日本とアメリカ、どちらでスタートアップをはじめるべきか?

January 6, 2016 ゲスト記事
この記事はTMI総合法律事務所所属の弁護士3名(波多江氏、竹内氏、小川氏)が運営するサイト BizLawInfo.JP の記事を加筆修正の上、転載したものです。波多江氏、竹内氏、小川氏の3名は、日本とシリコンバレーに分かれ、コーポレート、投資、M&A、個人情報、知財等、幅広い分野で先端の法律実務に従事しています。BizLawInfo.JP では、日本とシリコンバレーのStartupの実務や日本企業の海外進出を取り巻く環境に関する法律問題などについて、積極的に情報を発信しています。

あるビジネスの実行を検討しているとします。そのビジネスは日本国内にとどまるものではありません。世界最大のGDPを誇るアメリカを通じ、世界で戦っていくべきビジネスだとします。

さて、そのときに、一体会社は日本とアメリカのどちらに作るべきなのでしょうか?

実はこの問題、多くの起業家が直面している難問であり、コレという正解があるものではありません。会社のビジネスモデル、目指す姿など、状況に応じて答えが変わります。

アメリカに会社を作った場合の最大のメリットは、

  1. ビジネスを最初から世界展開できる
  2. 資金調達に成功した場合、調達できる金額が大きい

などがあります。しかし、そんなにシンプルではありません。冒頭の図を改めてご覧ください。

startup

今回は、これらのうち「VCから見ると」を取り上げます。つまり、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を目指す起業家の方にとって、日米のどちらに法人を持っていると有利か?という問題を考えてみます。

米国のベンチャーキャピタル目線

米国のVCからみたとき、一つ大きく言えることがあります。それは、

比較的アーリーステージで米国のベンチャーキャピタルからファイナンスをしたい場合、米国に会社がないと難しい

ということです。勿論例外もあるでしょうし、例えばイーロン・マスクさんがその出身国である南アフリカに会社を設立してファイナンスを求めれば、米国のVCはそれに応じるでしょう。しかし一般的に言って、米国の、特にシリコンバレーのVCが米国外の法人にアーリー投資を実行することはありません。

つまり、最初から起業家の方が米国での資金調達を意識している場合、米国に会社を作っておいた方がよいと言えます。

日本法人の子会社として米国会社を用意しても、米国VC側から見ると日本の親会社に対して投資しなければキャピタルゲインが得られないため、あまり意味がないという評価になるでしょう。

日本のベンチャーキャピタル目線

これに対し、日本のVCはどうでしょうか?

日本のVCの中には、確かに、日本の会社にしか投資しないところが多くあります。ファンドの出資者への説明のしやすさなどから考えれば、十分合理性のある考え方です。

一方で日本のVCの中には、海外の会社への投資も全く問題ないというところもあり、最近はそのようなVCも増えています。そうすると、日本のVCからの資金調達という観点は「米国法人を設立することのデメリットになる」とまでは言えない、ということになりそうです。

ここで一点誤解しないようにしたいのは、「日本での資金調達がメイン→世界で戦えない」という図式には必ずしもならないということです。もちろん、ビジネスの内容が日本特有のものであり、日本の投資家しか惹き付けられなかったのであれば話は別ですが、日本で資金を調達したからといって世界で戦えなくなる必然性は無いです。

周りを見渡せば、日本の株式会社のままで世界で戦っている会社さんがゴマンといます。むしろ、日本で資金調達がしやすいのであれば、まずは日本で資金を得て速やかに成長させ、その後にアメリカで資金調達を目論んでも遅くはありません。

その際に、親会社をデラウェア法人にする必要があるのであれば、課税が生じないようにしながらそれを実現する方法も考案されています。

どちらでスタートアップをはじめるべきか?

「日本とアメリカ両方の資金調達の可能性を取れるなら、アメリカで設立すればいいじゃないか!」
「アメリカで設立後、必要なら日本に子会社を作ってもいい。それなら米国VCからのファイナンスにも差し支えないんでしょ?」

確かに最近ではアメリカ法人を最初から設立して世界で戦っていこうとするスタートアップが増えています。しかし、やはり海外で会社を設立してビジネスを展開するということは、当然のことながら楽ではありません。

上図の他の項目のような、有形無形の問題が降りかかってきます。そもそも米国VCから資金調達をすること自体が極めて難しいと言えますが、競争力の問題が主なのでその観点はひとまずおきます。

それからビザ問題です。実はこれがまた大問題。アメリカほどエンジェル/シードラウンドで調達できる額が多くない日本から、投資ビザ(E2)を取得するほどのエクイティを米国に持ち込むことができるでしょうか。ビザは死活問題です。

とはいえ、最近は日本からアメリカで起業するためにシリコンバレーにやってくる起業家も増えています。ブログメンバーの竹内は、WSGRでの勤務を通じて得た知見を熱意溢れる起業家の方々に還元すべく、これからシリコンバレーで起業したい方やまさにシリコンバレーで起業したての方向けに、会社設立や資本構成、さらには資金調達などなど、避けては通れない法務マターについて、勉強会等を開催しています。もしご興味ある方がいれば、竹内(ntakeuchiあっとwsgr.com)まで直接ご連絡ください。

アメリカでの会社設立について詳しく知りたい方は、BizLawInfo.JP の「米国における会社設立」のフォーラムも参考にしてみてください。「アメリカの会社の種類」「デラウェアか?カリフォルニアか?」「定款の記載事項」などについて解説しています。


記事提供: JP-US Legal Forum〜Business, Laws & Information BizLawInfo.JP
世界を変える!日本を元気にする!!腕一本で世界に挑むStartupのFounderから、日本を支える大企業の「次の100年」を担う方、はたまたVC/エンジェル投資家の方まで。「ここ、会社法の仕組みはどうなっている?」「起業したい、会社は日米どちらに作るべき?」そんなビジネス法にまつわるたくさんの疑問、私たちも一緒に考えていきたいと思います。

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