原動力は好奇心。ニューヨーク、上海でのキャリアを経てスタートアップ投資へ―Ray Lian [Staff Interview]

August 19, 2022 スタッフインタビュー

米国投資チームメンバーのRay Lianは、2021年スクラムベンチャーズ入社。Partnerで上司であるRyan Mendozaと共に、アーリーステージスタートアップのデューデリジェンスを行っています。Rayのニューヨーク、上海、ベイエリアと国をまたいだこれまでのキャリアと、スクラムベンチャーズ入社後の仕事について話を聞きました。

原動力は好奇心

これまでのキャリアについて教えてください。

ミシガン大学のビジネススクールを卒業後、ニューヨークのJPモルガンに入社し、債券のセールス&トレーディングを担当しました。当時は金融危機の直後で、状況がめまぐるしく変化しており、非常に興味深いタイミングでした。実際、サマーインターンの初日は、ベア・スターンズと合併の初日でした。

数年勤めた後、このまま大銀行の歯車として働き続けるのか?という疑問が浮かびました。ウォール街に残るのか?それとも何か新しいことに挑戦するか?

メンターから「若いうちはリスクをとるべき。その仕事が好きかどうかは、やってみなければわからない」というアドバイスを受け、チャレンジすることに決めました。

私の原動力は、好奇心だと思います。どんな仕事でもつねに「この機会から何を学ぶことができるのか」と自問自答するようにしています。他の同年代と比べると、会社、部門、地域など、より多くのエリアで仕事をしてきたと思います。好奇心を持ってのぞむことが、いつも大事だと思っています。

その意欲と好奇心は、仕事以外でも?休日の過ごし方を教えてください。

最高の投資家は、自分の仕事を超えた、様々な分野のコネクションを持っているべきだと思います。テクノロジーやスタートアップにまつわることだけでなく、The New Yorkerの長編ジャーナリズムを読んだり、大好きなテレビ番組『Jeopardy』を見たり、必ずしもテクノロジーとは関係のないコンテンツをたくさん楽しむようにしています。歴史ドキュメンタリーの大ファンでもあります。

また心身ともに健康でいるために、週に何度かウェイトリフティングをしたり、週末にはハイキングに行ったり、ギターを独学で習得したり(習得できなかったり…)しています。オフラインでスクリーンから離れられるようなアナログなものを意識しています。

ここ数年は、レゴにもハマっています。子供の頃、誕生日やクリスマスには、ビデオゲームの代わりに、母が新しいレゴセットをプレゼントしてくれました。「自分の手で作る」というのは、今となっては普段なかなかできないことなので、今でもたまに巨大なセットを作っています。

先日、ある会社の創業者の席の後ろに大きなレゴがあったので 「発売されたばかりのポルシェのセットですね」とコメントしたところ、一瞬で意気投合することができました。

RayのLEGOコレクションの一部

JPモルガン退職後、何にチャレンジしたのですか?

フィンテックスタートアップでプロダクトチームを率いることになりました。私は社員番号8番でしたが、1年後に私が退職する時には、25人ほどのチームになっていました。小さなチームだったので、自分の仕事の範囲を超えた様々な役割を担うことができ、自分の仕事が会社の成長に直接寄与するのを見ることができたのは、とても良い経験でした。入社3ヵ月後には4人の新入社員を部下に持ちました。チームを率いていくことは、大きなチャレンジでした。

充実した時間ではありましたが、しばらくして、スタートアップで働くことは好きだけれど、製品そのものへのパッションが弱く、自分の学びも限界が近づいていることに気づきました。そこで、次のことを探し始めることにしました。

自身のルーツを求めて、中国・上海へ

次は何に取り組んだのですか?

私はニューヨーク育ちですが、生まれは中国で、子供の頃は毎年夏に中国を訪れていました。その夏休みに中国のテレビ番組を見て、中国語を維持していました。自分のルーツを探って、そこで働くのはどうだろう?と思い、仕事も住むところもないまま、スーツケース2個に荷物を詰めて上海に行くことにしました。

幸い家族の友人が、中国の大きな投資銀行のひとつである中国国際資本有限公司(CICC)を紹介してくれて、面接を受け、働くことになりました。

当時、中国は『金融のワイルドウェストト(西部開拓時代の無法地帯)』と呼ばれ、私が米国で経験した状況とは大きく異なっていました。1年目はひたすら学び、吸収し、2〜3年目でやっと貢献できるようになりました。3年間、当初想定していたより長く中国にいることになりました。

様々な職業や文化的な経験は、キャリアにどのように役立っていますか?

私はCICCの上海事務所での初めての外国人採用でした。当時、多くの中国企業が海外投資を検討しているタイミングだったので、大学時代の友人や仕事の知人など、アメリカでのネットワークを活用して、中国企業と米国の企業をつなぐ仕事をしていました。シリコンバレーのスタートアップと中国の企業や投資家とのクロスボーダー案件をいくつも担当しました。

またJPモルガンで学んだベストプラクティスを、CICCに導入しました。当時、上海事務所の所長だった私の上司は、組織や職場をよりよくするためのディスカッションに前向きで、毎週のようにアイディア出しを行いました。その中からいくつか実際に取り入れてくれました。

例えば、当時はインダストリーやプロダクト別のチームがなく、手の空いている者が案件やプロジェクトに関わるという状況でした。しかしそれは必ずしも顧客にとって良い経験ではありません。そこで、銀行業務をアドバイザリーサービスとして考え、クライアントとの関係構築に大きく舵を切りました。

上海の後、私はニューヨークへ戻り、コロンビア大学のビジネススクールでMBAを取得しました。中国での3年間を経て、アジアや新興国におけるビジネスのあり方を目の当たりにし、クロスボーダーな視点を持つことができるようになったと思います。また自分自身のアジア人としての側面を強く感じるようになりました。アジア人としてのアイデンティティを受け入れ、引き続き探求し続けるとともに、今では他の人がアジアの伝統に誇りを持つことができるようサポートしています。

Rayの旧正月レゴコレクション

教科書には載ってない、公式はない

スタートアップ投資へ移行したのはいつですか?

4割の学生がMBA在学中にやりたいことを変えると言われていますが、私もその一人でした。バリュー投資を学び、ウォーレン・バフェットに続きたいと思いコロンビア大学に入学しました。

大きな転換点となったのは、30人のクラスメイトと行った中国テック研究ツアーです。BaiduやDidiなどのテック企業を訪問し、内部から会社の実情を見せてもらうのは、まさに目から鱗の体験でした。また、私も運営をサポートしたカンファレンスでのGGVのHans Tungの、国境を越えたハイテク投資に関する経験談を聞き、感銘をうけました。Compassの共同創業者であるRobert Reffkinが、Entrepreneurial Financeのクラスで話してくれた言葉は、今も心に残っています。「人生で最悪で最高のことは、自分の可能性に完全に到達できないことを悟ることだ」。これらの経験を経て、私はビジネススクール2年目に大きな転換点(ピボット)を迎えました。

ベンチャーキャピタルをやるなら、世界のトップから学び、世界のトップと一緒に仕事をしようと思、上海と同じように、スーツケース2個を持って、仕事のオファーもないまま、ベイエリアへ引っ越しました。

スクラムベンチャーズは、私がこの3年間で働いた3つ目のファンドです。これまでの経歴から、まずはレイターステージのファンドからスタート。その後、スタートアップの初期から、創業者と密に仕事がしたいと思い、アーリーステージへのファンドへの移行を決めました。

アーリーステージ投資の醍醐味はなんですか?

投資する企業を考える際のデューデリジェンスが、アーリーステージの場合は、非常に定性的なものになります。数字がほとんどなく、多くの要素や人を巻き込んで考えるフレームワークがとても面白いです。限られた情報の中で意思決定をする必要がある。それがこの仕事の醍醐味だと思います。

またスクラムベンチャーズは、セクターに囚われないファンドなので、初めて目にするような最先端の商品やマーケットの場合もあります。ゼロから勉強しなければならないことも多く、地道な努力もありますが、そういった部分も含めて楽しんでいます。

週末や夜など静かな時間帯に、新しいマーケットやテクノロジーについて調べ、短期間でできるだけ専門家になるのが好きなんです。ここ数カ月は、昆虫のタンパク質から電気自動車のバッテリーリサイクルまで、さまざまな企業を深堀りしてきました。

投資家仲間から「アーリーステージのベンチャーは、自分のブランドを確立できる場所だ」と言われたことがあります。創業者が解決しようとしている問題を理解し、一生懸命に働く必要がある。投資先のファウンダー達とともに成長し、必要なときに彼らのそばでサポートする。そんな投資家でありたいです。

アーリーステージの投資家として、幅広い分野のスタートアップを見ることができますが、個人としてはフィンテック、教育、ゲーム、未来の仕事、eコマース、デジタルヘルスなど、いくつかの分野に集中していきたいと思っています。

ほぼ毎日新しいことを学んでいるので、仮にキャリアを全うしたとしても、探求すべきことが尽きることはないと感じています。常に新しいアイデアや新しい産業があり、人々が新しいものを作り、それに取り組んでいるので、今後も学びが尽きることはなさそうです。

スクラムベンチャーズでの仕事はどうですか?

スクラムのメンバーは、様々な分野のプロフェッショナルが集まっているので、みんなの経験からも学んでいます。上司であるRyanは素晴らしいマネージャーであり、メンターでもあります。ベンチャー投資は、Zoomで学べるものではありません。現場に出て、何度も何度も実際の取引を通じて学んでいく必要がある。教科書で学べるものではありませんし、公式もありません。十分なディールフローとデューデリジェンスを繰り返すことにより、より良い投資家になるために必要なパターン認識を身につけることができると感じています。

スクラムは10年目の会社ですが、いい意味でスタートアップのような感覚で、部門を超えて仕事をすることができます。投資チームとしての仕事以外にも、資金調達やマーケティングなど興味のある分野で貢献することができますし、スタジオチームなど投資専門ではないメンバーとも、国境を越えて仕事をすることができる。スクラムの幅広いビジネスをメンバーとして楽しんでいます。創業者でありジェネラルパートナーである宮田が、私が興味を持っている東南アジアの技術エコシステムなど、新しい取り組みにとても協力的なのも魅力です。

そして何より、スクラムチームには経歴や経験のダイバーシティがあります。スクラムのチームは、東洋と西洋の文化の良いところを組み合わせです。月に一度、米国各地からサンフランシスコに集まるWork Together Dayがありますし、日本とアメリカのオフィス間で、実際に会ってお互いを知るための交流プログラムもあります。引き続き同僚と共に投資し、関係を築き、学びあうことを楽しみにしています。

ブログの更新情報をメールでお届けしています。

米国の注目スタートアップ情報 テックトレンド スクラムベンチャーズの投資先インタビュー
などをブログで発信しています。合わせてメールでもお届けしていますので、お気軽にご登録ください。

ニュースレター登録

でも情報発信しています。

関連ポスト