ユーザー5億人!売上1000億円超のDropboxに見る3つの成長戦略

March 19, 2018 by Guest Writer
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この記事は、株式会社リクルート住まいカンパニー所属の蓮沼貴裕さんが運営するブログの記事を加筆修正の上、転載したものです。

蓮沼さんは、リクルートグループにて米国企業のM&Aおよび欧米ファンドやスタートアップ15社に投資を実行しており、現在は不動産・住宅に関する総合情報サイト「SUUMO」にて事業開発を担当しています。蓮沼さんのブログでは、上場予定および最近資金調達したスタートアップをピックアップして、情報を発信しています。


BoxとDropbox – クラウドストレージ専業として業界を牽引してきた2社。Boxは創業2005年、後を追いかけるようにDropboxが2007年に創業しました(ちなみに創業時の社名はEvenflow)。Boxは2015年に上場し、Dropboxも今回ようやく上場することを決めた。(驚くべきことに) Y Combinator出身しては初の上場となるDropbox、その上場申請書を読んでまとめてみました。

売上規模はBoxの2.8倍! DropboxとBoxの経営指標を比較してみた

“King of Freemium”と呼ばれるDropbox。To C領域から無料のストレージサービスを展開してユーザーを獲得後、To B領域に進出した成功事例として参考にしたスタートアップも多いことでしょう。下記の一覧にもある通り、Consumer/Individuals向けBasicとPlusを2008年にリリースし、2011年以降はBusiness/Teams向けにStandardやEnterprise商品の販売に注力してきたことがわかります。

DropboxのFY2017の売上は$1,107Mn、Boxの売上は$399Mなので約2.8倍の規模があります。2社の売上成長率を前年比と比較すると、DropboxとBoxともに過去2年の前年比の売上成長率は40%(2016)、32%(2017)とやや一服感が見られますが、Dropboxに関しては売上$600Mnを超えて前年比30%以上で成長している世界でも稀有なスタートアップであることは間違いないでしょう。

CEO Drew Houston によると、Dropboxは年間売上Run Rate(※)で$1Bnに到達した史上最速のSaaS企業だとTweetしてます。売上Run Rate $1Bnに到達するのに、Dropboxは創業から8.3年、Salesforceは9年、Workdayは9.2年と、Salesforceより速いスピードで成長しているのは驚きですね! 後半では「なぜ爆速で成長できたのか?」その Growth戦略にも少しふれてみたいと思います。

年間売上Run Rate=直近の実績値の傾向がそのまま続くと仮定した場合の将来予測年間売上のこと。

売上や成長率はDropboxに軍配があがりましたが、粗利率の観点では話が異なるようです。2015年を比較すると興味深いのですが、Boxの粗利率78%に対して、Dropboxの粗利率は33%と、Dropboxの粗利率はSaaS企業としては著しく低い状態になっています。Dropboxの上場は何年も前から噂では聞いておりましたが、上場を遅らせていた理由は「低い粗利率」が要因だったかもしれません。

粗利率を改善するには、原価そのままに売上(顧客単価)を改善する、または、ストレージなどインフラ費用の売上原価の改善の大きく2つがあるかと思います。下記にある通り、顧客平均単価は2015年から$113 →$110→$110と頭打ち感があるので、インフラ費用削減による売上原価の改善が大きく寄与したのでは?という仮説が立てられます。

S-1のインフラの箇所には「Dropboxでは90%以上のデータを自社のデータセンターで保管している」とあり、この記事によると、2016年にAmazon Web Serviceから自社サービスに切り替えたことがわかります。このことから、データセンターの移行が奏功し、粗利率が改善した可能性が時期的に見ても高そうです。売上が$500Mnを超えてから、粗利率を33%から67%に改善する!って相当クレイジーかと思いますが、やりきった経営陣は半端ないですね。。。

次に成長促進剤である販促費を両社がどのくらい投下しているのかも比べてみました。冒頭で両社の過去2年間の売上成長率は昨対43%(2016)→30%(2017)と紹介しました。売上成長率が同じくらいだった時に気になるのが、両社が成長に対して粗利額の何パーセントを営業やマーケティングなどの販促活動に投下したかです。FY2017を比較すると、Dropboxは粗利の43%($314Mn)、Boxは粗利の88%($253Mn)を投下しています。過去2年間の売上成長率がほぼ同じことを考えると、Dropboxのほうがより効果的に販促活動を売上成長に繋げていることがわかります。

実際に投下した販促費で新規ユーザがいくらで獲得できているのか、CAC(Cost of Acquisition Cost)を簡単に試算してみました。Dropboxは粗利の43%=$314Mnを投下して、2.2Mn(11–8.8)の新規ユーザーをFY2017に獲得しています。314/2.2=$142なので、新規の有料ユーザ1人当たりの獲得単価は$142です。Boxは粗利の88%の$253Mnを投下して、3Mn(8.3–5.3)の新規ユーザーを獲得、新規有料獲得単価は$84になります。

Dropboxの販促費には、無料ユーザのインフラ代やカスタマサポート代も含まれているので、正確な数字は不明ですが、$142(Dropbox) vs $84(Box)で、新規有料ユーザ獲得単価はBoxに優位があることが想定できます。が、果たしてBoxが売上$500Mnを超えて、$100未満のCACを維持できるかは未知数ですね。

Dropboxの様なサブスクリプションモデルの場合、現金で年額を前払いしている顧客が非常に多いため、まずはDeferred Revenueとして計上し、時の経過とともに売上を計上していきます。そのため、米国会計基準の純利益を分析することはあまり意味がない(と私はいつも思っているので)、フリーキャッシュフローを確認することを大切にしています。

フリーキャッシュフローを見ると、2015年は-$64Mnだったのに対し、2016年は$137Mn、2017年は$305Mnもキャッシュがあります。粗利率を33%から67%に改善しつつ、売上を昨対30%以上成長させた上で、過去2年で$400Mn以上のキャッシュを作る。。。CFOの辣腕ぶりが垣間見得ますね。。。

3つのGrowth戦略

Boxと比較すると、効率的にユーザーを獲得し売上に繋げているDropbox。「なぜ、爆速でユーザ獲得ができたのか?」を ①フリーミアム:無料ユーザーの獲得 ②無料から有料、有料ユーザーのアップグレード ③有料ユーザーの拡大 :Bottom-Up Adoption の①〜③の観点で簡単に説明したいと思います。

①フリーミアム: 無料ユーザの獲得

Dropboxはバイラル効果が非常に効きやすいサービスで、売上の実に9割は”Self-Serve = 自社集客”から獲得しています。直営業を一切介さずに顧客獲得する自社チャネルを”Self-Serve”と言います。自社集客により獲得したユーザーが友達へファイルをダウンロードしてもらうためのURLをメールやメッセンジャーで送り、URLをクリック、サインアップさせてコンテンツをダウンロードさせ、新規ユーザーを獲得しています。

フリーミアムで獲得したユーザをいかに「有料化」するか、「有料化したユーザをいかにアップグレード」するかが2つめのGrowth戦略です。

②無料から有料化、有料ユーザのアップグレード

Dropboxの登録ユーザー数は5億人ですが、内2.2%の1,100万人が有料ユーザです。無料から有料を後押しするために、一般のConsumer向けには1TBで月$10という、Google Driveと同等の低価格でサービス提供しています。

では、有料ユーザをいかにアップグレードさせるか?S-1によると、ユーザの行動パターンを分析しながら、ターゲットマーケティングを実施しているようで、例えば、他のDropboxユーザとコラボしている個人の有料ユーザに関しては、コラボワークの生産性を向上させるStandardやAdvancedを案内、企業内ユーザに対してはセキュリティー機能が強化されたEnterpriseなどをOutbound Salesを通じて販売強化しています。2017年中に新規でBusiness向けTeam版を購入したチームの内、4割はConsumer/IndividualプランからBusiness Teamプランへのアップグレードだそうです。Individual同士でのやりとりの頻度やUsageなどをダッシュボードで管理しながら、頻度やUsageを閾値を設定し、特定の閾値に到達したら、Business Team版へアップグレードさせるような自動的なマーケティングの仕組みを裏側ではおそらく構築しているのでしょう。

③有料ユーザーの拡大 :Bottom-Up Adoption

「お客さんが新しいお客さんを呼ぶ」まずは企業内個人の有料ユーザーを獲得、続いてその有料ユーザがプロジェクトチームに共有・拡散、それがプロジェクトが所属する部署全体、部署から会社全体へと、企業のBottomからバイラル効果で組織の階層を駆け上がり、しまいには企業のCIOやVP Engineeringが会社全体での購入を決定する。。。このような組織内のユーザ利用がバイラルで増えていく戦略を”Bottom-Up Adoption”といいます。何がすごいって、CIO/VPクラスにたどり着くまでは、営業要らずでバイラル効果など仕組みだけで増えていく手法かと思います。Atlassian、Slack、TwilioなどBottom-Up Adoptionを極めたSaaSの先駆者がこのDropboxだったと言えるでしょう。

“Polly.aiのBlogより抜粋”

Growth戦略には入れなかったのですが、離脱が低い=Churn Rateが異常に低いこともビジネスが成長している要因です。下記がDropboxのCohort分析ですが、ミルフィーユ状の地層のようなCohortでKing of Freemiumを誇示するようなSaaSの教科書の様です。時の経過とともに太くなっている層は、ユーザを獲得した時点から月額単価が徐々に上がってきていることを示しており、ビジネスが上手くいっていることを示しています。S-1によると、2015年の新規ユーザは2年で月額支払額が契約開始時より2倍になっており、2017年の新規ユーザは契約開始から10ヶ月で月額支払額が2倍になっている、つまり、月額支払のアップセルが短期化されている、とても良い傾向にあることが示されています。

上場時の株価は1兆円!? 前回ラウンドの時価総額を超えるかに注目!

Dropboxですが共同創業者がDrew Houston(34)とArash Ferdowsi(32)と若い!のもそうですが、さらに驚くべきは、創業者の株式保有率です! CEOのDrewは24.4%、Arashが9.9%を保有しています。Crunchbaseによると、現在までに$1.7Bnを調達していますが、$1Bn以上調達している創業者の持分は通常5%未満多くても10%かと思います。Dropboxは創業者が30%以上保有しているため、仮に1兆円で上場した場合、創業者2人ともBillionaireになりますね! ついでにVCの持分比率ですが、Sequoiaが24.8%、Accel Partnersが5.3%を保有しています。Accelに関してはAtlassianが上場した際の法人筆頭でもあるため、今後同じビジネスモデルでAccel Partnersが出資した際はなんだか期待が持てそうです。

“共同創業者のArash(左)とCEOのDrew(右)”

DrewやArashがBillionaireになった後、何をやるのか?気になりますが、米国の株式市場が注目しているのは、前回ラウンド(BlackRockがリードした$350MnラウンドでPost-Valが$10Bn)の時価総額を上場時に超えるか?です。BoxのIPOや2/23時点のGross Profit Multipleを参考にすると、粗利の9〜17倍の時価総額が想定され、$6,672〜$12,546で上場されることが予測されます。

「Life would be a lot better if everyone could access their most important information anytime from any device」がDropboxのVisionですが、今後ストレージ領域以外にどのようにビジネス展開していくのか楽しみですね。


[記事提供] 蓮沼 貴裕 ブログ / Linkedin

リクルートグループにて米国企業のM&Aおよび欧米ファンドやスタートアップ15社に投資を実行。現在は、不動産・住宅に関する総合情報サイト「SUUMO」にて事業開発を行っている。自身の投資家としての経験と事業開発の観点から、多角的な視点で米国のスタートアップについてのブログを更新。上場予定スタートアップの上場申請書(S1)分析や、直近で資金調達を行っている勢いのあるスタートアップのビジネスモデルを読み解きます。

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