経産省から飛び出して、作りたい『日本版スタートアップエコシステム』――上松真也 [Staff Interview]

January 17, 2023 スタッフインタビュー

Scrum Studioで、グローバル・オープンイノベーション・プログラムの運営全体を統括する上松真也は、経産省官僚というキャリアを投げ打ってScrum Studioに参画した俊英。サンディエゴ留学中、三重県庁出向中はもちろん、経産省時代から一貫して追求しているのは『1人でも多くの人が努力できる社会』に貢献すること。若くして、さまざまな場所で経験を積んできた上松真也が、Scrum Studioで目指すものとは?

プログラム全体を統括するシニアマネージャー

まずは、上松さんがScrum Studioで何をやってらっしゃるかを教えて下さい。

Scrum Studioでは、『スマートシティ』や『ウェルビーイング』などのテーマを設けて、国内外のスタートアップと日本の大企業との事業共創を進めています。

街づくりをテーマにしたSmartCityXは、コロナショックによる社会変容を前向きな未来への変革の機会と捉えて動き始めたプログラムで、既に様々な実績を生み出し始めています。Well-BeingXは先日、最初の成果発表会を行いましたが、個人の健康や幸福をテーマにしたプログラムです。ウェルビーイングというとまだ抽象的なテーマですが、女性の健康を対象としたフェムテックや高齢者向けのサービスなど、これからの成長が非常に期待される分野です。

その他にもカーボンニュートラルやスポーツをテーマにしたプログラムを検討しており、それら全体を統括するシニアダイレクターとして仕事をしています。

Scrumとの関わりは、前職で三重県庁という地方自治体側としてSmartCityXに関わったことがきっかけです。公務員を退職してから、引き続き縁があり、SmartCityXやWell-BeingXなども含め、全体統括する立場でジョインするということになりました。

軌道に乗りつつあるSmartCityX

現在、取り組んでいることは?

このグローバル・オープンイノベーション・プログラムを、いかに発展させるかということですね。

日本の大企業と国内外のスタートアップをマッチングし、そこに実証に協力してくれる地方自治体も加えて事業共創の機会を作るというプログラムはあまりありませんでしたから、現在のプログラムは非常に特殊かつ価値あるものと考えています。

実際に、SmartCityXではこうした座組から成果が生まれています。具体的にいうと、私が三重県庁にいる時に、地方自治体側として関わった出光興産とスマートスキャンが協力したプロジェクトがあります。

スマートスキャンは、誰もが高度医療機器による健診・検診を受診しやすい環境を整備すべく、「スマート脳ドック」をはじめとする各種検査サービスを提供しているスタートアップです(スクラムベンチャーズ投資先)。

一方で出光興産は、今後ニーズが低下していくガソリンスタンドという資産をどう活用するかという課題を抱えていました。少子高齢化に伴う人口減少や、EVやハイブリッドカーの普及により、ガソリンスタンドへのニーズは低下していくことが予想されます。出光興産では、そのガソリンスタンドをそれぞれのまちの人と豊かなくらしをサポートする生活支援基地へ変革させる『スマートよろずや構想』が進んでいます。

その提供サービスの1つとして、出光興産のガソリンスタンドで、スマートスキャンのMRIサービスを提供する新規事業が発案されました。

私が勤めていた三重県は、都市部から地方部までさまざまな課題を抱えていました。三重県はクルマがないと成り立たない社会です。ガソリンスタンドが減る傾向にあることは三重県にとっても大きな課題と考えられましたし、また、コロナ禍で多くの人が病院に行くことを控えてしまっていたことも当時は大きな問題でした。そのため、三重県としても本新規事業に協力し、実証場所の調整や関係者の巻き込みなどを行いました。

出光興産、スマートスキャン、三重県でそれぞれの課題感や強みがうまく一致し、組み合わさったことで、本事業は三重県で成功し、その後全国展開されることになりました。

こういった成功事例を増やし、横展開することで、Scrum Studioの事業全体を発展させていくとともに、「大企業×国内外スタートアップ」によるイノベーションを1つでも増やしていくことが今の私の仕事です。

草の根から、中央官庁に

先ほど、経産省にお勤めで、三重県庁にもいらっしゃったというお話でしたが、これまでの経歴を教えて下さい。

神奈川県横浜市出身です。小学校からずっと地元の公立校で、サッカーと勉強を両立していました。サッカーでのレギュラー争いや受験勉強を通じて、どのような環境であっても、目標に向かって努力し続けることで自己実現が可能であることを学びました。

一方で周囲を見渡すと、努力するための機会平等が担保されていないことも痛感しました。私の周囲には、家庭環境に恵まれず、自分がやりたいサッカーや学びたい勉強が十分にできない友人がたくさんいるような状況でしたが、自分にとってそれが「普通」の環境でした。

日本のような先進国においても、いまだに機会平等が達成されていない現実に直面し、こういう草の根の部分を知っている自分だからこそ、社会のためになる仕事をすべきだと、パブリックマインドが一層強くなりました。このような原体験から、個々が努力できる環境を整えつつ、その努力がしっかりと評価され、正当に反映される社会をつくりたいと思い、社会制度設計の根幹を担う官僚の世界を志しました。

こうした思いのもと、経済・金融の側面から、マクロスケールで社会を良くする仕組みを学び体現するために、東京大学経済学部に進学・卒業して、経済産業省に入省しました。

入省後のキャリアとしては、まず、東日本大震災直後の資源エネルギー庁にて、主に省エネルギーや再生可能エネルギーの推進を担当しました。その後、大臣官房では行政改革や政府法人制度改革を担当しました。次の部署では情報政策やサイバーセキュリティ政策も担当し、この時期に政策面から起業家育成やスタートアップ支援に関わりました。様々な政策を担当しましたが、一貫して社会に1人でも努力する人が増えるよう、制度設計の過程で、そのようなインセンティブを組み込むことは常に意識していました。

経済産業省時代

サンディエゴでベンチャーアクセラレーターを経験

その後、2年間、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴに留学し、公共政策学修士を取りました。サンディエゴはIT・ライフサイエンスが強い土地で、留学中に現地のベンチャーアクセラレータのCONNECTで仕事をし、はじめて本場のスタートアップエコシステムというものに触れました。

サンディエゴは、40年ぐらい前までは、企業誘致にばかり力を入れていて、地場産業がなく、経済が冷え込んでいたそうです。そこで、約40年かけてスタートアップエコシステムを作り上げ、産業育成に注力し、今ではライフサイエンス分野においては、シリコンバレーやボストンと並ぶ著名なエリアとなっています。

サンディエゴでの留学経験を通じて、この経済再生モデルは、日本で活力を失いかけている地方の現場でも応用可能ではないかと考え、日本の地方自治体でチャレンジしてみたいという思いを持つようになりました。

サンディエゴ留学中、CONNECTのオフィスにて

帰国後は、幸いにして三重県庁への出向機会を得ることができ、留学時に抱いた思いを持って、三重県で約2年間の実務経験を積みました。日本の地方からスタートアップエコシステムを作ることに挑戦したいという思いもありましたし、それだけでなく、中央官庁にいるよりも地方自治体で尖った事例を作って、それを横展開したり霞が関に働きかけたりした方が、世の中を変えやすいと信じ、限られた期間の中で最大限のパフォーマンスが出せるよう努力しました。

行ってみて良かったことは、三重県はまさに日本の縮図のような場所だったことです。北は製造業が発展していて名古屋や大阪、京都と繋がる経済圏があり、伊勢志摩に行くと観光産業が盛んで、もっと南に行くと一次産業が中心で過疎などが問題になっている。さらに離島があって、島に住んでいる人もいる。南北に長くて、グラデーションがあるというのも、まさに日本の縮図でした。日本の課題や、良いことが凝縮されている。課題もあるけど、よく見ると、伊勢神宮があって、鈴鹿サーキットがあって、忍者というコンテンツもあって、グローバルに通じる要素もいっぱいあるんです。

そこで中小企業政策全体を担当する課長として、従来までの企業誘致という手法では立ち行かないと考え、また、留学時に学んだ知見やネットワークを社会に還元する趣旨で、新規事業政策を推進していました。三重県発のスタートアップは多くないので、中小企業の第二創業含めた支援政策や、『空飛ぶクルマ』のような将来の交通インフラの形を大きく変える尖った政策の推進もしていました。2年間という限られた期間でしたが、県外で成功した三重県出身起業家が三重に戻って新規事業を立ち上げてくれたり、三重ゆかりの起業家や企業人が横で繋がってくれたりと、エコシステムの種のようなものは作れたのではないかと思います。

Scrum Studioで、尖った事案を実現することで世の中を変えたい

留学、出向を含め、10年間経産省にいたわけですが、なぜそれをやめてScrum Studioに入ったのですか?

スタートアップ支援やイノベーション推進というところに、自分の力を注ぎたかったからです。もちろん、経産省でもできるのですが、経産省の所掌は広いので、配属された場所によってはスタートアップに関わっていられなくなります。加えて、CONNECTや三重県の仕事をして、より現場に近いところで仕事をした方がいいなと思ったこともあります。国家公務員のように大局観を持ちながら、海外や地方の現場と繋がって尖った事例を作っていくことに今は強いモチベーションがあります。

実際、三重県で自分が立上げたプロジェクトが、他の地方自治体にも真似してもらえる実例を知り、現場で小さくてもひとつ尖った事例を作った方が、世の中を変えていけるのではないかと思うようになりました。そこで、スタートアップエコシステムやイノベーションが日本よりも進んだシリコンバレーと強い結びつきがあり、それをベースとして「国内外スタートアップ×大企業×自治体」の事業共創をサポートするScrum Studioで頑張ってみようと思ったんです。

また、Scrumでは自分と同じような志や熱意を持って、未開のビジネスやサービスの実現を本気で目指している経営陣やスタッフと出会えたことも大きかったと思います。このメンバーと共創することで今度は「民」の立場から、社会に大きなインパクトを与える仕事をしたいと考えました。

『世の中を変えていこう』と思ってらっしゃるという意味では、ずっと変わらないんですね。

そうですね。抽象的ではありますが、自分の半歩先でも良いので誰もが前を目指して頑張ることができ、その努力が報われる社会を作りたい、というのがずっと自分の根底にあります。日本は成熟した先進国で、ミクロ視点で足元だけを見れば、多くの努力をしなくても、衣食住が確保され、欲しいものが手に入り、ある程度幸せに暮らしていける国だと思います。しかし、マクロ視点で見れば、今より努力する個人が減っていく国はだんだんと衰退していき、中長期的には当たり前の幸せも享受できない国になってしまうのではないかという危機感があります。

様々なコミュニティに属してきた個人としてこれまでを振り返ってみても、仕事でも勉強でもスポーツでもどんなジャンルにおいても、自分の今いる場所から半歩先でもいいので前を目指して努力する人は素晴らしいと思います。人生の中でそうした人とできる限り多く出会いたいと思いますし、そういった人が多い社会はより豊かになっていくと思います。

ビジネスの現場において、今、そういった人が多く集まっているのがスタートアップ業界であり、新規事業開発関係だと思います。

小さなものであっても、少しでも自分のサポートで成功事例が生まれ、1人でも努力する人が社会に増えることに貢献出来たら嬉しく思います。

SmartCityXは、3年目を迎え先行事例になりつつあります。今後の他のプログラムの目標になっていくと思います。

Well-BeingXはテーマとしては究極ですよね。健康で幸福な人生って、誰にとっても重要で一生ついて回るテーマだと思います。

そして、カーボンニュートラルに関するプログラムですが、自分はもともとキャリアの始まりが経済産業省の資源エネルギー庁なので、元に戻ってきた感じがあるというか、もともと自分にとって大切なテーマなので、これもとても楽しみです。

これらのプログラムを通じて、さまざまなスタートアップ、大企業、自治体などの皆さんと連携させていただきながら、日本をより良い社会へと変えていきたいですね。

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