東日本大震災でエネルギー安全保障に危機感。Climate Techで課題解決を目指す—島田弓芙子 [Staff Interview]

May 11, 2023 スタッフインタビュー

島田弓芙子(しまだゆうこ)が担当するのは『脱炭素・エネルギー・サステナビリティ』の領域。非常に大切ではあるけれど、日本ではなかなか注目の集まりにくい分野でもある。しかし、世界的趨勢として、これらの分野には今後さらに巨額の資本が流れ込むことは間違いない。金融、コンサルティングなどの分野で活躍してきた島田は、なぜ今、脱炭素(Climate Tech)領域に注力するのか?

幅広い領域に関係し、大きな影響力を持つ脱炭素(Climate Tech)

まず、担当している分野について教えて下さい。

いわゆる「脱炭素」と呼ばれる分野を担当しています。欧米ではClimate Techという呼び方をされており、日本語では、「脱炭素テック」や「気候テック」とも呼ばれています。世界で2050年までに温室効果ガス(主に二酸化炭素、CO2)を低減・削減するなどといった対策を行う次世代技術やビジネスです。

Climate Techは、実際の効果や、投資においての利益が出るまでかなり長い時間がかかることが多いですし、非常に大きな資本が必要なことも多い。そういう意味では、出資いただく側にも長い目で見てもらう必要があります。

日本で脱炭素といえば原子力発電も大きな役割を担うはずでしたが、東日本大震災以来、原子力はやはり避けたいと脱炭素がトーンダウンしています。土地の少ない日本では太陽光に頼ると山林を切り開くことになり土砂災害の問題などの原因になります。安全保障の面から言っても、日本のエネルギー施策にはとても課題が多いように思います。

だからこそのClimate Techなんです。もちろん、まだまだ課題はありますが、スタートアップの取り組んでいる新しい技術が少しずつ課題を解決していく可能性があります。

Climate Techは、我々の生活、社会活動すべての領域にまたがっています。EVやそれに搭載されるバッテリー技術などもそうですね。それから、それを制御するソフトウエア。実は、代替肉などのフードテックも入ります。牛が草を食べるとメタンガスが発生して温暖化が進みます。だから植物由来の代替肉というのは、脱炭素のテクノロジーでもあるんです。また、水素関連の技術、製造や運搬、水素自動車などの技術がここには含まれます。直接空気に含まれているCO2を回収するような技術もあります。

最近私が携わっている技術でいうと、先日、SCRUM CONNECT 2023で来日していたNatural Fiber WeldingもClimate Techのひとつです。

Natural Fiber Weldingは、従来レザーやゴムで作られていた靴や、衣類、バッグ、自動車の内装などを、植物や鉱物などを組み合わせて代替素材を作ることにチャレンジしている企業です。牛を育てるのには大量のCO2を消費しますし、牛を殺してその皮を使うということに抵抗のある人も増えてきています。一方で、石油化学製品である合成皮革はゴミになった時にエシカルではありません。Natural Fiber Weldingの作るプラスチックや石油化学製品を一切使用しない素材(代替皮革など)は、ゴミとして廃棄しても生分解性があります。Natural Fiber Weldingは、すでに、ラルフローレン、Allbirds、ニューバランス、パタゴニア、BMW、Hyundaiなどに製品を提供しています。実は私もこの素材を用いた靴や名刺入れを使っています。これもひとつのClimate Techです。

また、もうすでにこちらは大企業に成長しましたが、LanzaTechというアメリカの会社では、独自の微生物醗酵技術を使って、製鉄所や製油所などの排気ガスからエタノールを得る技術を開発しています。また、このエタノールからジェット燃料を作ることにも成功しています。従来廃棄物だと思われていたものや、発生してるCO2からエネルギーを取り出せるなんて、とても面白いと思いませんか?企業のブランディングとしてもユニークだと思います。

ソフトウエア領域でも興味深いものがあります。自分のクレジットカードの決済データからCO2排出排出量を見える化してくれるDoconomyなど、CO2の抑制のために、さまざまな技術を使うことが考えられています。

時間がかかり、必要な資本も大きいことにやりがいを感じる

その中で、島田さんはどういった仕事を担当しているのですか?

主な仕事は大企業・スタートアップとの事業共創を促すオープンイノベーションプログラムの運営です。カーボンニュートラルを目指す大企業を対象に、その領域にかかるリサーチやスタートアップ探索をお手伝いしています。

それ以外ではClimate Tech領域での市場トレンド・海外の注目スタートアップに関わるリサーチ業務です。この領域は専門性が高くて奥深いため、新しい領域の勉強をしなければならないことばかりですが、日々刺激を受けています。

オープンイノベーションプログラムでは大企業の方と関わることが多く、事業の実現までには時間がかかるものが多く、動くお金の額も大きいです。今は可能な範囲で多くのClimate Techスタートアップと面談して、さらに領域の理解を深めようとしています。

日本のエネルギー政策はこれで大丈夫なのか?

Climate Techに携わることになったキッカケを教えてください。

多くの人にとってもそうだと思うのですが、私の中で東日本大震災は非常に大きな出来事でした。私は当時ワシントンDCのジョージタウン大学に在学中だったのですが、いてもたってもいられず、他校とも連携して、被災者支援のための募金活動を行いました。

この大きな自然災害を受けて、日本のエネルギー事情、他国から輸入する石油エネルギーに頼らざるを得ず、狭い国土で原子力発電を行うのも難しい……その中で展開されるエネルギー政策についての私の理解が欠如していたことに気がつきました。

そんな経緯があり、ニューヨークのコロンビア大学の国際公共政策大学院に進学を決めました。日本のエネルギー安全保障について学びたかったので、国際エネルギー政策・マネジメント学科を専攻しました。クラスメイトの大半は理数系出身、エネルギー会社のエンジニアの方や、日本の経産省でエネルギー政策を立案していた資源エネルギー庁出身の方、コンサルティングファーム出身の方などばかりで、圧倒されながらもなんとか卒業しました。

大学以前も海外で暮らしていたのですか?

生まれたのは日本なのですが、父の仕事の都合で2歳の時に渡米し、高校までロサンゼルスで育ちました。大学は、国際政治、政治学で知られており多くの政治家を世に送り出したジョージタウン大学に進学し、国際政治学科を専攻しました。日米同盟、日本とアジア諸国の関係、日中、日韓関係の論文の多くを読み、卒論は尖閣諸島領土問題について書きました。

投資銀行、コンサル、リサーチを経験

大学時代の東日本大震災の体験から、日本のエネルギー施策に興味を持って大学院を選んだ。しかし、その後は投資銀行やコンサルを経験されていますね?

大学院時代に力不足を痛感し、基礎的な財務分析能力やリサーチ力をつけるべきと思い、シティグループ証券の投資銀行部門でインターンをしました。卒業後、フルタイムのオファーをもらって働き始めました。投資銀行は激務でしたが、財務モデルや提案資料作りの猛特訓はもちろん、ビジネスをしていく上で基本的なことはここですべて教わりました。

次に、エネルギー・政策に関する仕事に就きたいと思ってデロイト・トーマツに転職しました。在籍した資源・エネルギーアドバイザリー部門は主に中央省庁向けの制度設計に係る海外事例調査・経済性分析、省エネ・再エネ・脱炭素技術を持つ中小企業の海外進出のお手伝いをする部署でした。カンボジア、ラオス、ミャンマー、キルギスタン、ウズベキスタン、モンゴル、ウクライナ、フランスなど、さまざまな国に出張し、念願のパブリックかつエネルギー領域も含む案件を任せていただいて、せいいっぱい働きました。

その後、さらにリサーチに特化した仕事に就きたいと思い、ムーディーズという米系の格付け機関のアナリストとして、国内電力会社、自動車会社、商社などを担当しました。日本を代表する大企業の事業領域を細かく理解し、財務諸表を分析し、業界レポート的なものを執筆する日々は、忙しいながらも非常に充実したものでした。

VC、スタートアップだからできること

スクラムに転職したキッカケは何だったのですか?

ムーディーズの仕事は充実していたのですが、スクラムで脱炭素領域のスタジオ事業の立ち上げメンバーにならないかと声をかけてもらいました。

最初は、VCやスタートアップという、自分とは無縁と思っていた業界で、しかも立ち上げメンバーとして携わるということで、大変戸惑ったのですが、面談を続けているうちに、だんだんとスクラムという会社のことが理解できてきました。

エネルギー政策、環境問題については、ステークホルダーも巨大で、かかる時間も長く、自分の仕事の成果を感じることは難しいものです。しかし、スタートアップであれば、比較的短い期間で効果を得ることができますし、従来のパラダイムを大きく転換できる可能性があります。そこで、2021年の11月にScrum Studioに入社しました。

さまざまなClimate Techが芽吹きつつある

これから実現していきたいことを教えて下さい。

『脱炭素』という言葉は頻繁に聞くようになりましたが、実現は容易ではありません。

大きな組織で大きなことを動かすのも大切ですが、小回りが効くスタートアップの技術が大きなパラダイムチェンジをもたらす可能性もあります。これまでの経験を活かして、Scrum Studioでスタートアップの可能性を大きく伸ばしていきたいと思っています。

スクラムにいるVCのメンバーは、若いけれどガッツがあり、思いもよらない知見・インサイトを持つ人ばかりです。そのため、年齢や立場など関係なく、全メンバーの意見に耳を傾けるようにしています。
エネルギーに関しても、生物多様性についてもClimate Techです。私たちの生活の多くの部分をより良くしていくのがClimate Techの分野の仕事だと思っています。たくさんの大きな可能性を持つスタートアップが芽吹き始めていますし、日本の多くの大企業の方にも注目いただいています。これからスクラムが手がけるClimate Tech領域の事業に、ぜひ注目していただきたいと思っています。

 

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