渡米して挑戦したインターンシップを振り返って
スクラムベンチャーズ、スクラムスタジオには常時複数の学生&社会人インターンが在籍しています。彼&彼女らが仕事を通じて感じたことをブログでも発信しています。インターンに興味がある方はこちらから自己紹介と希望の拠点(東京・サンフランシスコ)を添えてご連絡ください。
この記事を書いた人: 得能 悠平
富山県で生まれ、関西の大学で財務会計を専攻中。
インターンのきっかけ
幼少期から事業を起こすことに関心を持っていました。それは周囲が新しい事業を立ち上げる環境に身を置いていたからかもしれません。夏休み中には、知人のスタートアップの手伝いを通じて、事業の裏側に触れる機会がありました。特に、資金調達の観点からビジネスを見ることに魅力を感じ、大学では財務会計を専攻しました。
その学びの中で、スタートアップの成長フェーズにおけるベンチャーキャピタルの存在を知り、投資や上場のニュースをチェックするようになりました。そして、特定の企業に投資が集まる理由について深く興味を持つようになりました。この疑問を解決するために、日本でベンチャーキャピタルのインターンを考えました。しかし、最先端の環境で学び、世界で通用するファンダメンタルを鍛えたいという思いから、起業が活発なシリコンバレーのベンチャーキャピタルでインターンすることを決意しました。
偶然にもScrumでインターンしていた方の記事を見つけました。その後代表の宮田さんとコンタクトを取る機会をいただき、ありがたいことにインターンシップが実現しました。
業務内容
インターン期間中は主に投資業務、スタジオ業務、Scrum Connect Onlineの運営の3つに携わりました。
1. 投資業務
Scrumでは今まで100社を超える企業に投資を実行しています。私も投資チームのミーティングに参加し、投資の意思決定のプロセスを学びました。
スタートアップへの投資プロセスは、まずソーシングで投資候補企業を見つけ、次にデューデリジェンスを行って企業の評価をし、最後に投資判断を下します。
ソーシングでは、スタートアップのファウンダー(創業者)との繋がりが重要です。投資案件がファウンダーから持ち込まれる場合もあれば、逆に投資チームからファウンダーにアプローチすることもあります。週次のミーティングでは、これらの状況を共有します。ミーティングを経てデューデリジェンスを行うことが決まると、ファウンダーから財務情報やプロダクトに関する情報を入手し、市場の成長性、競合に対する優位性、エグジット戦略、チームのプロフィールなどを評価します。
デューデリジェンスでは、投資チームのメンバーから多くのアドバイスを頂きました。特に印象に残っているのは、プロダクト分析の際に、プロダクトが広く普及した場合、それがどのような社会を作り出すのか、つまりそのプロダクトの「ビフォーアフター」を考慮することの重要性でした。プロダクトの機能だけでなく、それを使うことで誰にどのような利益をもたらし、どのように社会に影響を及ぼすのかを考えました。また、同様の利益を提供する他のサービスとの違いにも焦点を当て、リサーチを行う際にはそれを意識しました。
デューデリジェンスを行う上で、スピードが重要であることも学びました。最初は特定の情報を見つけることに固執してしまい、リサーチの進行が遅れてしまいました。しかし、宮田さんから「新人の強みは体力とスピード」というアドバイスを頂いてから、いくつかアプローチを検討し、成果が出なかった場合はすぐにそれを報告するようになりました。また、自分の切り口が間違っている可能性もあるので、どういうアプローチを試したかを併せて報告しました。このような軌道修正を続けることで、スピードと精度を両立して高めました。
私が投資業務に関わった「222」というスタートアップがあります。「222」は実店舗と連携し、Z世代向けにイベントを通した交流の機会を提供しています。既存の出会い系アプリとは異なり、「スワイプなし、プロフィールなし、DMなし」が特徴で、ユーザーは性格診断を受けるだけで、パーソナライズされた友達作りのイベントが提案されます。全ての交流が公共の場で、しかもグループで行われるため、本当の友達を探している人々にとっては魅力的なサービスです。コロナ禍で新しい友達作りの機会に恵まれなかった私自身から見ても、「222」は画期的で、既存の出会い系アプリに飽きてしまった人や、新しい方法で親友を探したい人々から大きな支持を得られると考えています。「222」のような特徴的な価値提供を行っているスタートアップと出会うことができるのが、ベンチャーキャピタルとしてスタートアップ投資に関わる醍醐味の一つだと感じました。
2. スタジオ業務
Scrumではスタートアップ投資に加えて、日本の大企業と世界のスタートアップとの事業共創をサポートしています。2018年から始まり、2021年にスクラムスタジオ株式会社として新規事業創出を手掛けています。
その仕事内容はアクセラレータープログラムの運営、海外スタートアップの日本法人設立など多岐に渡ります。その中で私はスマートシティや脱炭素領域の市場調査とスタートアップの発掘に携わりました。私自身北陸の田舎で育ったこともあり、街づくりや環境といった領域に特別な興味を持っていました。
市場調査では、特定の市場における投資の動向や提供されているソリューションを調査しました。スタートアップの発掘では、日本のパートナー企業とシナジーを生み出す可能性のあるスタートアップを探しました。投資業務と同じソーシングのプロセスを用いるものの、スタジオ業務でのソーシングは異なる目的を持っています。投資業務ではソーシングが投資候補企業の探索を意味するのに対し、スタジオ業務ではソーシングは、条件に適合する候補企業の選定を指します。言い換えれば、前者は視野を広げることを目指すのに対し、後者は解像度を高めることを目指します。
リサーチを担当するだけでなく、現地の日本人メンバーとして日本企業の方とのパートナーミーティングにも参加させていただきました。その中で先述の「222」のサービスをZ世代の視点から企業の方に説明する機会をいただけたのは非常に貴重な経験でした。
3. Scrum Connect Online
世界中のスタートアップとのネットワークを持つScrumでは日本の大企業向けにスタートアップ情報プラットフォームScrum Connect Onlineを提供しています。
私の役割の一つに、米国の技術系メディアを翻訳し、SCOのユーザーが最新のテクノロジー情報にアクセスできるようにプラットフォームを整備するというものがありました。ただ英語を日本語に翻訳するだけでなく、言葉のニュアンスにも細心の注意を払いました。翻訳作業に取り組む際、関連記事を広範囲に読むことで、業界についての深い理解を得ることができました。
また、SCOでは世界中のスタートアップをデータベースで閲覧することが可能です。私はデータベースとニュース記事を関連付ける作業を担当しました。海外のニュース記事を読み、その中で取り上げられているスタートアップの詳細情報を知りたいと思ったユーザーが、SCOのデータベースへと容易に移動できるようにしました。さらに、特定のスタートアップについては、その事業内容をより詳しく理解できるように、新聞や他の日本語メディアの情報を補足しました。
インターンでの学び
・AIに対する自分の価値について
AIが仕事に活用されるようになり、自分の価値をどうやって示せばいいのかということを常に考えた3か月でした。AIの活用が増える中で、私が価値を示すために必要だと考えたのは、目標達成のための試行錯誤を続ける「GRIT」というスキルでした。3か月間のインターン期間を通じて、持続的な意欲を保つことが人間の役割をAIから守る重要な要素であると感じました。その一方で、AIは便利なツールであり、積極的に利用すべきだと思います。現時点で、AIは補助的な存在であり、意思決定は主に人間が行っていますが、将来的にAIが意思決定にも関与する可能性があります。
私のインターン期間中、Chat-GPTをはじめとした生成AI(Generative AI)のリリースが相次いで発表されました。これについては投資チームのミーティングでも活発な議論がありました。画像生成AIや音声生成AIのような新たなスタートアップも出現し、私はこれらの市場動向やスタートアップのリサーチを担当しました。その一環で、数分間の自分の声の録音だけで自分の声のクローンを作るAIを実際に試し、その精度と技術進化に驚きました。
AIを含むツールが今後、仕事の効率化に大いに貢献していくことを確信しています。知識や情報については、私の知識量では検索エンジンやAIに敵いませんが、それらをうまく活用することでリサーチの精度を向上させることが重要だと思います。実際、私もリサーチにGPT-4やBingのチャットボットを活用しました。それらはしばしばキーワード検索よりも高精度な情報を提供してくれる一方で、提示される情報には真偽不明なものもあるため、複数の情報源と比較しながらリサーチ結果を精査することが必要だと感じました。
インターンの後半には、世界で最も有名なアクセラレータープログラムと言われるY-Combinatorのデモデーに参加しました。AirbnbやDropboxを生み出したこのプログラムには、273社が参加し、そのうち60社がAIや機械学習関連のスタートアップでした。今回のトレンドは生成AIであり、日を追うごとに更新される情報をキャッチアップするのは大変でしたが、新しい技術が次々に登場し、特に学びの多い2日間でした。
この3か月間の経験は私にとって、技術とビジネスの交差点で働くことの醍醐味を教えてくれました。個々のスタートアップが持つテクノロジーの可能性を理解し、それをどのようにビジネスに活用できるかを考えるのは、とてもワクワクすることでした。それと同時に、人間の役割がテクノロジーとどのように共存し進化していくかという大きなテーマについても深く考える機会となりました。
・ネットワーキング
アメリカに来て感じたことは人と人の繋がりを大事にする文化です。私は単身でアメリカに来たため、現地の人と関わるために様々なネットワーキングイベントに参加しました。同時に、直接対面でのコミュニケーションの重要性を改めて認識しました。コロナ禍でオンラインコミュニケーションの利便性が際立った一方で、同じ空間でボディーランゲージを交えてコミュニケーションを取ることの価値を再確認しました。私はイベントアプリを通じて様々なイベントに多く参加しましたが、Scrumも自社主催のネットワーキングイベントを開催していました。その企画や運営に関わる機会も得られました。イベントでファウンダーと話す機会があり、その際にシリコンバレーの開放的な雰囲気に感銘を受けました。見ず知らずの人であっても、「Hi!」と声をかけるだけで会話が始まる環境で、皆が自身の事業やアイデアについてオープンに話し合います。私は生まれてからずっと日本育ちだったため最初は会話するのに苦労しましたが、そんな自分の話をファウンダーの皆さんはウンウンとうなずいて聞いて興味を持ってくれました。その経験から、シリコンバレーの包容力への感謝と愛着が生まれました。また、私が頻繁に通っていたクライミングジムでも、自ら事業を立ち上げているエンジニアの方々との交流の機会が多くありました。さまざまな場面で起業家の方々と交流できたことは、私にとって貴重な経験でした。
最後に
この3か月間は、たくさんの人々からの支援を受けながら、自身の成長を実感できる期間でした。普通の大学生活では体験できない、スタートアップ投資の最先端で働く経験は、私にとって本当に価値あるものでした。この機会を提供してくださった宮田さんをはじめ、Scrumの皆さんに心から感謝しています。ありがとうございました!