「非テック企業の祭典」となったCES 2020
先週は、年始の恒例イベント、Las Vegasで開催される家電見本市CESでした。
毎年楽しみに参加しているイベントではありますが、今年は二つの「初」があり、いつも以上に楽しみにしていました。
一つ目は、「投資先企業がキーノートに登壇をする」ということ。もう一つは、「そのキーノートが「CES初」のカテゴリーである」ということです。
「パーソナライズ可能なディスプレイ」Misapplied Science
今回CESのキーノートと言う大舞台に登壇をした弊社の投資先は、Seattleに本社があるMisapplied Science(MS)社です。
MS社は、VRでもARでもない、PR(Parallel Reality)という全く新しい技術を開発しています。

VRやARのように専用のメガネを必要とせず、上の絵のように「人によって違う映像を見ることができるディスプレイ」がPR (Paralles Reality)です。
今回は、我々の共同投資家でもあるデルタ航空のブースに2種類のデモが設置されていたので、その映像を使って少し詳しく説明します。
1つめは「見る角度によって違う都市の映像が見える」というデモです。
私がディスプレイに対して角度が変わるように歩き回っているのですが、角度によって、メキシコシティ、東京、パリ、ソウルと異なる都市の建物が表示されているのがお分かりいただけると思います。
従来のディスプレイとは異なり、一つのディスプレイで、異なる角度に同時に異なる映像を表示することができるのです。
この動画をご覧になって、「見るタイミングによって絵を出しわけているだけでは?」という疑問に答えるのが下の写真です。

これは角度の違う12枚の鏡で、1枚のディスプレイを同時に見せています。12通りの違う絵が、角度の違いだけで同時に見えるようになっています。
分かりやすいユースケースとしては、野球場でホームとアウェイの席からそれぞれのチームの情報だけが見える、といったことが可能となります。
2つめは、「人をトラッキングして個別の情報を見せる」というデモです。

まずタブレットで、「自分の名前」「目的地」「言語」を入力してデモ用のボーディングパスを受け取ります。
デモは四人で同時に行われましたが、一緒に参加する3人と一緒に、ボーディングパスをスキャンします。

すると、私にはこのように私にパーソナライズされた情報が見えます。名前、目的地、ボーディング情報が表示されています。
説明が難しいのですが、同時にデモに参加している他のユーザには、それぞれのボーディングパスの情報が見えています。これは動き回っても、人物をトラッキングして同じ情報がずっと見えます。

途中で画面を切り替えて、事前に選択した言語で画面が表示されました。世界中から人が訪れる空港で、それぞれの言語で情報を表示することが可能となります。
Misapplied Science社は、電通さんと運営しているSPORTS TECH TOKYOの昨年のファイナリストにも選ばれていました。そこから続け様に「CESのキーノート」と言う大舞台に立つ姿をみて、投資家として感無量でした。
今回のデモと同様のサービスは、今年の夏にDetroitのデルタ航空のターミナルで展開予定です。出張の機会があれば、ぜひお試しください。
「航空会社」が初めてキーノートに登場
私の今回の二つ目の楽しみは、MS社のCEOのAlbertが登壇したデルタ航空のキーノートでした。
恒例の家電メーカー サムソン、自動車メーカー メルセデスなどに混じって、航空会社として初めて、デルタ航空のCEO Ed Bastianがキーノートを行いました。

飛行機系でも、JetBlueやエアバスなどは活発にスタートアップ投資を行っているのでよく顔を合わせるのですが、(おそらく)MS社の出資がデルタ航空にとって初めてのスタートアップ投資です。
初めてスタートアップ投資を行った巨大航空会社が、航空会社として初めてのキーノートで何を語るのかに注目が集まりました。
キーノートの中で使われた動画がこちらです。
MS社のPRディスプレイ、顔認識、タグなどいくつかの技術的な要素も散りばめられていますが、ポイントはそこではありません。
家、空港への移動、ラウンジ、そして飛行機に乗り、ホテルに着くまで、自社アプリを核にしながらパーソナルな体験をデザインしようと言う意思が伝わってくるムービーでした。
私は国内移動の際に、これまでSan Franciscoをハブにしているユナイテッド以外ほぼ乗ったことがなかったので、今回ほぼ初めてデルタ航空に乗りました。
私が普段日本に行くときに乗っている日系の航空会社のアプリと比べると、ユナイテッドのアプリも比較にならないくらい素晴らしいのですが、デルタのアプリを使った旅行体験は本当に素晴らしかったです。
予約情報の表示変更、チェックイン情報のリアルタイムなアップデート、ラウンジなど空港の細かい情報の表示など、些細なことではあるのですが、「旅行をするときに必要なことが全て」ちゃんとアプリに入っていると言うのは本当に気分が良いです。
このアプリに加えて、今回キーノートでは
- 渋滞情報をベースにしたライドシェアの予約
- 空港の混在情報をベースにしたチェックイン場所のおすすめ
- 顔認識を使ったスムースなチェックイン
- PRによるパーソナルなボーディング情報
- スマホから選べる機内エンタメ
- 到着地のフードデリバリー
- 機内でのコンシエルジュとのチャット
と言う、別に「SF的ではないけど2020年の消費者は必ず欲しいと思う機能」がしっかりと盛り込まれていました。
主役は「非テック企業」へ
今回共同投資家になったからと言う理由ではなく、これからもっとデルタ航空を使ったみたいと強く思いました。
デルタ航空のキーノートは、「技術発想」ではなく「利用者発想」で技術をうまく取り入れていく、非テック企業の技術活用のお手本のような内容でした。
(MS社とのコラボレーションもオープンイノベーションのお手本のように素晴らしいのですが、またそれは別の機会に)
これは過去3年の私のCESのポストです。
- 2019: 次の勝負は「5G × AI × XR」
- 2018: 普及期に入ったVUIとメーカーそれぞれの戦い方
- 2017: 「IoTコマース」時代到来。700ものAmazon Alexa搭載製品が登場した今年のCES。
これまではCES「テクノロジーのトレンドを考える」場として捉えてきました。
もちろん今回も、5G、AI、スマートシティ、空飛ぶクルマ、ARなど魅力的な技術の展示もたくさんありました。
ただ今回一番強く感じたのはタイトルにしたような「非テック企業」の台頭です。
デルタ航空以外にも、消費材メーカーのP&G、スポーツリーグのNFLがプレスカンファレンスを行うなど、様々な「非テック企業」がいかに自分たちのビジネスにテクノロジーを取り入れていくかと言う取り組みが目立ちました。
日本からもスポーツメーカーのアシックス、ハウスメーカーの積水ハウス、などのブースが存在感を放っていました。
この流れは来年以降さらに加速すると思います。
2021年は、銀行、鉄道、コンビニなどのような新しいカテゴリーの先進企業もCESに登場するかもしれませんね。
来週の東京、その次のSan FranciscoのTackle!では、CESの話をしますのでご興味がある方はぜひご参加ください(今回はBest Contributor賞が、Airpods Proだったりします)。