スタートアップと日本企業が強力なスクラムを組むために[SCRUM CONNECT 2023 Report Vol.3]

March 3, 2023 イベントレポート

VVでスポーツエンターテイメント体験が大きく進化

4つめのFIRESIDE CHATは、これからのエンターテイメントに欠かせない3Dビデオ制作のためのボリュメトリックビデオ(VV)技術のお話です。『最新VRエンタメ事情、これからのライブ、スポーツ、ゲーム体験』と題して、Arcturus(アークトゥルス)のCEO、Kamal Mistry氏に登壇いただきました。モデレーターは、Scrum VenturesのStephanie Simonが務めました。

VVとは、複数の視点からのカメラ映像を使って、ポリゴンベースの立体映像をリアルタイムで作る技術です。

例えばサッカー、ラグビー、バスケットボールなどのスポーツであれば、複数の方向からのカメラで撮影し、それらの映像を総合して、3Dデータを生成し、それをグラフィックとして視聴することができるようになります。

VVの精度が向上していけば、スポーツ観戦のスタイルが変わっていくでしょう。実際のスポーツ競技の映像を、ゲームの映像と同じように、視聴者が視点を選ぶことができるようになるのです。

一般的なスポーツ中継では、ボールがある場面しか放映されませんが、広い範囲を映して、ボールがない部分の選手の布陣などを観察することもできるでしょう。また、逆にコートやグラウンドの中に視線を移して、まるで選手のひとりであるかのような臨場感のある映像を楽しむこともできるでしょう。応援している選手がいれば、全体のゲームの動きに関係なく、その選手が何をしているかをずっと追いかけることもできます。

今回登壇したKamal Mistry氏は、PIXARで共同創業者と出会い、AUTO DESKで働いた経験も持っています。彼はAUTO DESKでは映画のキャラクターや背景を作っていました。そのあとNetflix、その次にUberでデータ解析の仕事をしていたのですが、ArcturusのVVに大きな可能性を感じて、ArcturusにChief Product Officerとして入社、そして現在はCEOの職についています。

VVの可能性はスポーツだけではありません。音楽のライブ映像なら、観客席はもちろん、ステージ上からライブを楽しむことができるようにもなりますし、3Dポリゴンデータの上に、光が飛び散ったり、スモークが焚かれたりするような特殊効果を加えることもできます。これからの映像表現にも大きな可能性を加える技術だといえるでしょう。

Arcturusは日本の細部にこだわるエンターテイメントとも相性が良いと感じており、ドコモ、楽天、クレッセントなどともすでに協力体制にあります。スポーツのアクシデントなどの解析も可能なので、ヘルスケア領域への可能性もあります。もちろんファッション、ゲーム、SNSなどの領域にも大きな可能性を感じています。

スポーツビジネスはまだまだアップデートできる

最後にふたつのPANEL DISCUSSIONを行いました。ひとつ目のテーマは、『新たなスポーツビジネスの形、 テクノロジーで変わる未来のスポーツ体験』。

登壇いただいたのは、三菱UFJ銀行 常務執行役員 営業本部長の尾藤大祐さん、テレビ朝日 スポーツ局スポーツ2部 プロデューサーの河本祐典さん、アトラエ代表取締役CEOの新居佳英さん。Scrum Venturesの宮田拓弥、そしてテレビ朝日の弘中綾香アナウンサーがWモデレーターを務めました。

三菱UFJ銀行の尾藤さんには、新たに始まったラグビーのリーグワンにおける取り組みについて、解説いただきました。

ラグビーは2015年ワールドカップでの南アフリカを破った活躍、2019年の日本開催でのベスト8進出などで大きくプレゼンスを向上させました。しかし、多くの人にとって、まだまだ身近なスポーツとはいえない状況にあります。

三菱UFJ銀行は単にリーグワンにスポンサーとして関わってるだけではなく、各チーム、他の各スポンサーとの事業共創に取り組んでいるのだそうです。

テレビ朝日の河本さんは、サッカーワールドカップのAbemaTVとの協力体制での放映についてお話くださいました。

みなさんご存知のように、2022年のFIFAワールドカップは、テレビ朝日とAbemaTV両方で放送されました。

従来だと、テレビでやってるのに、ネットでも流すなんてあり得ないことでしたが、うまく棲み分け、ネット上で詳細データや、解説を提供することで、それぞれの視聴者が加わったのはもちろん、メインの映像はテレビで見つつ、詳細データや解説はAbemaTVで見るという楽しみ方も生まれました。

食い合うのではなく、両方を盛り上げる相乗効果があったということです。

アトラエの新居さんは、千葉市をホームにする男子バスケットボールチームALTIRI CHIBAというB2バスケットボールチームを作ったお話をしてくださいました。

ALTIRI CHIBAはB2のチームながらトップチーム並みの監督、選手を招聘し、ファンを集め、エンターテイメントとして盛り上げることに注力したのだそうです。

アトラエ自体のマーケティングノウハウなども取り込んで、積極的に新しいスポーツチーム運営のカタチを作ろうと挑戦しているその姿勢は非常に新鮮なスタイルだといえるでしょう。

スポーツ領域において様々な側面からビジネスに取り組んでいるこのお三方と、次世代のスポーツ体験、スポーツビジネスについてお話ししました。

日本企業に、スタートアップの活力を注入する方法教えます

最後のPANEL DISCUSSIONのテーマは、『日本企業 x スタートアップ オープンイノベーションの現場から』。

登壇いただいたのは、住友生命保険相互会社 上席執行役員兼新規ビジネス企画部長の藤本宏樹さん、東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 ユニットリーダーの佐藤勲さん、三菱重工業株式会社 成長推進室事業開発部 次長の五味慎一郎さん。モデレーターは、スクラムスタジオの上松真也が務めました。

ご存知ように、3社とも日本を代表する大企業です。そして、大企業であるからこそ、新しいことにチャレンジがしにくかったり、意思決定のステップが多かったりという問題を抱えています。

その中で、大企業にイノベーションを起こすために、お三方がどのように苦労されたのか?工夫されたのか?などを教えていただきました。

大企業には大きな資本、人的資産、ノウハウなどがありますから、そこにスタートアップのチャレンジ精神、スピード感などが加わると大きな力を発揮できるのです。

参考記事: 三菱重工業、JR東日本、住友生命保険らが語るオープンイノベーション成功のカギ [CNET Japan]

最新技術に、触れられる!食べられる!

セッション会場横のホワイエには、16のデモブースが設けられ、さまざな展示が行われました。



特に、MindPortalの脳波でのデバイス操作の体験は、多くの人が列を作りました。また、ビデオ会議の背景にスライドを表示可能なmmhmmや、Natural Fiber Weldingの実際の商品の展示なども注目を集めました。

セッション終了後に行われた、夕方からの10周年記念のレセプションでは、Zero Acre Farmsが開発する微生物発酵で生成した油や、植物由来の新しい食材を使った料理など、最新フードテックを活用したユニークな食体験を皆さんにお楽しみいただきました。またTOKYO MIX CURRYの絶品ヘルシーカレーも大人気。地球にやさしく、美味しく、ヘルシーな食事を実際に食べられるのは、非常に貴重な経験だったと思います。

スタートアップと日本企業が強力なスクラムを組むために

3年ぶりのリアルイベントは、多くのスタートアップ、日本企業の方々、投資家の方々、そして我々Scrum Venturesグループのスタッフが顔を会わせて、フィジカルにコミュニケーションできる貴重な機会になりました。

国民一人あたりGDPの世界順位の低下など低迷の続く日本経済ですが、日本企業の持っている技術力、人材の豊富さ、資金力、研究開発能力などにはまだまだ素晴らしいものがあります。そこに、スタートアップの新しい視点、スピード感、チャレンジ精神などが加われば、大きな成果を生み出せます。

ラグビーのスクラムでは、個々の力も大切ですが、チームが強く肩を組み合ってバインドで密着し、息を合わせてひとつの方向に押すことで、体格の大きなチームにも押し勝てるといいます。Scrum Venturesグループも、挑戦するスタートアップに、投資家、日本の大企業、優れたメンターなどの力をバインドし、お互いにコミュニケーションを密接に取り、大きな力を発揮できるように、今後ともこのような機会を提供していきたいと考えています。

今回のSCRUM CONNECT 2023で得られた企業や、人の縁、絆を大切に、Scrum Venturesグループは次なる10年に向けて力強く進んでいきたいと考えています。

SCRUM CONNECT 2023 Report

SCRUM CONNECT 2023は、当日夜のテレビ東京WBSをはじめ、多くのメディアでご紹介いただきました。ありがとうございました。

 

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