未来が垣間見れるスタートアップのテクノロジー紹介[SCRUM CONNECT 2023 Report Vol.2]

March 3, 2023 イベントレポート

ひとつのモニターで、個々に必要な情報を提供するパラレル・リアリティ

続いては来日スタートアップの紹介という形でSTARTUP PITCHが行われました。最初のピッチは、パラレル・リアリティ技術を開発するMisapplied Sciencesの共同創業者兼CEOのAlbert Ng氏です。

Misapplied Sciencesのパラレル・リアリティは、見る人によって違うものが見えるディスプレイ。同じディスプレイを見ているのに、人によって違う映像が見せられるのです。

たとえば、従来、我々は空港のモニターで数多くの便の表示から、目を凝らして自分の乗る便を探さなければなりませんでした。しかし、このパラレル・リアリティを活用すれば、スマホでチェックインした人に、そのスマホの位置に合わせて、その人専用の映像を見せることができます。目を凝らして自分の便を探さなくても、巨大なスクリーンに自分の乗る便だけが大々的に表示されている……という状態を作り出すことができるのです。

絵空事のように思われるかもしれませんが、この技術はすでに実用化されていて、デルタ航空がデトロイト空港で実際に提供しています。デトロイト空港では、チェックインしたスマホを持って歩いている人には、その人の目指す搭乗ゲートへの行き方、フライト情報や登場時刻の変更などが表示されるのです。この技術は空港だけでなく、さまざまなところで役に立つでしょう。

たとえば、ホテルや病院などで、その人にだけ必要とするガイドを表示することができます。また、スタジアムではホーム側とアウェイ側に、それぞれの応援しているチームを中心としたリプレイ映像を流すということもできるでしょう。ショッピングモールなどの商業施設では、ターゲティング広告のようなことも可能かもしれません。同じディスプレイを見ていても、お母さんにはジュエリー売り場、お父さんにはゴルフクラブ売り場、お子さんにはオモチャ売り場への案内を表示するということも技術的には可能になります。

労働災害を減らすことで、大きな社会的損失を減らす

次に登壇したのは、CompScienceの共同創業者兼CEOのJosh Butler氏です。こちらのSTARTUP PITCHはもう少しシリアスなテーマ、労働環境における怪我、労働災害に関するお話です。

もちろん近年、どんな職場においても、昔よりは安全性に対する配慮が高まっているといってもいいでしょう。しかし、それでも世界で1年に大小合わせて3億4000万件の労働災害が発生しており、仕事中に230万人が亡くなっています。事故の確率は減っているとはいえ、それだけの数の悲劇が発生しているのです。

金銭に置き換えるのは憚られる側面もありますが、その経済的ロスは4兆円。これは世界のGDPのなんと5%に相当します。労働災害を減らすことができれば、この金銭的な損失も防ぐことができるのです。

CompScienceはAIによる画像解析で、労働災害が起こりそうな状態を検知し、それが発生する前にそのリスクを取り除くようにアラートを出すサービスです。労働災害には原因があり、わずかなキッカケでそれが表面化し災害が起こってしまいます。過去の災害の膨大なデータから、労働災害が起こりそうな状況を見つけ出し、事故が現実となる前に通知を出すことができるのです。

あらゆる国の、あらゆる産業で役に立つサービスだといえるでしょう。

無人店舗ソリューションを、すべての企業に提供する

2つ目のFIRESIDE CHATとしてZippinの共同創業者兼CEOであるKrishna Motukuri氏に『レジなし、人なし、未来の小売り。顧客エンゲージメントはどう変わる?』というテーマでお話しいただきました。Zippinは、欲しい商品を選んだら、ゲートを通ってお店から出るだけ。レジなし店舗ソリューションを提供しています。モデレーターは、Scrum VenturesのRyan Mendozaが務めました。

レジに並んだり、決済というステップがなければ、人々はより気軽に買い物を楽しめるようになります。また、決済のための行列も発生せず、スムースな買い物が可能になります。

Zippinのシステムを導入することで、売上が2倍になった店舗もあります。また、アメリカではスポーツスタジアムや空港などでも、続々導入されており、導入店舗は90店舗を超えています。大きな店舗全体を無人にするのではなく、一部のスペースにZippinを導入するモジュール型のZippinレーンであれば、大がかりな工事も必要なく、わずか1週間で設置可能です。

すでに、日本ではローソンと提携しており、一部のローソンの店舗では無人店舗が実現しています。

病気はアプリで治す時代到来

3つめのFIRESIDE CHATは、ヘッジホッグ・メドテックの川田裕美氏による『アプリで頭痛を治療する時代、SaMD最前線』。Scrum Venturesの黒田健介がモデレーターを務めました。

SaMD(サムディ)とは、Software as a Medical Deviceの略、つまり、『プログラム医療機器』のことです。

『アプリで病気が治る』ってどういうこと?と、思われるかもしれませんが、病気の多くは生活習慣と深く関わっています。そこで、身体に良くない習慣を抑制し、健康的な生活習慣を推進するように行動変容させるアプリを活用しようということです。たとえば、アプリのアドバイスに従って、早寝早起きするとか、決められた運動を行うとか、食生活を変化させるなど。

川田氏によると、重要なポイントはこのアプリが医師によって『処方できる』ということ。アプリストアで無料で配布しても、適切な人に利用が促進されるわけではありませんが、医師によって処方されることによって、適切な症状の人に利用を促進することができるのです。また、診療報酬にも反映されるので、医師が積極的に利用を促進してくれますし、アプリケーションの売上も立ちやすいというわけです。実際に、サービスを実現するには、こうした『仕組み化』も非常に重要なポイントです。

動物を殺さなくて済む、ヴィーガンレザー

続きましては来日スタートアップ紹介。植物由来のレザーやゴム素材を作っているNatural Fiber WeldingのSteve Zika氏がSTARTUP PITCHを行いました。

写真をご覧いただければ分かるように、どう見ても普通のレザーや素材に見えるのですが、これらの商品は、植物由来の素材や、鉱物(ミネラル)を組み合わされて作られています。動物を殺して皮をはがなくてもいいし、石油化学製品でもありません。

現在でもすでに、毛皮はもちろん、動物由来のレザーを避けヴィーガンレザーを選ぶ人は増えています。Natural Fiber Weldingの製品は、さらに石油資源を使わないエシカルなものとして、非常に高い評価を受けていますし、今後大きくニーズが高まるでしょう。

さらに、Steve Zika氏はこれらを可能な限り再生可能な製品にしようとしています。将来的に、これらの製品は適切な処理を行えば土に返る製品となるはずです。同社が理想としているのは、完全に再生可能な商品サイクルを作ることです。

すでに、ラルフローレン、ニューバランス、BMW、Hyundaiなどに製品を提供しており、Allbirdsのスニーカーは日本で購入可能です。

『スマホでお小遣い稼ぎ』すると、AIの性能が向上する

続いてのSTARTUP PITCHはBobidiの共同創業者兼CEOのJeong-Suh Choi氏。

さて、現在話題の機械学習の性能を上げるためには、大量の学習データが必要であることはみなさんもご存知だと思います。この学習データの質がAIの精度を大きく左右しますが、ネット上で安価で大量に手に入る学習データの質は、優れているとはいえません。

Bobidiは優れた学習データを集めるために、一般ユーザーの力を借りるサービスです。

我々一般ユーザーは、Bobidiのアプリをインストールして、出てくる問いに答えるだけ。たくさん回答すると報酬がもらえる。ユーザーはいつでもどこでもお小遣い稼ぎができて、Bobidiは優れたデータが得られるというわけです。

AIを進化させるためのデータの入手と、一般ユーザーのお小遣い稼ぎというふたつのニーズを見事に結び合わせたスタートアップだといえるでしょう。ちなみにBobidiは、ディズニー映画『シンデレラ』で魔法の歌で使われたビビディ・バビディ・ブー(Bibbidi-Bobbidi-Boo)のバビディに由来するそうです。

>> 次のレポートに続く
 
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