SmartCityXで実現する、大企業のアセットとスタートアップのスピード感の融合—宇都宮沙織 [Staff Interview]
SmartCityXのプログラムマネージャーとして、『未来のまち』を共創するグローバル事業共創プログラムを推進。日本の各業界を代表する大企業と、世界中のスタートアップを繋ぎ、新規事業創成の機会を提供している。Scrum Studioに入社前は、日本航空のカスタマーエクスペリエンス本部にて、データやデジタルを活用したサービス企画を担当。コロナ禍ではワクチンパスポート・デジタル証明書の開始にあたりスタートアップのサービス導入を牽引した。
未来の『まち』を作り出す事業共創プログラム『SmartCityX』
宇都宮さんが、Scrum Studioで取り組んでいることについて教えて下さい。
SmartCityXのプログラムマネージャーとして、1年間のプログラム設計企画からパートナー企業様への営業、実際のオペレーションを担っています。1年間のプログラムを通してご参加いただいたパートナー企業様やスタートアップ各社が事業成果を生み出すことを目標に、日々伴走しております。
現在、10社の大企業と自治体、スタートアップの方々と一緒に取り組んでいます。『1年で何が達成できるか?』というところから逆算して仕事を進めるのが私の役目です。今は、ひと月に2回ほど、みなさんにテーマごとに集まっていただいてミーティングを行っています。
全体を4つのテーマに分割して議論を推進しており、それぞれのテーマで月2回、約2時間、じっくり膝詰めでディスカッションをしています。
大企業の抱える社会課題を解決するために
現在参加されている10社とは?
日本航空、スズキ自動車、JR東日本、テレビ朝日、JT、博報堂、ライオン、パナソニック、日本郵便、ウーブンbyトヨタの10社です。
日本を代表する大企業ばかりですね。
そうなんです。担当者の方々は新規事業として「新しい何かを生み出したい!」という情熱を持って参加されている方ばかりです。各社のイノベーション担当の方々が集まっていますから、ディスカッションして新しいアイデアが出てきたり、新しい協業の芽が出てきたり、色々なことが起こっています。待ちの姿勢の方はいらっしゃいません。それには私も驚きました。
私たちもその中で、日本にいると見つからないようなアーリーステージのスタートアップをご紹介したり、アイデアを一緒に出したりと、協力しています。
大企業の方だとイノベーションに対して慎重なのかな?とも思うのですが。
大企業の方、特にインフラのような大きなビジネスにかかわっていらっしゃる方は、既存の方法では大きく成長させるのは難しいと感じていらっしゃいます。だからこそ、SmartCityXでは「もっと面白いことがしたい」「これだけのアセットがあるんだから、それを使って新しいことができないか?」と、どん欲です。
たとえば、日本郵便は全国に約20万個のポストを持っています。郵便ポストはインフラですから、都会だけではなくて僻地にも設置されています。郵便局職員の方が、毎日もしくは数日ごとに定期的に回収に行っていますが、以前より郵便の扱い量は減っていますから、郵便物が入っていないケースも多いそうです。数でいうと、回収に向かったポストの4割は空とのこと。この郵便物の入っていないポストに回収に出向く作業が負担になりつつある。
そこで、すべてのポストに、郵便物が入ってるかどうかを感知するセンサーと、それを通信する仕組みを付けたらどうだろう?というアイディアがうまれました。もちろん、電源と通信問題、それにかかる費用の問題もあります。
しかし、すべてのポストをスマート化すれば、そこにカメラやセンサーを設置することで、新たな役割を持たせることもできます。地域の見守りといった新しいビジネス展開を考えることも可能です。ひとつのスマート化で、二鳥も三鳥も得られるというわけです。
大企業のみなさんは、既存の事業だけでは、乗り越えられない壁、閉塞感を感じていらっしゃいます。たとえば、私の前職は日本航空だったのですが、今後リモートワークが進んでビデオ会議などがもっと活用されるようになると、航空機に乗って移動する人が減るかもしれません。そうした大きな環境の変化、人口動態の変化や、大きな為替の変動などを踏まえて、乗り越えなければならないビジネスの課題を、スタートアップの力も借りつつ、オープンイノベーションを通して方法を模索しています。
大企業にいたからこそ分かることがある
私にとって、前職でもあるのですが、SmartCityXに参画している日本航空の場合には、to C向けのビジネスについて、新たな展開を検討されています。飛行機に乗っていない時にも関係性を持ちたい、都市全体の人流に関わったり、お客様の生活にもっと密着できるビジネスはないかと模索されています。
それはパンデミックがあったからですか?
パンデミック以前から、そういった方向性は打ち出していました。でも、パンデミックがあって、より喫緊の課題になったというのも確かです。
その他にも、脱炭素の文脈でも、大きな変化を求められれている業界です。バイオマス燃料など、燃料面での効率化や改革も差し迫った課題です。
前職が日本航空だったのですね。ご自身のルーツについて教えてもらえますか?
7歳の時に父の赴任でイギリスに渡り、ロンドン近郊のサリー州という場所に住んでいました。ハリー・ポッターがマグル(人間)の親戚宅として住んでいた場所です。ロンドン郊外の平凡な住宅地と認識されています。空港からは1時間半ぐらい離れていたのですが、安心して通える学校があったから、そこに住んだと聞きました。
最初の1年は、周囲が何を話しているかも理解できず苦戦しました。でも、子どもは習得が速いので、1年経ったら英語も話せるようになっていたようです。5年間の終わりには成績も他に劣ることなく友人もたくさん作りしっかり順応していました。
中学生以降は日本で育ったのですか?
そうです。でも、反対に、日本に帰った時も逆カルチャーショックを受けました。イギリスでは、手を上げて質問を積極的にした方がよかったのに、日本では質問ばかりしていると「授業の進行を妨げる子だ」みたいになってしまって……。ちょっとキャラをズラして、教室に馴染む必要がある、ということに苦労しました。
中学、高校は日本の学校でしたが、英語力を保つために努力しました。海外に住んだのが小学生の時だけだと、英語は忘れてしまいます。また、話していたのは子どもが使う英語なので、ビジネスの会話や、大人としての言葉遣いはできなくて。だから、そこから勉強は必要でしたね。
大学は慶應大学の法学部。その後、新卒で日本航空に入り、7年間勤務していました。
日本航空での7年間で、どんな経験をされたのですか?
最初の1年半は必須の実地研修でした。空港に配属されて、羽田の国際線で、カウンターのチェックインや、搭乗チケットの発券、到着しなかった荷物のバゲッジクレームなどを扱って、航空会社の基本を学びました。みなさんが飛行機に乗られる時のバックグラウンドを支える仕事ですね。
その後、それを踏まえて、お客さまサポート室というカスタマーリレーションの部門にて、1年ほど経験を積みました。
そしてその後、企画室のカスタマーエクスペリエンス本部というところで仕事をしました。お客様がウェブで旅行を検索された時から、旅行を終えて自宅に到着されるまでの様々なサービス&体験の管理の刷新に取り組む部署でした。
社内の関連部門との横断的な調整を踏まえた業務要件の成形など、当時の経験は今パートナー企業のみなさまと議論する中でも感覚値として非常に有意義に働いている実感があります。
大企業の力と、スタートアップのフットワークの融合
私の日本航空在籍中の最後のプロジェクトは、パンデミック対策のプロジェクトでした。パンデミック中に飛行機に乗るために使った、みなさんご存じの『ワクチン証明書』『ワクチンパスポート』です。
パンデミックという困難な状況下で、短期間で開発しなければならなかったのですが、そこでスタートアップと一緒に取り組む機会がありました。そしてスタートアップならではのアジャイルな開発力、フットワークの軽さを知りました。大企業の力と、スタートアップの瞬発力を組み合わせることで、短期間で世の中を大きく変えられることを知り、それがScrum Studioへの転職に繋がっています。
なるほど。Scrum Studioがやろうとしていることは、まさに大企業の力と、スタートアップアジャイルな開発力の融合ですものね。SmartCityXにはScrum Studioに入ってすぐに参画されたのですか?
SmartCityXは今年3年目ですが、私は2年目の運営に参加するカタチで入社しました。2年目は、もうひとりプログラムマネージャーがいて、私はアソシエイトとして入ったのですが、3年目になる今年からは、プログラムマネージャーを担当しています。前職の経験から、大企業の課題感が肌感でわかる部分もあり、自分にぴったりな仕事だと感じています。
この仕事の醍醐味を教えてください。
大企業10社の悩みを一気に聞きながら、ディスカッションをするなんて、本当にワクワクします。こんな夢みたいな世界があるんだな、と個人的には思っています。
みなさん、アイデアを出すために話している時には、会社の看板をいったん下ろして自由に議論をしますが、最終的に話をまとめる時には、企業の代表として決断していきます。そんな場所で、ご一緒できるのはすごく貴重な経験だと感じています。
スタートアップと大企業を繋ぎ合わせることで、社会課題をどんどん解決するアイデアが生まれています。大企業にいた経験を活かして、この流れをますます加速していきたいと思っています。これからも、SmartCityXから始まるプロジェクトにご注目下さい。