自殺予防AIアプリ「Voi」創業者インタビュー: Bill J. Hudenko

February 19, 2021 投資先紹介

このコンテンツはスクラムベンチャーズの米国投資チームの Rya Mendoza による Medium Founder Spotlight: Voi を翻訳したものです。

今回のスタートアップ創業者インタビューでは、VoiのCEOであるBill J. Hudenko氏(ダートマス大学心理&脳科学教授)に話を聞きました。自殺の危機に直面している人をVoiがどのように特定し、サポートグループを作り、さらなる危機を防ぐためにAIを活用しているのか?詳しく聞いています。Voiの技術とイノベーションは、このコロナ禍で、さらに重要性が増しています。

スクラムベンチャーズが2013年に初めて投資を行ったとき、同社はFirst Opinionというモバイルテキストアプリを運営しており、ユーザーと医師をリアルタイムで繋ぎ、健康上の悩みに24時間対応できるようにしていました。当時、医療現場でのリアルタイムコミュニケーションは非常に新しく、病院での導入はまだまだ進んでいませんでした。そんな中でも私たちが同社への投資に興味を持ったのは、コミュニケーションのプラットフォームとして、多くの用途に応用できると信じていたからでした。

その後、新しい技術が取り入れられ、マーケットが拡大しているメンタルヘルス領域にフォーカスしたVoiが誕生しました。Voiは早期発見・早期介入のソリューションが少ない自殺予防に取り組んでいます。

Voiは、軍や刑務所といった以前から自殺率の高い組織との連携を強化しています。また自殺率の高い日本での展開をスタートしています。行動科学を活用しプロダクト開発に取り組むVoiは、発見するだけでなく予防にも取り組むという点が非常にユニークです。

スクラムベンチャーズは、Voiのようなメンタルヘルスのためのツールを支援できることを嬉しく思います。

Q. ヘルスケア業界の中でVoiはどのような存在なのでしょうか?Voiのミッションは?

私たちのミッションは、自殺率を下げることです。2017年にVoiを立ち上げたとき、私たちはテクノロジーを使って行動&メンタルヘルスの分野にインパクトを与えたいと思っていました。多岐にわたるマーケット調査の結果、自殺が新しいアプローチを必要とする大きな問題であることがわかりました。当時、米国では自殺が30年ぶりの高水準にありました。そしてCOVID-19により、多くの専門家は、自殺率がさらに上昇すると予測しています。

Q. 実現のために必要なことは?

自殺率の低下には、自殺の発見と予防の両方に取り組むことが必要不可欠です。Voiの最初のステップは、自殺検知の最大の課題である「自殺リスクが差し迫っている人」を特定する技術を開発することでした。長期的なリスクを特定する自殺検知の方法は数多くありますが、72時間以内に自殺のリスクがある人を正確かつ迅速に特定するツールはこれまでありませんでした。

迅速な対応を実現するために、私たちはバーモント大学医療センターで開発されたSERAS(Systematic Expert Risk Assessment for Suicide)と呼ばれるツールを活用することにしました。このツールの特徴は、わずか2分で完了し、専門家のトレーニングを必要とせず、専門家の精神科医と比較して分類精度が0.94以上であることです。何よりも優れているのは、SERASが組織から得られるデータ(自殺未遂や自殺完了に関するデータなど)を利用して「学習」し、時間の経過とともに予測精度を向上させることができるという点です。私たちはSERASの開発者と提携し、この手法を中心とした技術ソリューションを構築しました。これは、新世代の自殺リスク検知と言えるでしょう。

Q. 自殺予防には、単なるアプリ以上のものが必要です。Voiはこれにどのように対応しているのでしょうか?

そうですね、予防にはフォローアップケアが欠かせません。Voiでは、リスクのある人の長期的なサポートを考えました。この分野の文献を調査し、自殺予防のための最も重要な要素の一つは、友人や家族、愛する人など、その人を取り巻くサポートネットワークを構築することでした。社会的なサポートがあると、自殺未遂のリスクが大幅に低下します。この問題に対処するために、私たちはVoi Reachというモバイルアプリを開発しました。このアプリによりユーザーは遠隔地のヘルスコーチと即座に接続されます。コーチはユーザーをサポートする3人を決め、アプリを介して全員とのコミュニケーションを促します。これにより、コーチはこれまでにない方法で患者とサポートチームの両方を支援することができます。

次に、高度な人工知能アルゴリズムを使用して、遠隔指導を行いながら、コーチがその人のリスクを継続的に監視できるようにしました。患者が支援の必要性に気づく前に手を差し伸べるように設計された初めての技術です。

自殺の発見と予防に対するアプローチを考えると、Voi DetectとVoi Reachは自殺予防の基準を再定義するものだと考えています。

Q. Voiを始める前のキャリアは?これまでの経歴を教えてください。

私は心理学者であり、ダートマス大学の心理・脳科学科の教授でもあります。また、ダートマス大学医療センターの精神科の非常勤講師も務めています。学者として、私のキャリアは精神医療の提供を改善することに焦点を当ててきましたが、コンピュータサイエンスにも長く興味を持っており、2001年に独学でコードを書き始めました。

それ以来、私はテクノロジーとメンタルヘルスの両方に魅了されてきました。2012年には、精神疾患を持つ人のためのコラボレーションケアの会社を立ち上げましたが、2017年にFirst Opinionに買収され、その後Voiを設立しました。私はダートマス大学でアカデミックな仕事をしていますが、私の時間の大半はVoiに捧げています。

Q. 会社を立ち上げるときに 「あ、これだ!」と思った瞬間はありますか?

会社の目的を検討していたとき、ジョイント・コミッション(米国の医療評価機関)が、すべての病院の救急部門での自殺のスクリーニングを義務付けることを発表しました。もともとこの分野に興味を持っていた私たちですが、「あ、これだ!」と思った瞬間に、この領域を変えて行こうと決意を新たにしました。適正なスクリーニング手段がない中で、この分野でのイノベーションが必要だと判断したのです。

Q. 創設者としてこれまで遭遇したチャレンジは?

病院への医療システムとしての販売は大きなチャレンジでした。販売サイクルが長く、適切な意思決定者にアクセスするのが難しいことに加えて、多くの病院はケアの欠陥を認識しているにもかかわらず、問題の優先順位をつけていないのです。

ターゲットを米国空軍やバージニア州更生局といった軍や更生機関に焦点を移してからは、状況が変わりました。新たなターゲットにサービスを提供できたことで、より迅速にサービスを拡張することができました。

Q. Voiの文化について教えてください。他のスタートアップとの違いは何ですか?

私たちは非常に深刻な問題の解決に取り組んでいます。それは同時に非常にパワフルなミッションでもあります。自殺は私たちみんなにとって身近なものであり、このビジネスには、多くの人々に変化をもたら大きなチャンスがあります。つまり私たちのプロダクトは、人の命を救う可能性があります。

この使命に向き合うためにも、自分自身を向上させ、プロダクトを改善することに常に真摯に取り組まなくてはいけません。

この考え方は、当社のあらゆる部分に浸透しており、いい意味での緊張感を生み出しています。また、私たちはお互いに、そして私たちがケアをしている人たちへの思いやりの心を育んでいます。

Q. これから会社を立ち上げ、資金調達しようとしている他の起業家にアドバイスをお願いします。

スタートアップの進歩は決してリニアではありません。リソースは常に限られているので、製品ライン、システム開発、販売チャネルなどリソースを適切に分配する必要があります。起業家はみな、自分のビジネスに情熱をかたむけ、成功に向けて努力しています。しかしながら、自分だけでは実現できないこともあります。

自身の盲点に気づいてくれる専門家やアドバイザーなど、自分の能力を超えることができるチーム作りが必要です。製品のマーケットフィットを見ながら、柔軟に事業を構築できるなら、資金調達は後からついてくるでしょう。

 

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