです。
8 : Ravn(軍事用ARメガネ)
なかなかConsumer向けでPokemon Goに続くユースケースが出てこないAR。Ravnは、敵から隠れながらカメラなどを使って敵を見ることができるという軍隊用のARゴーグル。FounderのJake BullokはNavy Seal出身というなかなかハードコアなスタートアップ。
9 : FriendShop(米国版Pinduoduo)
前述の通り、Pinduoduoは、AlibabaやJDの中に割って入った中国で急成長のショッピングサービスです。FriendShopは、そのモデルを参考に、友人を誘って共同購入することでディスカウントが受けられるというサービスです。同様に中国発でシリコンバレーのシェアリングバイクの先駆者となったLIMEは、今は海外展開も果たすユニコーンとなりました。Pinduoduoクローンの今後も注目です。
10 : RCT Studio(インタラクティブ映画スタジオ)
二度目、三度目のYCというFounderは結構多いのですが、RCTのFounderのCheng LyuはYC W15のRavenというAIスタートアップのCEOで、2017年にBaiduに買収されて、また今回RCTを創業したということです。RCT Studioは、”Text to Render”というエンジンを提供しており、例えば「ソファに座っている男性」とテキストを入力するだけで、そのシーンの3Dモデルが生成されるというツールを提供しています。まだ非常にアーリーですが、多くの人手をかけて映画を製作しているハリウッドをテクノロジーでDisruptしたいということです。
プレゼン全スタートアップリストはこちら。Day1 / Day2
次回は、8月ですね。また面白い世界を変える技術を持ったスタートアップに会えるのを楽しみにしています。