次の勝負は「5G × AI × XR」 CES2019

January 22, 2019 スクラム代表・宮田ブログ

遅れせばせながら、今年のCESまとめポストです。

今年も引き続き参加者の数は増え続けていた印象ですが、UBERやLyftの運用がかなり洗練されてきた(会場、ホテルの乗降場所が明確になったので、数十回乗りましたがほぼ5分以内に乗れました。自動運転オプションも何回か表示されましたが、こちらは残念ながら乗れず。)ので、会場間の移動もストレスなく過ごせました。CESは、投資先、スタートアップ、VCなどと一気に会えるので、毎年重宝しています。

さて、各所ですでに書かれている通り、今年はここ数年あったような「自動運転」「音声AI」というようなキャッチーな新トレンドを見いだすことは難しいCESでした

しかしながら、イベントの冒頭で行われたVerizonとLGの二つのKeynoteは、これから数年で来るであろう「次のトレンド」を考える上で非常に示唆に富む内容だったので、その紹介を中心にまとめたいと思います。

ご興味ある方は、過去二年のポストも合わせてどうぞ。

Verizon Keynote「5Gの8つの特徴」

まずは、アメリカ最大の携帯キャリアVerizonのKeynoteから。

昨年10月に、一部地域かつ家庭用のみではあるものの5GサービスをスタートしたVerizon。今回のKeynoteでは、自動車、IoT、医療など幅広い分野で大きなインパクトを与えることが期待されている「5Gが実現する未来」について語りました

今回のCESにおいても、5Gが大きなトレンドになると期待していましたが、実際はまだサービスやソリューションとして具体的なものはほとんどないというのが実態でした。 しかしながら、このKeynoteには「確実にやってくる未来」である5Gの時代がどのようなものであるかの示唆がたくさんあるので、お時間がある方は動画(1時間3分)もどうぞ。

スピーカーは、去年CEOに就任したHans Vestbergdです。

スウェーデン出身の53才。もともとCTOの彼が、黒いTシャツでエネルギッシュに語りかけるKeynoteは、いわゆる携帯キャリアっぽい感じではなくなかなかよかったです。

メインのテーマは、以下の「5Gの8つの特徴」について。

特にインパクトがあると考えられているのは、「速い (10GB/s)」「たくさん繋がる(同時接続100万)」「遅れない(Lattency 5ms)」の3つです。

  1. Peak Data Rate 10GB/s
  2. Mobile Data Volume 10Tb/s/km2
  3. Mobility 500km/h
  4. Connected Devices 1M/km2
  5. Energy Efficiency 10% of Current Consumption
  6. Service Deployment Time 90 min
  7. Reliability 99.9999%
  8. E2E Latency 5ms

この後、2つずつ4つに分けて説明が進められていきます。

まずは最初の2つ「Speed & Throughput」

通信においてスピードは何よりも大事です。

3Gの時代(10年ちょっと前です)に5MB/sとかだったのはすでに信じられませんが、5Gでは4Gよりも100倍というオーダーで早くなります

高速通信の恩恵を受けるのは幅広いカテゴリーになりますが、メディアの代表としてNew York Timesが登壇しました。

ちょうど来月でシリコンバレーでの日経新聞の紙の宅配が終了ということで時代の流れを改めて感じているわけですが、新聞社のデジタルシフトの成功例として語られるのがNew York Timesです

昨年11月に有料会員数が400万人、その内デジタルのみの会員が300万人を超えたと発表しています。

New York Timesでは、5G時代の新しいメディアのあり方を探る「5G Lab」を立ち上げ、主に「素材の収集」と「届け方」の2つの点でどう新しいテクノロジーを使っていくかを検討していくということです

これは去年大きな被害をもたらしたカリフォルニアの山火事の記事です。

左から2つ目と3つ目は、被災地域を上から撮影したドローンの映像でのBefore/Afterの写真です。今のドローンはほとんどがConnetedではありませんが、5Gになりリアルタイムで無人で動画配信できるようになれば、事故や事件などの現場からの情報収集は大きく変わりそうです。

右の2つは、実際の焼けた家の中をAR/VRで見せるというものです。写真ではわかりにくいですが、実際の家の中に自由に入っていくことができます。こうした新しい体験のコンテンツも、回線が速くなれば、様々な表現がハイクオリティで実現しそうです。

2つ目は「Mobility & Connected Devices」

Mobilityは「早く動くものでも繋がる」ということで、LTEでは350km/hだったものが、 500km/hでも繋がるということです。リニアモーターでもないとなかなか500km/hいかないと思いますが、新幹線での高速移動中でも安定して繋がるということでしょうか。

Connected Devicesは、「同時接続数が増える」ということですが、LTEで1平方キロあたり10万デバイス程度が限界だったのが、100万接続まで行けるということです。これは端末の数が爆発的に増えるIoT時代に必須の仕様ですし、大規模なライブイベントなどように一度に大勢が集まるようなユースケースでも力を発揮しそうです。

ここで登壇したのは、子会社のSkywardのPresident Mariah Scottです。

米国では2016年に商用ドローンが合法化され、すでに100万台以上が活用されており、ドローンパイロットも、10万人以上いるとのこと。電力会社、建設会社、通信会社など幅広い業種でドローンの活用が進んでいるものの、現在はどのドローンもワイヤレスには繋がっておらず、データのやり取りは着陸後となっているそうです。

これはCEOのHansが、Las Vegasの会場でコントローラーを握り、LAにいるドローンをリモートで飛ばし、そこから映像をライブ配信するというデモです。

これを日常的に行うことができるようになれば、人間にとって危険なもしくは行くことが難しい場所からの映像をどんどんとビジネスに活用できるようになりそうです。

さらにAIを活用することで、

すぐに災害場所を特定したり。

人の数や状況を測定したり、

車の混雑状況を測定するなんてことも、自動かつリアルタイムに行えるようになります。

災害対応、ニュース、監視など多くのあり方が変わりそうです

3つ目は「Service Deployment & Energy Efficiency」

Service Deploymentは、「新しいサービスが素早く導入できる」ということで、教育の事例で、これまでは複数の街にデジタル授業を導入するのに1週間程度かかっていたのは、これからは数分でできると。

Energy Efficientyは、「エネルギー消費の効率化」で、5Gでは、4Gと比較して電力消費量が90%削減されるということです。これは今や水同様のインフラとなった通信にとって素晴らしいことだと思います。

最後は「Latency & Reliability」

 

Latencyとは「通信の遅延」のことで、4Gで100msくらいはあるのに対して、 10msくらいに削減されるということです。

この程度のLatencyが実現されることで、コネクテッドカーや医療などクリティカルな分野での活用が期待されます。

医療分野での活用例として、医療にARを持ち込もうとするスタートアップMedivisのCo-Founder Chris Morleyが登壇しました。

カテーテルを使い頭蓋骨内を減圧するというのは、非常に一般的な術式だということですが、どの場所にカテーテルを差し込むかというのは、30年前から変わらず今でも医者の勘に頼って行われているということです。

これは彼らのAR技術を使った実際の手術の写真です。

ARゴーグルを装着した医者は、MRIの映像を実際の手術を受ける人の頭に重ね、脳や血管の場所などを細かく見ながら手術のプランニングができるということです。勘に頼ることなく、どこにどのくらいの穴を頭蓋骨に開けるべきかを詳細にプランできるといいます。

Latencyが極めて小さくなることで、医師はいわゆる「VR酔い」などを気にせずに、こうしたデータと向き合いながら手術に臨めるということです。手術の成功率の向上にも確実に寄与しそうです。

「5G」×「XR」による「選手目線映像」

 

最後は、ちょっとネタっぽい、未来っぽい話。

NBA Lakersの若手選手Kyle Kuzmaが、VRゴーグルをかけながらフリースローゲームをするというものです。

これが、Kyleのゴーグルから送られた、リアルタイム1st Person Viewの映像。

まだまだバスケットボールの選手全員がXRゴーグルをかけて試合をするというのは遠い未来のような気がしますが、そもそもヘルメットを被っているアイスホッケーのキーパーのリアルタイム目線映像なんかは実現可能かもしれません

MicrosoftのHoloLensの新バージョンがMWCで発表されるという噂もあるので、期待したいところです。

LG Keynote「AIによる事業の再定義」

 

続いては、家電メーカー大手LGのKeynoteです。

 

 

 

スピーカーはCTO のDr. IP Park。2017年にジョインしたばかりということでしたが、彼もなかなかプレゼンうまかったです。

 

LGは家電メーカーとして、いち早くAmazonやGoogleなどの音声AIのインターフェースを取り込んだ製品も導入してきましたが、今回、AIという技術の進化に正面に取り組み、その本質を自社の戦略に取り入れ、プラットフォームへと昇華させていくことを発表しました。

多くの「自社資産としてのデータを持つ企業」、「AI時代の事業のあり方を模索している企業」の方々に聞いてもらいたいKeynote(1時間9分)です。

 

 

まずは「そもそも論」から入ります。

家電は、過去100年の歴史の中で、我々が「家事に使う時間 (=Physical Labor)」を75%削減したと。忘れがちですが、そもそも100年前は電気洗濯機もなかったのですよね。

一方で、スマホなどの普及に伴い「情報処理に使う時間(=Cognitive Labor)」が急激に増えていると。

この「新しいLaborのトレンド」が彼らの最大の注力ポイントで、「AI、そしてロボット技術によりこの新しいCognitive Laborをいかに減らすか」が自分たちの役割だと強調しました

いささか大上段な話しのように聞こえるかもしれませんが、「自動車が自動車でなくなろうとしている」のと同じように、多くの既存産業がAIにより事業の再定義が余儀無くされる時代に、こうしたスターティングポイントから考えるのは、どのような産業においても大事な発想だと思います。

ここで、Singularity UniversityのCo-Founder Peter Diamandisが登壇します。

あまりLGのKeynoteとは直接関係ありませんが、世界の貧困は大きく減っている、平均寿命は伸びている、自動運転により自動車事故はほぼゼロになるなどいろんな話をデータを使って説明します。

AIがシンギュラリティを迎えるかどうかは議論がありますが、事実としてこれから数年で、一般的に買える値段のコンピュータの処理性能が我々の脳みそに近くなり、2050年には人類全体を超える処理能力を持つレベルになるというチャートです。

そうした時代には、誰もがアイアンマンのJarvisのようなAIエージェントを持ち、ウェアラブルや生体埋め込みチップで血圧などのデータがリアルタイムでトラッキングされてパーソナライズな医療が受けられる。教育も、一人一人の進度にあった内容を、AR/VRを使いながらImmersiveに進める。ショッピングも、自分で探すのではなく、エージェントが自分の欲しいものを探して買い物をしてくれると。

 

別の講演ですが、これがほぼ似たような内容なのでご興味ある方はどうぞ。

 

 

さてここから、いかに家電製品がAIで進化をしていくか、という話しに移ります。

例えば、洗濯機。

去年までは「Alexa、洗濯機回して」という話だったのですが、今回は洗濯機そのものの機能の進化です。

まず、AIがそれぞれのユーザの日々の利用状況を絶えずトラッキングする。そのデータからユーザの利用特性を学習し、衣類の量や時間帯などで洗濯のモード、洗剤の量などを自動で最適化する

加えて、カレンダーの予定から推測して、洗濯の終了時間をコントロールしたりもすると言います。

次は、冷蔵庫。

LGはすでにスマホから冷蔵庫をコントロールしたり、冷蔵庫の中身をスマホで管理したりするスマート冷蔵庫を積極的に提案していますが、さらにもう一歩踏み込んで、テレビで見たクッキング番組の情報と冷蔵庫に残っている食材の情報からディナーのレシピを提案し、足りない食材がある場合は自動でオーダーもしてくれると言います。

どちらの例も、動いているものがないので今ひとつリアリティに欠ける部分も多いですが、家電がスマホのようにインテリジェントになっていくというのは大きな流れだと思います。ただ、それで我々のCognitive Laborが解消されるのかは謎ですが。

こうした家電の進化は当然のことなのですが、こうした進化を外部のデベロッパーとオープンに共有していくというのが今回のもっとも大きなポイントです。

もともとPalm OSだったwebOSをLGが買収したのは2013年。Androidにならい、昨年からこれをオープンソース化することでじわじわと拡大戦略を取ってきました。

今回、このオープンソースのwebOSから、LGのAIプラットフォームであるThinkQの家電データにアクセスできるようになると発表しました

これは面白いチャレンジだと思います。

家電メーカーが自社の家電をAI対応し、対応アプリやサービスを作るのではなく、スマホと同様に外部のデベロッパーに仕様やデータを公開し、一緒にサービスを開発していく。メーカーからプラットフォームへ。年末年始にトヨタが繰り返しTV CMをしていたのと同じことですね。多くの企業が考えるべきテーマだと思います。

もう1つ、有名なAI研究者であるAndy Ngが登壇しました。

彼はBaiduにいたと思ったら、今は大企業のAI化支援の会社をやっているのですね。

冒頭に、「3つの新しいAIのトレンド」の話をしました。

  1. Small Data
  2. Learning at the edge
  3. Life long learning

1つ目は、少ないデータでもトレーニングができるようになったということ。2つ目は、エッジによる学習。これは今回結構展示も多かったです。「データをクラウドに取られるの?」という不安に対応する話です。最後は、デバイスを通してAIが「ずっとラーニングし続ける」という話です。

彼が、AI Transformation Playbook」というのを無料で発行しています。12ページの短い資料で、「AIの専属チームを社内に置こう」「自社のAI戦略を立てよう」「外部を巻き込もう」など、すごい当たり前の話ではあるのですが、今回のLGのKeynoteはこれをなぞったような内容でした。会社全体のAI戦略を考える際の参考にすると良いと思います。

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まだメインストリームになるには少し時間のかかる5Gですが、VerizonのKeynoteを見ると、5Gの「速い (10GB/s)」「たくさん繋がる(同時接続100万)」「遅れない(Lattency 5ms)」という特徴で、大きな可能性が広がることがわかると思います。

特にドローンのような新しいIoTデバイスからのリアルタイム映像配信、AI活用、医療現場などでのXR機器の活用など、これまでイメージの世界であった活用が一気に広がりそうです。

また、一方のLGのKeynoteでは、生活に入り込み多くのデータをもつ家電メーカーのようなプレイヤーが、いかにしてAIを活用していくのか、プラットフォームとして取り組んでいくのかが語られました。

最初の写真に全く触れませんでしたが、UBERがヘリコプターのBELLと組んで、2023年に「空飛ぶ車タクシー」始めると言うことです。無人のドローンだけでなく、人が乗って飛ぶことで可能性は大きく広がりますね。

5G、そしてAIというキーワード、そしてインターフェースとなるXRを加えた、「5G」x「AI」x「XR」。

来年はこのあたりから大きなトレンドが生まれると思います。ということでまた来年に期待です。

 

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