人気レストランチェーンで食中毒発生!「その客が流れたのはどこか?」消費者のリアルな動きをトラッキングできるSecond Measure。

April 21, 2016 スクラム代表・宮田ブログ

昨年10月に、米国の人気メキシコ料理レストランチェーン「Chipotle」で、ノロウィルスによる食中毒が発生しました。全米に2,000以上ある店舗はいつも行列ができるほど人気でしたが、この一件で客足は遠のき、多くの店舗を閉鎖せざるを得なくなるなどの事態となりました。

ニューヨーク証券取引所に上場しているChipotleの株価は、一時45%も下落するなど、経営にも非常に大きなインパクトを与えることになりました。

Chipotleの株主は、このニュースを見て、「Chipotleの業績にマイナスの影響があるはずだ!」として株を手放すなどの判断をしているのですが、実際に「どの程度客数は落ち込んだのか?」「Chipotleから逃げた客はどのチェーンへシフトしたのか?」など細かい数字は当然把握できていません。詳しい情報を知るためには、3ヶ月以上先の決算発表を待つしかありません。

ところが、一部の投資家はその情報をほぼリアルタイムで把握していました。

そのデータを提供していたのは、Scrumの投資先であるFinTechスタートアップ「SecondMeasure」社です。

Scrumの新しいFinTech投資先 : SecondMeasure

年初にも述べていた通り、Scrumの今年の注力投資分野の一つが「FinTech」です。

これまでにはなかった膨大な「データ」が新しく生まれていること、スマートフォンというデバイスによる変革、そして「ブロックチェーン」という今の金融業界を根底から覆すことになりそうな技術の台頭など、いま金融業界には大きな波が押し寄せています(Scrumでは、Fintech/Bitcoinのスタートアップレポートも出しています。ご参考にしてください)。

今回は、Scrumの投資先である SecondMeasure社を、” This startup is the new secret weapon investors are using to outsmart each other(このスタートアップは投資家がライバルを出し抜くための秘密の武器だ)” という題名でBusiness Insiderに詳しく取り上げていただいたので、その記事を引用しながら、SecondMeasureを紹介したいと思います。

 

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SecondMeasureは、ゲーム会社の「データアナリスト」の二人が、2015年にシリコンバレーで創業したスタートアップです。

SecondMeasureのアイディアは、ひょんなことから生まれたということです。

Mike Babineau was working at a video game company when a friend of a friend who worked at a hedge fund called him for help. The investor had 2 terabytes of data sitting on a hard drive that he wanted to analyze and he wanted to know how to upload it to Excel.

(中略)

“That really caught our attention because it was the first time that we saw how the hedge fund space is operating,” Babineau said. “Most funds are investing billions of dollars without any sort of technical expertise.

創業者のMikeの友達の友達が、ヘッジファンドに勤めており、2テラもある膨大なExcelのデータの処理、分析に四苦八苦していたといいます。Mikeはそのスキルを活かして分析を手伝ううちに、ヘッジファンドが「大したデータ分析もせずに、何千億ものお金を投資をしている」ということに気づきました。

Babineau and cofounder Lillian Chou started digging into all of the alternative data sources hedge fund managers use, from LinkedIn scrapes to forecast layoffs or watching Google trends.

“They’re looking for non-traditional data sources, and theses sources have this common characteristic for many of them that they’re really hard to use,” Babineau said.

Babineau and Chou first worked on a tool where they would take care of the back-end work of cleaning up the data and making it usable, and then investors could use a tool like Tableau to chart it. But even with data easily available, investors found it hard to analyze because they were used to reading quarterly reports, not determining cohort retention for private companies.

So the company decided to become both a source of consumer spending data and the ones to analyze it.

そこで、「データの処理/解析」に加えて、「使いやすいツール」を作り、そして従来の投資家が見てもいなかった「新たなデータソースの取り込み」を行うことで、投資家のための全く新しい「消費者データのソース」になろうと決めたそうです。

 Due to strict confidentiality agreements, Second Measure can’t say exactly where it receives its data from, but says it works with a massive quantity of anonymized consumer spending data, and that this data makes up a representative selection of 2-3% of all credit card transactions. The data is not coming from retailers or other companies Second Measure tracks, and not from individual tracking, which suggests the company has a deal with one or more banks, credit card companies, or credit agencies, but Second Measure would not confirm this.

Regardless, it’s got detailed data about billions of credit card transactions, and it’s only increasing as the company crunches through data every day.

Second Measure employs a part-human, part-machine approach to extract the data from each transaction down to  the store location before displaying it in a dashboard that investors can play around with.

創業者の二人はその後会社を設立し、SecondMeasureは、現在全米の約3%程度のクレジットカードの取引履歴(匿名)を解析し、実際に消費者が「いつ」「どの店」で「何を」買い物をしているのかを、ほぼ「リアルタイム」で把握できるプラットフォームを構築しています。

投資家向けにはこれからのデータがリアルタイムで見れるダッシュボードが提供されているのですが、彼らがブログでいくつかの面白いデータを公開しているのでここで紹介したいと思います。

事例①:人気レストランチェーンでの食中毒事件の影響

一つ目は、冒頭でも紹介したChipotleの食中毒事件後の消費者の動きです。

 

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こちらは事件後の経過と、Chipotleの売り上げの推移です。オレンジが売上、青が「Chipotle」の検索クエリー数です。

10月の食中毒事件発生後に、売り上げが激減し、検索クエリーが急増しているのが見て取れます。

クレジットカードの実際の取引データを解析することで、食中毒事件が起こる前、2015年の8-10月にChipotleで食事をしていた消費者のうち、「45%が事件後Chipotleで食事をしていない」という衝撃的な事実が明らかとなりました。

また、この事件によって離れてしまった消費者たちは、もともと週に平均4回 Chipotleで食事をするヘビーユーザであったということも分かっています。

 

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もうひとつ、こちらは「Chipotleを離れた客はどこへ行ったのか?」というデータです。

当初、他の「類似チェーン」に流れたと考えられていたのですが、実際に一番多くの客を獲得したのは、Muncheryなどのフードデリバリーと、Blue Apronなどの食材デリバリーサービスでした。同様のメキシコ料理チェーンもある程度客足を伸ばしたようですが、大きな漁夫の利を得たのは、一見強い相関のなさそうに見られるインターネット系のビジネスにだったという面白いデータです。

こうしてデータを実際に見てみることで、直感では想像が難しい事実を知ることができるというのがSecondMeasureの強みです。

事例②:未上場のUberとLyftの「どちらの売上の伸びが順調か?」

二つ目の事例は、今注目のライドシェア企業、UBERとLyftに関するデータです。

シリコンバレーを代表するユニコーンスタートアップであるUBERと、米国最大の自動車会社であるGMから$500Mもの出資を受け自動運転分野での提携を発表するなど勢いのあるLyft。果たして、実際の売り上げはどちらが上なのか?

両社はいずれも未公開企業であるため、売り上げなどに関する詳細な情報は公開されていません。しかしながら、SecondMeasureでは、クレジットカード利用履歴を分析することで、誰がUBERを使ったか、Lyftを使ったかの情報を解析し、売り上げの推定値を出すことが可能です。

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グラフは、青がUber、赤がLyftの売り上げの推定値です。

対象が「米国のクレジットカード履歴」のみであるため、あくまで米国内での数字ではありますが、UBERや約$2B、Lyftは約$1Bという規模に達しようとしていることがわかり、かつ成長率もいずれも10%以上と急成長を遂げていることがわかります。

もちろん海外のデータなどは含まれていないため、完全に会社の実力を把握することはできません。しかしながら、これまで一切外部からは伺いしることができなかったこうした実際の利用状況、売り上げが把握できるというのは、投資する立場にとって非常に大きな意味を持ちます。

VCやヘッジファンドの全く新しいツール

私は、約1年前、Y Combinatorの2015年の春のDemo DayでSecondMeasureの創業者たちと出会いました。

Second Measureは、YCや我々を含むシリコンバレーのVCから、$2Mのシード資金を調達しています。

すでにユニコーンが多数生まれているP2Pレンディングなどの領域では、従来の金融機関は使っていない「ソーシャルなどのオンラインデータ」を与信に取り入れることで新たな顧客層を発掘し急成長しています。最近では、こうした「新しいデータ」を活用することで、住宅ローンEC向けの割賦などの新しいFinTech企業が次々と生まれています。

SecondMeasureは、「クレジットカード利用履歴」という、存在はしていたもののうまく活用されていなかったデータを、その解析力で活用可能としたことで、VCやヘッジファンドの新しいツールとなっています。

詳しくは書けませんが、現在のプラットフォームをベースに、新しいデータをどんどん追加することで、全く新しい製品も開発しています。我々としても期待の投資先です。米国向けのヘッジファンドなどの方はぜひお問い合わせください。

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