ブームは始まった時に終わっているのかもしれない。2016年のシリコンバレー。
先週ラスベガスで開催されたCESからの帰り道で、今週は日本からの訪問者がひっきりなしにいらっしゃいます。昨年の安部首相の来訪もあり、日本企業のシリコンバレー熱はまだまだ加速している感があります。
上昇基調から一気に30%減少したVC投資額
ところが、新春早々そうした動きに冷水をかけるようなデータが出てきました。
これは2011年から2015年までの、四半期毎のグローバル(シリコンバレーだけではありません)でのVC投資の件数および投資総額の推移です。
2015年のQ3(7-9月)は、2000年のネットバブル時に迫る勢いで、「4日に1社」ユニコーンが生まれるという状況でした。四半期での投資額が$38.7Bと、「3ヶ月で4兆円」以上がスタートアップに投じられていました。
ところが、直前四半期のQ4(10-12月)には件数と投資額がいずれも劇的に減少していることがわかります。件数は13%減、投資額に至っては一気に30%減っています。ここ数年ずっと上昇基調を続けてきた中にも少し落ちた四半期はありましたが、30%減というのは極めて大きな数字です。
夢から覚めたユニコーン投資
この大きなドライバーとなっているのが、$100M以上の「メガラウンドの急減」です。米国ではQ3に39件ありましたが、Q4ではほぼ半減しています。ヨーロッパも同様のトレンドとなっています。最近は様々なユニコーン企業の不振が明らかになったこともあり、投資銀行など新しいプレイヤーたちに支えられていたメガラウンドが一気に冷え込んでいるようです。
実は2015年のQ4はScrum Venturesにとっても創業から初めて「新規投資の一件もない四半期」となりました。実際に見てきた会社は100社以上ありますが、実際に投資実行に至りませんでした。
昨年の春先くらいから、それまで積極的に投資を行っていた有力なVCも投資を手控えているという話をよく聞くようになっていました。そうした兆候が固まりとなってでてきたのが今回のデータかと思います。
既存産業のDisruptionは加速する
それでは、2016年はどう考えればよいのでしょうか?
年末年始、二つ大きなニュースがありました。一つ目は、San Francisco最大のタクシー会社Yellow Cab社がChapter11を申請(倒産)というニュース。もう一つは、自動車メーカーのGMがUBERのライバルであるLyftに$500M出資するというニュース。
いずれも自動車業界に関連するニュースです。まだタクシー業界が規制に守られており、UBERもLyftも普及していない日本からは実感がわかないかもしれませんが、数年前は町中を走っていたあのYello Cabが倒産するまでに追い込まれたのです。そしてGMです。LyftやUBERの普及は、特に若年層や新興国など、これから車を購入するはずのターゲットを奪う脅威であるにもかかわらず、$500Mもの大きなお金を投じました。そして驚くべきことに、現在開催されているモーターショーで「自動運転カーは販売するのではなく、Ride Shareが主流となる」と、TexasでLyftと自動運転Ride Shareを始めることを発表しています。
2000年のネットバブル当時の中心であったいわゆる「ネットビジネス」とは異なり、2016年の今、中心となっているスタートアップは、スマホとソーシャルという大きなドライバーにより、自動車産業を始めとする既存の巨大産業、我々のライフスタイルを本格的にDisruptしようとしているのです。
これは本当に大きな流れで、もはや止めることはできないと思います。
2016年は力を蓄える年
まだアーリーステージにある我々の投資先にとって今年は厳しい年になるかもしれません。Burn Rateを抑え、必要な所にしっかりと投資をしていくという基本を見つめ直すことになると思います。
歴史を振り返れば相場は上がる時もあれば下がる時もある。過去20年相場が落ち込んだときでも、必ず大きく成長するスタートアップの芽も産まれてきました。2016年もScrum Venturesは社会を本質的に変革するイノベーションを探し続けたいと思います。
2016年のテーマは、コミュニケーション、金融、ライフスタイル、小売など。引き続き「全部」です。自動車産業だけでなく、巨大既存産業全てが大きな転換点を迎えるときに備え、じっくりと調査、研究に励みたいと思います。