[Case Study] スクラムスタジオによるMiles(マイルズ)日本進出支援

September 12, 2022 その他

スクラムスタジオは、2021年に新規事業創出を行う「インキュベーション事業」において、海外スタートアップの日本進出を支援する事業を立ち上げました。第一弾として、米スタートアップ「Miles(マイルズ)」の日本における全面支援を行っています。

Milesは、商品やサービスがお得に使える特典や、寄付などに交換できる“マイル”を、世界中すべての移動でためることができるスマートフォンアプリ。

スクラムベンチャーズの投資先でもあるこのMilesとの出会い、日本でのサービス開始に至った経緯、そして日本でのローンチ後、たった4週間で100万ダウンロードを記録するまでの流れについてまとめました。

スクラムベンチャーズ代表の宮田拓弥、スクラムベンチャーズパートナーでMiles取締役でもあるRyan Mendoza、スクラムスタジオ代表取締役社長でMiles Japan株式会社の代表取締役CEOに就任した髙橋正巳に話を聞きました。

1. マイルズとスクラムの出会い

スクラムベンチャーズがMilesに最初に投資したのは、2018年6月。代表の宮田は、自身も過去に位置情報サービスを立ち上げた経験から、CEO Jigar Shah 氏に会ってすぐ意気投合し、サービス開始前でしたが、投資を実行しました。

Q. Milesとの出会いについて教えてください。

[宮田] スクラムベンチャーズとパナソニックのジョイントベンチャーBeeEdgeの件で、よく情報交換していたパナソニックの馬場さんからの紹介です。興味深いスタートアップなので、CEOのJigarと早速会い、そのあふれるパッションにすぐにでも出資したい気持ちになりました。

Milesは自動で移動の種類(車、バス、自転車、徒歩)を判別できる技術があり、加えて2018年のタイミングは、GPSの精度があがり、スマホのバッテリーを消費せずにトラッキングすることが可能になっていました。Milesの技術とスマホというデバイスの進化がちょうどマッチして、位置情報を活用したサービスをスタートするには、最高のタイミングだと感じました。

Q. シードラウンドで投資した決め手は?

[宮田] 私自身、2006年に自分で「位置連動ソーシャルメディア」を立ち上げたことがあるんです。その時は時期尚早だった。位置情報サービスのタイミングとして、2018年はまさに機が熟したタイミングで、Milesのサービスには無限の可能性を感じました。「人の移動」を把握し、その移動を軸にしたターゲティング広告メディアとしての可能性もありますし、移動情報を把握することで広がるビジネスはいくらでもあります。

またVCとしてひかれたポイントは、Jigarのバックグラウンド。CISCOという大手でのエンジニアとしての経験があり、ビジネスもきちんと語れる。加えて Milesというビジネスへの熱量がすごかった。

[Mendoza] Milesへの投資以前から、スクラムでは一般消費者向けのプロダクトを見る際には、パーソナライズされた体験を重視していました。匿名データを活用したターゲティングには大きな需要があります。その中でもMilesは、複数のプレイヤーにメリットを提供できる可能性があり、ユニークなポジションにあると感じました。

例えば消費者は、普段の移動に合わせて割引サービスを受けることができる。ブランドは、適切なユーザーに対してインセンティブを与えることができる。B2Bのソリューションとして、移動データとホワイトレーベルを提供することで、企業に独自のリワードサービスの設計を可能にする。複数のプレイヤーへのサービス提供が相乗効果となって、価値があがっていくMilesの仕組みが非常に面白いと思いました。

2. 日本訪問時にマーケットフィットを実感

SCRUM CONNECT 2018に登壇するJigar Shah氏

マイルズCEOのJigar Shah氏は、スクラムベンチャーズの投資を受けた直後、2018年秋にクラムベンチャーズが主催するイベント SCRUM CONNECT 参加のために来日します。この来日が、Milesの日本進出支援の大きなきっかけとなりました。

Q. Milesなら日本でもいける!と感じたポイントは?

[宮田] 「日本市場とのフィット感」を感じました。投資後、日本の様々な企業の方とMilesの話をしましたが、誰と話をしても強い興味を持ってもらうことができました。そんな流れで「このサービスは、日本でも必ず受け入れられる」と確信しました。

2018年の来日の際、Jigar Shah氏は日経クロストレンドの取材を受けています。この記事からも日本での注目の高さがうかがえます。

[日経クロストレンド] どんな移動でも“マイル”がたまる 米国発MaaSアプリが日本へ

3. パンデミック真っ只中、シリーズAをリード

Miles 米国チーム

2020年はパンデミック真っ只中。移動を軸にするMilesにとってはなかなか厳しい環境の中、スクラムベンチャーズはマイルズのシリーズAをリードします。

Q. コロナ禍でシリーズA投資を決めた理由を教えてください。

[宮田] Milesは移動に関連するサービス。新型コロナウイルスによるStay Homeが続く中、事業として難しい局面を迎えていると思っていました。しかしながら、実際はコロナ禍でも「Stay home bonus mile」といった企画を実施し、引き続き成長していたんです。正直驚きました。Milesの価値を改めて認識し、シリーズAをリードすることを決め、シリーズAの出資の一部を日本進出資金にするという話になりました。シリーズAの投資の際に、Ryan MendozaがMilesのボードメンバーとして加わることになりました。

[Mendoza] Milesの取締役に就任し、Milesの成長戦略に関わることになりました。 非常にエキサイティングで、責任ある立場だと感じています。目下のグロースの課題は、グロース施策を考えることではなく、ありすぎるグロースの機会に、どう優先順位を付けるか?です。現在は、アメリカや日本だけでなく、インドやラテンアメリカなど、移動が多い地域への展開も検討しています。

Q. シリーズAには、あいおいニッセイ同和損保、日本航空といった日本企業も投資しています。スクラムベンチャーズがリードインベスターとしてサポートした部分はありますか?

[宮田] シリーズAのリード出資をした後に、日系の企業についてはスクラムから熱烈勧誘を行いました。あいおいニッセイ同和損保さんは、スクラムスタジオが運営するオープンイノベーションプログラム「SmartCityX」の中で、Milesとの関係が深くなり、出資に繋がりました。

またMilesと日本航空は、投資以前にスクラムベンチャーズの紹介でビジネスアライアンスがありました。そのビジネスアライアンスが投資につながる結果となりました。

4. 日本進出に向けてチーム編成

マーケットフィットを確信し、資金の準備もスタートし、次なる課題は誰が日本のビジネスを率いるのか?絶好のタイミングでこれ以上ないメンバーがスクラムスタジオに参画することになります。

Q. 日本進出にあたり最初に行ったことはなんですか?

[宮田] マーケットフィットは確信していましたが、実際に誰が日本のビジネスを率いるのか?というのは非常に重要です。そんな時、ちょうど旧知の友人で当時WeWorkのゼネラルマネージャー及び副社長 営業・マーケティング統括だった髙橋(現 Miles Japan CEO でスクラムスタジオ代表取締役社長)と話す機会がありました。

スクラムスタジオのビジネスを一緒に盛り上げないかという話に加えて、Milesの日本進出の話をしたところ、髙橋も詳しく話を聞きたいということになりました。Uber Eats、WeWorkの日本での立ち上げ経験があり、日米欧でビジネス経験がある彼以上に最適な人材はいません。これ以上ない巡り合わせでした。

Q. 最初にMilesの話を聞いた時、どう感じましたか?

[髙橋] 2020年の夏に宮田さんとキャッチアップした際に、スクラムスタジオの構想、そしてMilesの話を聞きました。スタートアップの日本進出は自分のバックグラウンドや今後取り組みたいと思っていることともマッチする。そして何よりやりがいがある仕事ということは、これまでの経験を持ってわかっています。

早速MilesのUS版をダウンロードして自分でも使ってみたところ、非常にシンプルで魅力的なアプリだと思いました。何もしなくても使える。アプリを開かなくてもマイルがたまるというのは、ちょっとした衝撃でした。日本はポイント大国なので、日本人の好みに合うというのを直感的に感じましたし、ぜひ日本でのローンチに関わりたいと思いました。

Q. Jigar Shah氏の第一印象はどうでしたか?

[髙橋] Jigarの第一印象は、物腰が柔らかくて、まじめな人という印象です。初対面はZoomでしたが、Milesへの思いの強さはオンラインでもしっかりと感じました。Milesのグロースについて聞いたところ、時間をかけて丁寧に説明をしてくれました。真摯な対応で、彼と良い関係を築きたいと感じました。

Jigarにとっても初めての海外展開を任せる相手として、この人は信用できるか?というのは気になるポイントだと思ったので、その後は週1〜2回はミーティングをセットして、話し合いを続けました。ミーティングの際に意識したのは、私から質問を積極的にしていくこと。質問をすることで、理解の深さを伝えるようにしました。聞くだけではなく、常にインタラクティブなコミュニケーションを意識しました。

Milesはアーリーステージの会社で、今回が初めての海外進出。いい意味でやり方が決まっているわけではないので、大変ではあるもののフラットに考えられる余裕があり、非常にやりやすかったです。

Q. チーム作りはどのように行ったんですか?

[髙橋] Milesは日本では無名の会社です。リクルーティングが大変なことは、過去の経験からもわかっていたので、まずは最初のコアチームを作ることに専念しました。

現在Milesの法人営業、そしてバックオフィス業務を担当してくれている吉垣は、WeWork時代の仲間です。Milesに興味を持ってくれて、スクラムスタジオにジョインしてくれることになりました。同じくMilesの法人営業、運営サポートを担当している早嶋は事業の体験をしたいということで、スクラムベンチャーズと兼務でMilesもサポートしてくれることになりました。このコアメンバーがなかったらローンチできなかったと思います。

5. サービス開始に向けローカライズ開始

Miles Japanチーム

Miles Japanチーム始動!サービス開始に向けての準備をスタートします。サービス開始当初から、ファミリーマート、JALグループ、あいおいニッセイ同和損保などのローンチパートナーとともに108もの特典を用意することができた秘訣とは。

Q. ローカライズについて教えてください。日本特有の問題などはありますか?

[髙橋] ローカライズというとフロントエンドの日本語化のイメージがあると思いますが、バックエンドも大事なんです。日本とアメリカでは移動手段が異なるので、見えないところのチューニングに手がかかりました。プロダクトマネージャーのEvanが5月に入社して、彼がメインですすめてくれました。

日本特有の問題としては、住所が特殊というのがあります。この点はUber時代にも苦労した経験があったので、最初から意識していたポイントでもあります。

Milesにとって初めての海外展開だったので、全てのことが初めてでした。アメリカのユーザーが日本にきたら?日本のユーザーがアメリカにいったら?など細かな点も議論しました。

タイトなスケジュールで進めるためにも、日本でエンジニアを雇うのではなく、開発はアメリカ側で進めました。

Q. コロナ禍ということもあり、実際に会えない中で、日本とUSとのコミュニケーションはどうしていましたか?

[髙橋] 日本チーム全員と、CEOのJigar、共同創業者のPareshとは週次のミーティングを欠かさず行いました。2人に適切に情報を伝えて、離れていることで米国のMilesチームが不安にならないように、コミュニケーション頻度などは常に意識していました。それから前述の通り、一方通行のコミュニケーションにならないよう、インタラクティブを意識しました。

Q. サービス開始前の日本でのパートナー営業はどうでしたか?ファミリーマートのコーヒーなど、ローンチから多くの魅力的な特典を集めることができた秘訣は?

[髙橋] ありとあらゆるネットワークを駆使して、地道な営業活動を行いました。名刺のデータベースを片っ端からあたりました。その中にMilesの可能性を感じてくれた企業があって本当によかったです。

ファミリーマートさんも知り合いからの紹介です。ファミリーマートは特典も魅力ですが、ツイッターなどのソーシャルメディアでサービスの拡散もサポートいただきました。

6. 2021年11月サービスローンチ!ローンチ後4週間で100万ダウンロード達成

Milesローンチ記者発表会

Milesのアプリはローンチ後24時間で10万ダウンロードを達成。その後、日経トレンディの「2022年ヒット予測ランキング」にて第1位を獲得。テレビや新聞、ネットメディアでの紹介により、ローンチ後4週間で100万ダウンロードを達成しました。

Q. ローンチ24時間で10万人突破、ローンチ4週間で100万人突破というダウンロード数を達成できた秘訣を教えてください。

[髙橋] スクラムベンチャーズ、スクラムスタジオとして、これまで関係を築いてきたメディアの方とのつながりで、よい形で記者発表会を行うことができました。

記者発表会には、ファミリーマートCMOの足立さんやJALの西畑常務に登壇していただいたり、ゲストとしてキティちゃんに来てもらったりしました。過去のUberなどでの経験からも、記者発表会はユーザー獲得の要だと思っていたので、自分自身のメディアの方とのつながりもできるだけ活用しました。ローンチ後に、日経トレンディの「2022年ヒット予測ランキング」の1位に選んでいただき、テレビでの紹介も増えました。

またローンチ時の友達紹介のキャンペーンも効果的でした。8月の段階で日本ローンチの話を小出しにしていて、事前登録を受け付けていました。期待感をあおることで、ローンチに向けて良い波を作ることができたと思います。

●2022年ヒット予測ランキング 1位は「Miles」「ANA Pocket」[日経クロストレンド]

●Miles掲載メディア一覧

Q. 急激な成長でしたが、その点は予想していましたか?

[髙橋] 日本でも必ずヒットするとは思っていたものの、正直ここまでとは思っておらず、予想外でした。急激にユーザーが増えたので、プロダクトのインフラまわりを強化する必要が出てきました。その点は米国と連携して進めました。またユーザー増加に伴い、カスタマーサポートの対応も想定以上の数となりました。チームメンバー全員で、カスタマーサポートの対応も行いました。

Milesは走り出したばかりのスタートアップです。やりたいことは数多あっても、全ては対応できないので、つねに選択と集中を意識しています。

Q. 今後のMilesの日本での展開について教えてください。

[髙橋] 現在は、USの仕組みをベースにしたシステムですが、より日本のマーケットにフィットしたサービスにしていきたいと思っています。今はスマホの位置情報がベースですが、今後はデータ連携の幅を広げて、さまざまなスマートデバイスからアクティビティを記録するものにしたいです。

ユーザー数は継続的に増えていて、日本のユーザーとフィットしているのは、デイリーアクティブユーザーなどの数字からも明らかなので、日本のユーザーのみなさんにさらに使ってもらいやすいサービスにしていきたいと考えています。

7. スクラムスタジオならではの日本進出サポート

第一弾のMilesの日本進出全面支援、まだはじまったばかりですが、海外スタートアップの日本進出について、多くのお引き合いをいただいています。スクラムスタジオが今後推し進めていく日本進出サポートはどんなものになるのでしょうか。

Q. スクラムスタジオとして、これまでのナレッジや資産が活きたポイントはありますか?

[髙橋] Milesの最初のメンバーは全員スクラムスタジオ所属です。日米のスタートアップ事情に明るく、そして海外スタートアップの日本ローンチの経験がある人間が複数いるというのは、最大の強みだと思います。

またサービスの運営だけでなく、資金調達もサポートしています。スクラムスタジオが運営するオープンイノベーションプログラムのパートナーのネットワークが、資金調達にも活きています。Milesの場合は資金調達だけでなく、ユーザー特典についても、そのネットワークから多くの特典をご提供いただきました。

PRの面でも、スクラムベンチャーズやスクラムスタジオのこれまでのメディアの皆さんとの関係が活きたと思います。

Q. 今後のインキュベーションプロジェクトについて教えてください。

[髙橋] インキュベーションは継続的に取り組んでいきます。実は現在、自動調理自販機を開発する米スタートアップ Yo-Kai Express のサポートも行っています。

我々のリソースや知見が活かせるスタートアップであれば、ぜひ取り組みたいと思っていますので、日本市場に興味がある方は、ぜひお声がけください。

 

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