スマートシティをテーマに日本の大企業と世界中のスタートアップと事業共創を目指すグローバル・オープンイノベーション・プログラム『SmartCityX』、1 年目の成果を発表(前編)

July 28, 2021 イベントレポート

生活者の身近な日常シーンを変える、新たなサービスを共創

2021年6月23日、スクラムスタジオは昨年8月26日にローンチした、ニューノーマル時代のスマートシティプロジェクト『SmartCityX』の1年目の報告会を行いました。『SmartCityX』は、デジタル化やコロナ禍の社会変容を前向きな未来への変革の機会と捉え、各業界を代表する大企業と世界中のスタートアップが協働し、産業や技術の視点だけではなく、生活者目線で価値の高いサービス及びアプリケーションを共創するグローバル・オープンイノベーション・プログラム。今回の発表会は時代を反映して完全オンラインで行われました。

当初は、パートナー企業6社でスタートしたこのプログラムは、今までにない取り組みとして注目され、多くの追加参加企業、地方自治体を得て、現在8社のパートナー、5社のサポーター、6つの地方自治体/地域コミュニティ、3つのリソースパートナーの参画を得るまでに成長しています。

SmartCityXの呼びかけに、世界39の国と地域から351のスタートアップが応募。数々のミーティング、厳正な審査の末、20の国と地域から95のスタートアップが採択されました。

そして、60人を超えるメンターの協力を得て、キックオフ・マッチングウィークや、ワークショップを開催し、それぞれのスタートアップをパートナーと結びつけ、大企業、自治体、及びスタートアップ間で事業開発を進めてきました。

SmartCityXの特徴は3つ。

ひとつめは『生活者視点』であること。世界中のスタートアップとともに産業や技術の視点ではなく『生活者』の視点からよりよい暮らしを考えていきます。

ふたつめは『適用可能性』があること。特定のエリアにおける街づくりではなく、地域ごとの多様性を前提に、課題やニーズに応じて適用可能なサービスの開発に軸足を置いていきます。

最後に『事業実装』を伴うこと。先進自治体やメンターにも参画いただき、実証実験で終わらない将来の事業化と具体的な社会実装を目指していきます。

そのために、プロジェクト序盤にワークショップにおいて街の『あるべき姿』を全体議論しました。そしてそれをSCX Principles(原則)として定義。共有しました。

これも3つあり、ひとつめは『カラフル』。誰もが生きたい人生を生きることができる街であること。時間、空間に制約されることなく多様な人の多様な幸せを叶える街であること。

ふたつめは『ライフアップデート』。箱モノを作ってオシマイではなく、ソフトウェアで進化し続ける街。人が街に合わせるのではなく、街が人に合わせてアップデートしていくことを考えました。

3つめは『オーナーシップ』。誰かに与えられた『他人ごと』ではなく、住んでいても、離れていてもオーナーシップが持てる街。参加することで誇りや愛着がより深まる街をイメージしました。

1年間のプログラムを通じて、生活者の身近な生活シーンを変える、新たなサービスが生まれています。

コロナ禍においても闊達なビジネスコミュニティを醸成

オープニングで口火を切ったのは、スクラムベンチャーズの創業者兼ジェネラルパートナーにして、スクラムスタジオの代表取締役会長でもある宮田拓弥です。

宮田は、このプログラムがCOVID-19のパンデミックが世界を襲った2020年の8月にスタートしたことを強調。昨年の最初の発表会から、キックオフ、ワークショップなどの多くが、ビデオ会議や、チャット、オンラインホワイトボードなど、さまざまな新しい時代のツールを使って行われたと話しました。

「SmartCityX」主催企業、スクラムスタジオ代表挨拶

スクラムベンチャーズグループのミッションは『世界と日本をつなぐイノベーションのOSになる』というもの。このミッションを加速するために、スクラムスタジオの社長としてUberやWeWorkなど、グローバルユニコーンの日本進出に大きな役割を果たした髙橋正巳を迎えました。その髙橋が宮田に続きご挨拶しました。

髙橋は、イベントの式次第を説明するとともに、スクラムスタジオは何を目指しているのか? SmartCityXとは何かについて説明しました。

「スクラムスタジオは、アクセラレーション、インキュベーション、コネクションという3つの柱に基づいて、大企業とスタートアップが協力し、成功する新規事業を共同で提供する機会を提供しています」と髙橋は語りました。

「SmartCityXは、複数のステークホルダー間の有意義な会話に火をつけることを目的としたグローバルなアクセラレーションプログラムです。前例のない変化と不確実性の時代において、オープンイノベーションは変化に適応するだけでなく、社会を正しい方向に前進させるための鍵であると考えています」と強く訴えました。

プログラムメンターSue Stash氏によるキーノートスピーチ

続いて基調講演としてお話ししたのはメンターであるパンデミック・インパクト・ファンドのジェネラルパートナーのSue Stash氏です。

彼女は、非常に豊富な経験を持っています。起業家としては、クリーンテックや、ヘルステック関連のビジネスを立ち上げ、現在は投資家として物事を見ています。IBMやサン・マイクロシステムズで働いた経験も持っているし、大企業のM&Aにも携わったことがあります。

彼女のファンドは、レジリエンスへの投資を重視しています。都市のレジリエンスを向上させるためには、テクノロジーをもっと積極的に導入していくべきだと言います。たとえば、橋の経年劣化を計測するIoTデバイスなどでインフラをモニタリングするのもそのいい例です。

「多くの課題は地球規模で考えるべきで、相互に学び合い、助け合うべきです。たとえば『高齢化社会』について、日本は世界に先んじて経験を積んでいます。それぞれの国において、それぞれの経験値があるはずです。互いに学び、共有するべきです。また、COVID-19流行後の世界において、もっとさまざまな企業に、もっと早く資金が行き渡るように、もっとリスクを取るべきだと考えています。早く軌道修正すれば、我々はより良い社会に向かえるはずです」と、語りました。

コミュニティ内で特に注目された6つのスタートアップが発表

続いて、スクラムベンチャーズとスクラムスタジオでマネージング・ディレクターを務めるMichael Promanが、SmartCityXのここまでの道のりを説明。そして、95ある参画スタートアップの中から、コンシュマープロダクト&サービス、モビリティ、スマートビルディング、エネルギー&資源&サスティナビリティ、インフラストラクチャー、ソーシャルイノベーション……のそれぞれの分野で卓越した6つのスタートアップのデモをご紹介しました。

1. 見る人によって、違う映像が見えるスクリーン『Misapplied Sciences』

たとえば、空港を歩いているとします。そして、モニターを見た時に自分の乗る飛行機の情報だけが表示されていたら便利だと思いませんか? あなたの横にいる人は、同じスクリーンを見ていますが、その人物は彼自身が乗る予定の飛行機の情報が見えています。つまり、見る角度によって違う映像を表示することができるテクノロジーです。もし、100人が違う条件でこのモニターを見たら100人に違う映像を見せることができます。

「これをパラレル・リアリティと我々は呼んでいます」と、アメリカから参加したMisapplied Sciencesの共同創設者兼CEOのAlbert Ngは言います。いくつかの興味深いデモでは、鏡などを使って、ひとつのモニターに複数の映像が写っていることが説明されます。まったく、信じられない出来事のように思えますが、これがMisapplied Sciencesの開発したモニターなのです。彼らは5年半にわたってステルスモードで開発を続け、ついにCES2020でその製品を展示し、多くの最高のCESのアワードを獲得しました。空港や鉄道などの交通機関、エンターテイメント、ショッピングモールなどの道案内や、広告表示など可能性は無限大です。このテクノロジーは間違いなくSmartCityXでも多くの場面で役に立つでしょう。家の壁に表示されているグラフィックを人によって違うように見せるとか、案内板に使うとか。パーソナライズされた大型モニターはこれまで多くの人に同じものしか伝えられませんでした。それが個別に違う情報を表示できるなんて、大きな進歩です。

角度だけではなく、たとえば特定のスマートフォンを登録すれば、その人だけに対して情報を表示することもできます。これさえあれば、リアル空間に存在する大型モニターに、ウェブ上であるかのようにパーソナライズされた情報を表示することが可能になるのです。

2. ドローンの母艦にして、基地

『EVA』

みなさんは、ここ10年ほどの間に驚くほどドローンが進化したことをご存知だと思います。EVAは、このドローンのインフラ、プラットフォームを構築するスタートアップです。話をしてくれたのは創業者兼CEOのOlivier LE LANNです。

たとえば、これからコンビニエンスストアや、ピザショップ、宅配便などの配達をドローンが担うことになるでしょう。気象や、交通状況を監視するドローンもあるかもしれません。また、災害救助、自然調査のためにテンポラリーのドローン発着場が必要になるかもしれません。EVAはこれらの発着場、充電設備、倉庫……などを提供する会社です。たとえば、物流のためには多数のドローンが入るコンテナ型の基地を固定設備として運用するのがいいかもしれません。テンポラリーで必要になるドローンに関しては、それらの機能を備えたコンテナを車載し、輸送可能にすることで利便性が大幅に増すでしょう。

将来的にはECの約40%がドローンで輸送されると言われています。大量のドローンをコントロールするには通信インフラが必要になりますが、EVAは通信インフラの構築もドローンで行おうとしています。EVAのドローンステーションと、飛行中のドローン、そして最終的には高空を飛ぶドローンから人工衛星までを垂直異種ネットワークとして通信インフラを構築します。通常の電波はちょっとした立ち木で通信を遮られることになりますが、この垂直異種ネットワークのメッシュは、通信の死角をなくします。これらの施策によって、配送コストは驚くほど下がり、現在10マイル先に配達するのに約8ドルと言われているコストを将来的には25セントにまで下げられるというのです。

今後、世界の先陣を切って高齢化が進んで行く日本では、物流の最後の1マイルのために莫大なコストがかかっていますが、EVAの技術革命によって過疎地の高齢者に直接お買い物を届けられるかもしれません。

3. 身に付けるセンサーなしで、高齢者の転倒を検知する『Caspar.ai』

3つめのCaspar.aiについて話をしたのは同社の創業者兼CEOのAshutosh Saxenaです。彼はスタンフォード大学でディープラーニングの分野で博士号を取得し、コーネル大学では教授を務めました。アメリカでは教授が実際のビジネスに関わったり、スタートアップを起こしたりすることがよくあります。

日本ほどではないにしても、アメリカでも高齢化は大きな問題です。離れて住む高齢者が心配な人も多いでしょう。また、同居していたとしても四六時中一緒にいるわけにはいきません。家族が外出している時に、トラブルが発生することもあるでしょう。

Caspar.aiは、そのような高齢者のトラブルをセンサーで確認し、通知を出すシステムです。

たとえば離れて住む家族が「Caspar、ママは元気?」と聞くことができます。するとCasperは「あなたのお母さんは昨日とてもアクティブで、昨夜の睡眠の質も良かったです。彼女は朝の8時まで寝室にいました」と、答えてくれたりします。

利用するのはスマートホーム技術とセンサーだけです。Caspar.ai社は転倒検知についても7つの技術を持っており、意図せぬ転倒があった場合、いつでもすぐにアラートを出すことができます。

データはネットに送られず、ローカルで処理されるというのも特徴です。プライバシーを侵害しないように十分配慮した設計となっています。これらは設置されたセンサーで感知されます。何かデバイスを身体につけてもらう必要はありません。高齢の方は生活習慣を変えることを嫌いますし、高齢になると付け忘れなども起こり得ますが、ウェアラブルデバイスを使わなければそういう心配もありません。

4. 食品廃棄物から水素を。夢のような電気分解バクテリア『Electro-Active Technologies』

食品廃棄物の問題と、エネルギーの問題。この両方を一気に解決しようというのが、Electro-Active Technologiesです。プレゼンテーションは共同創設者でCEOのAlex Lewisが行いました。

Electro-Active Technologiesが取り組んでいるのは、食品廃棄物の問題です。食品廃棄物の処理には世界全体で、2.5兆ドル(約278兆円)が費やされており、同時に温室効果ガス排出量全体の約8%を占めています。

Electro-Active Technologiesが研究しているのは、微生物電気分解という手法で、生ゴミの液体部分をメタンではなく陽子と電子に分解し、その後陰極で陽子と電子を再結合させて水素を作ります。この仕組みで、高効率で不純物の少ない水素の製造が可能になります。

このシステムは分散型で、食品廃棄物や生成した水素を遠方まで輸送することなく、都市近郊の廃棄物処理施設の近くにモジュールを設置することで、水素を生成することができるのです。

これは日本でのSmartCityXのプロジェクトにおいても、多くの街のシステムに取り入れることができる仕組みで、さまざまな日本企業との協業の可能性が検討されています。

5. 膨大なデータをAIで分析して、より具体性の高い気象情報を提供『Tomorrow.io』

これまでの4つのスタートアップと同様、Tomorrow.ioもアメリカからの参加です。

Tomorrow.ioは、世界で唯一のウェザーインテリジェンスプラットフォーム。企業の70%が不安定な天候と気象災害リスクによって影響を受けます。都市のさまざまな営みも天候によって大きな影響を受けます。企業のCEOや都市の管理者にとっても、天候は重要なテーマです。

特に、近年は気象災害が激甚化しているのはみなさんご存知のとおり。30年スパンの予測推移を見ると2030年には約4兆ドル(約444億円)の資産がリスクにさらされていると言われています。

Tomorrow.ioは大規模な気象データを元に高性能なコンピュータ上で独自のモデルを実行し、気象情報に変換して分かりやすいソフトウェアを提供します。利用するデータには地域モデル、独自のモデル、グローバルモデルがあり、観測モデルとしてWeather of Things(WoT)や、衛星データ、一般に公開されているデータも利用しています。これらのデータを機械学習のデータセットとして、AIで気象を予測する仕組みになっています。

多くの場合「千葉県で雨が降ります」と言われても自分ごとなのかどうかは分かりませんが、運転している時に「視界が悪くなるほどの豪雨が近づいています、9番出口では10分間45km/hにまで減速しましょう」と言われれば、対応が可能です。

時間、場所、行動に関して、詳しい情報を提供できるのがウェザーインテリジェンスの特徴です。大規模な予測データから、さまざまなダッシュボードで利用可能な情報として気象情報が提供されます。これは将来の都市において重要なインフラのひとつになるはずです。

6. 犯罪の起こりそうなエリアを推定、巡回の効率を向上『Singular Perturbations』

最後のSingular Perturbationsは、日本のスタートアップで、すでに日本の警察でも利用されています。紹介したのは創業者兼CEOの梶田真実さん。

同社は、計算犯罪学の専門家を集めた会社で、メンバーの67%が、空間統計学、機械学習、コンピュータサイエンス、犯罪学などの博士号を持っています。

Singular Perturbationsの『CRIME NABI』は痴漢、不審者、暴行、窃盗などのデータから犯罪のヒートマップを作成します。これにより、一般市民にとって通ると危ないエリアが分かりますし、警察にとってはパトロールのルートを作成することができます。効率的なパトロールを行うことで、少ないスタッフで有効なパトロールを行うことができます。すでに日本の足立区では、この仕組みを使って痴漢を逮捕することができています。

現在進行中の95のプロジェクトの中から、さまざまなカテゴリーを代表する6つのスタートアップをご紹介しました。これからの都市にはまだまだ、さまざまな解決すべき問題が残されており、我々には多くのチャレンジが必要です。

後編では、日本の大企業、地方自治体のコラボレーションの発表をご紹介します。

後編に続く

SmartCityX 2020 サマリービデオ

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