ウェルビーイングの「今」を体感し、「明日」を共に創造する Scrum Well-Being Innovation Day 開催
ウェルビーイングビジネスの現在地
2024年12月5日(木)に「Scrum Well-Being Innovation Day」を開催しました。このイベントは、スクラムスタジオが2022年に開始したグローバル事業共創プログラム「Well-BeingX」の集大成となりました。パートナー企業、スタートアップの方々を始め、多くの皆様にご参加いただきました。ありがとうございました。
Well-BeingXでは、業種を超えた大企業とともに、一人ひとりのニーズに応じた「多様なウェルビーイングの実現」をテーマに、世界中のスタートアップと連携・事業共創を行ってきました。
当日は、ウェルビーイングビジネスの「今」を体感し、「明日」を共に創造する一日として、1年間の共創プロセスを含めた成果発表に加え、2022年からの3年間にわたるウェルビーイングビジネスのロードマップとディスカッション、成果発表などを実施しました。イベントを通じて、ここ数年でますます盛り上がりを見せるウェルビーイングビジネスの現在地と未来について考える良いきっかけとなりました。
バックキャストで今を考える
オープニングは、スクラムベンチャーズグループCOO 兼スクラムスタジオ 代表取締役である髙橋 正巳による開会挨拶およびバックキャスト的に現在、そして未来を考える必要性について話がありました。

高橋は、「アーリーステージを始めとする数多くのスタートアップの動向を見てきたからこそ、現在は世の中を予測することがより複雑化してきていると感じています」と語りました。また、「現在の点と点をつないで未来を予測するだけではなく、未来からバックキャストして俯瞰的に世の中を見ることによって、今後どのように社会が変わっていくのかを考える。それから、ウェルビーイングの本質を見直していくことが重要です」と述べました。
私たちは、未来を想像し、そこから逆算して今何をすべきなのか、またウェルビーイングはどのようにあるべきなのかを構想することが重要であると考えています。今後もスタートアップと大企業が繋がることによって生まれる新しいイノベーションに期待しています。
ウェルビーイングビジネスのロードマップから得た視座
続いて、「Well-BeingX」を通じて見えてきたウェルビーイングビジネスの整理およびロードマップについて、スクラムスタジオシニアアソシエイトの太田充が発表しました。

ウェルビーイングとは、全ての人間が身体的、精神的、社会的に健康な状態であることを指す言葉です。Well-BeingX では、このような社会の実現を目指し、各業界を代表する大企業と世界中のスタートアップが協働し、生活者の目線で価値の高いサービスやソリューションを開発することを目指してきました。
3年目となった今年の活動では、超長期的に未来を考え、社会ニーズを先取りするための未来予測理論である「SINIC理論」を元に、ロードマップの作成を行いました。その結果、Well-BeingXの定義する未来コンセプトは「多様な価値基準に基づき、一人ひとりが豊かさを求め、生きる歓びの大きな社会」となりました。
太田は、ウェルビーイングビジネスの今後について「ウェルネスという文脈だけではなく、①活力、②つながり、③共感をキーワードとした領域におけるウェルビーイングビジネスの発展が期待できます。ウェルビーイングを内包する社会にしていくためには、業種業態だけではなく、時間軸を意識した協業・事業共創による提供側のパラダイムシフトが必要です 」と語りました。
また、最後に「 “One to One から N to N へ”。 新しいウェルビーイングな未来の創造に向けて、それぞれが連携し合いながら、新しい形で価値を創造をしていくことに期待を寄せています」と今後のウェルビーイングビジネスに対する期待を述べました。
※ウェルビーイングビジネスのロードマップの詳細を知りたい方はこちらからお問い合わせください。
パネルディスカッション①:「ウェルビーイングビジネスのロードマップと、未来のウェルビーイングの姿」
このセッションには、ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長の立石 郁雄氏、住友生命保険相互会社 常務執行役員 兼 新規ビジネス企画部部長の藤本 宏樹氏、日本たばこ産業株式会社 D-LABディレクターの中井 博之氏が参加し、モデレーターはスクラムスタジオの今泉が務めました。

一つ目のディスカッションテーマは、「ウェルビーイングな社会を実現するための事業共創のチャンスはどのように創出されるのか」です。藤本氏は「オープンイノベーションは、大企業からスタートアップという間違った上下関係で考えるのではなく、大企業、スタートアップ、アカデミアなど、異なる組織が同じ立場で参画し、円を描いていくことが大事です。そのためには、大企業側の変化も求められています」と語りました。

また、「大企業における変化の1つとして「ウェルビーイングトランスフォーメーション」という言葉があります。自分たちの事業を、生活者のウェルビーイングの観点から見つめ直す。その際に生じる課題を解決するためにはスタートアップの技術が必要であり、そこに事業共創の機会が生まれます」と述べました。
さらに、「イノベーションには主観に捉われない他者の視点も必要です。自分にはない価値観に気付き、取り入れていくためには、「共感」や「繋がり」というキーワードを意識することが重要です」と締めくくりました。
中井氏は、スタートアップと協業する際に生じる大企業の課題はどうしたら解決できるのかという問いに対して、「メガネを外す、つまりアホになる。主観にとらわれず、さまざまな情報に触れ、多くのシグナルをキャッチすることで、共感や繋がりが生まれる可能性があります」と、価値観を広げるための考え方を話しました。

SINIC理論を提唱しているヒューマンルネッサンス研究所の立石氏は「Well-BeingXは、大企業とスタートアップの共創を未来から考えるという、他にはないイニシアチブ的なプログラムでした。SINIC理論は、自然と人間とテクノロジーが全て繋がる社会を想定しています。社会は紆余曲折しながら変遷していきますが、お互いのボーダーを超えて繋がることにより、新たな価値観が生まれるのではないでしょうか」とあらためてイノベーションを生み出す際の多様な組織や個人の繋がりの大事さについて言及しました。

パネルディスカッション②:「ウェルビーイング社会に必要なイノベーション・コミュニティのあり方」
このセッションでは、株式会社ECOTONE 代表取締役社長 堂上 研氏、経済産業省 イノベーション・環境局のイノベーション創出新事業推進課長 桑原 智隆氏が参加し、モデレーターはスクラムスタジオ VP of Co-Creation 上松が務めました。

初めに、以前スクラムスタジオでWell-BeingXに携わり、現在は経済産業省でスタートアップ政策をリードしている桑原氏に、現在の政策とイノベーションについてお聞きしました。

「スタートアップは、イノベーションの担い手、経済社会の構造改革を先駆ける存在でありGDPや雇用などマクロ経済にも一定のインパクト。こうした国マクロに加え、個人や地域のウェルビーイングの観点からもスタートアップの意義は注目されます。個人にとっては、自分らしい多様な生き方や転職の選択を含めた働き方、能力やスキルセットを発揮した挑戦を後押しします。また、多様な選択のある豊かな社会や地域のウェルビーイングな暮らしの実現にも貢献しうる。政府としては、これまでの「裾野」の拡大から、次は急成長を支える「高さ」の創出という上向きの成長と、裾野拡大の「継続」を広げてグローバル化を促進する横向きの成長の2軸で政策に取り組んでいます」
個人の自己実現の手段として、また多様なニーズに応えるためのサービスを提供する担い手としての2つの観点から、今後もスタートアップの存在意義は高まっていくことが期待されます。
次に、2024年10月に博報堂の企業内起業としてECOTONE社を立ち上げた堂上氏は、ウェルビーイングという言葉の広がりを感じるとともに、「スタートアップと大企業、世界と日本、都市と地域など、多様な人々が集まるところにイノベーションは起こります。そこにいるのは何かに挑戦している人々であり、ウェルビーイングな状態にあります。この共創と挑戦が繋がることによってウェルビーイングが起こるのです」と言及しました。

また、同氏は「ウェルビーイングの定義は人それぞれで良いと思います。異なるからこそ、利他的な思考が生まれ、関係性が生まれます。お互いがお互いを慮るという日本らしい意識を追求していくことがビジネスにつながるのではないかと考えています」と述べました。自分にとってのコンフォートゾーンを少しずつずらしながら、さまざまなコミュニティに所属してみる。そうした挑戦をし続けることの重要性についてもディスカッションされました。
ウェルビーイングを探求するスタートアップ「Wellulu」
続いて、株式会社ECOTONE 堂上氏より新規事業「Wellulu」についてご紹介いただきました。

同氏によると、ウェルビーイングの主語を考える際、日本では「企業」が取り組むウェルビーイングと、一人ひとりの「生活者」が望むウェルビーイングに分かれます。「全ての産業は「ウェルビーイングトランスフォーメーション」、つまり生活者の視点を取り入れていくことになると考えています。そのため、ウェルビーイングとビジネスを両立することがより良い共創社会を育んでいくのです」
Welluluは、一人ひとりのウェルビーイングに向き合ったメディアを提供することで人が集まり、そこに新たなビジネスが生まれるという、メディアを通じたコミュニティづくりをサポートしているスタートアップです。
「取り扱っているのはあくまでメディアである一方データを集める土壌であると考えています。今後は得られたデータを元に事業を展開していきます」と語りました。
「未来のウェルビーイング」が感じられるスタートアップの紹介
当日は、MISOVATION 斉藤氏、Bechill 渡辺氏にご来場いただき、ウェルビーイングなフードとドリンクを提供いただきました。
Misovationは、日本の食を通じて世界に誇れるイノベーションを起こすことを目指しているフードテックスタートアップです。日本食の中でも特に発酵技術、味噌に注目し、日本の文化遺産である味噌蔵や発酵技術を守りつつ、健康的な生活が当たり前になるプロダクトを生み出しています。

Bechillは、ストレス社会で生きる人々にリラクゼーションドリンクを提供しているスタートアップです。CBDを活用したプロダクト開発を経て、11月には新たにキウイフレーバーの微炭酸リラクゼーションドリンクをローンチしました。幸福感セロトニンの元になる成分を配合しており、ストレス感を抱える女性をメインターゲットにしたソフトドリンクとなっています。

ウェルビーイングビジネスの追求は「究極の顧客価値創造への挑戦」
本年で3年目を迎えたWell-BeingXについて、スクラムスタジオのプログラムマネージャー 渡部優也が総括しました。

「Well-BeingXは、一人ひとりのニーズに応じた「多様なウェルビーイングの実現」を目指す事業共創プログラムというテーマを掲げています。開始から3年を経て、「どのようなウェルビーイングを提供していくか」から、「誰のためのウェルビーイングを実現するか」という考え方に辿り着きました」
Well-BeingXでは、これまで定期的なパートナーミーティングや姉妹プログラムである「AgeTechX」との共同コンテンツ運営、スタートアップとの交流会であるMeetup!、ワークショップなどを通じて理解を深め、どのようなビジネスができるのかを考える機会を設けてきました。
「誰の、どのようなウェルビーイングを、どのようにして実現するのかという問いは、ウェルビーイングに限った話ではなく、どんなビジネスにも必要な観点です。つまり、ウェルビーイングビジネスの実現を考えることは、究極の顧客価値創造の挑戦と言えます」
最後は「プログラム終了後も、ウェルビーイング共創社会の創出を目指す仲間と新たにビジネスを作る機会を期待し、未来を見ながら事業を作っていきたいです」と締めくくりました。
東京・八重洲に実装される、驚くべきウェルビーイングサービス
Well-BeingXを通じて世の中に発信された成果について、東京建物株式会社都市開発事業第一部 八重洲一丁目東プロジェクト推進室 Well-Being Lab.沢俊和氏に発表いただきました。

東京建物が手掛ける八重洲プロジェクトでは、ハードだけではなくソフトも作り込むことを掲げています。ソフトの価値となっているのは「ウェルビーイング」です。「従業員のウェルビーイングを追求していくことが、人的資本経営強化に必要ではないか」という仮説のもと、プロジェクトが推進されています。
プロジェクトを進めるにあたり、従業員のウェルビーイングに関する数値を測るための要素を特定することから始めました。「ウェルビーイングは簡単に測定できません。先行研究を参照し、外部指標も参考にした上で、結果的にウェルビーイングな状態になるための要素について、多様性を考慮しながら共通する項目を特定したことにより、ウェルビーイング向上のための項目を決めることができました」と語りました。
加えて、東京建物が特定した「ウェルビーイングを高める要素」に関連したWell-BeingXを通じてのスタートアップとの連携事例について報告しました。
①LeFuro、Upmind
LeFuro社と日本各地の温泉を都心のオフィスで体験できる「喫泉室」の整備を行い、またUpmind社と協業して瞑想やヨガ等のプログラムを通じたマインドフルネスの習慣化をサポートするプログラムの実施を検討しています。
東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業 高層ラウンジの整備決定、湯治体験や瞑想をオフィスで ウェルビーイング向上に寄与する施設導入、新たな働き方提案
②TeaRoom、secca inc
TeaRoom社、secca inc.社と協業し、急須で入れたお茶と同等の風味と香りを楽しめる本格的なお茶をボタンひとつでオフィスにて楽しめる等の「オフィスで茶の間」サービスの実施も決定しています。
お茶を通じたワーカーのウェルビーイング向上支援サービス 「オフィスで茶の間」八重洲プロジェクトに導入決定 お茶用マイボトル提供により年間約1tの廃棄物削減にも貢献 | 東京建物株式会社
同氏は、「ウェルビーイングを向上させるための方法は一つではありません。多くのスタートアップと協業する中で、彼らが持っている技術とオフィス環境の互換性を考えるところに課題がありました」と語りつつ、オフィスで人と人が繋がる空間の創出に注力してきました。
社会に「まだ見ぬ価値」を届けるために
イベントのクロージングとして、スクラムスタジオ VP of Co-Creation上松 真也が登壇しました。

「Well-BeingXは「ウェルビーイングとは?」という問いから始まったプログラムです。ビジネスとしてテーマにするにはまだ早すぎるのではないかと思うこともありましたが、当社は10年、20年先に来る社会を予測するVCです。まだ定着していなかったウェルビーイングをベースに、3年前から取り組む中で出会った皆様と、これからもウェルビーイングや今後の新たなトレンドにも取り組み続けていきたいと思います」とイベントを締めくくりました。

文=柿澤美結 編集=渡部優也/スクラムスタジオ