実証から事業展開へ—PontosenseがHFXを通じて加速させた日本市場での挑戦 [HFX Case Study #1]
Pontosense(ポントセンス)が「Hokkaido F Village X(HFX)」の第1期に採択された時、同社はすでに数年にわたり、日本で代理店やパートナーとの関係構築を進めていました。
一方で、次のステップに進むためには、自社の技術を実際に日本の現場で試し、その価値を示す機会が必要でした。関心を持ってくれる企業はいる。では、そこからどう実証につなげ、さらに事業としての導入へと発展させていくのか。それが日本市場で事業を拡大するうえでの課題でした。
HFXへの参加から1年。現在Pontosenseは、日本の自治体との取り組みを進めるとともに、複数の企業との新たな連携に向けた取り組みも進行しています。
HFXへの参加が、同社の日本での事業展開をどのように後押ししたのか。事例とともに紹介します。
Pontosenseについて
Pontosenseは、ワイヤレスセンシング技術を開発するカナダ発のスタートアップです。現在、4つの拠点を構え、6カ国で事業を展開しています。
主力製品の「Silver Shield」は、高齢者ケアの現場向けに開発された見守りシステムです。
カメラやマイク、ウェアラブルデバイスを使わず、独自のワイヤレスセンシング技術によって、人の動きや呼吸、生活パターンなどを非接触で検知。画像や音声を記録することなく見守ることができるため、プライバシーに配慮しながら、転倒や離床、睡眠などの状況を把握することができます。
さらに、高精度な転倒検知アルゴリズムやAIを活用したデータ分析により、日々の行動パターンの変化を捉え、健康状態の悪化につながる兆候の早期発見をサポート。介護スタッフが入居者の変化にいち早く気づき、より適切な対応につなげることを目指しています。
こうした「見守り」と「プライバシー」の両立を通じて、高齢者の自立した生活を支えるとともに、家族や介護スタッフの安心にもつなげています。
HFXへの参加をきっかけに、東京以外にも広がった可能性
Pontosenseは、HFX第1期に採択された11社のうちの1社です。
HFXでは、単に企業や自治体を紹介するだけではなく、参加スタートアップとパートナー双方の課題やゴールを整理し、実証の設計から実施、その先の事業化までを見据えて伴走しています。
PontosenseもHFX参加以前から、日本で着実にネットワークを築いていました。一方で、自社技術が日本の実際の生活・介護環境でどのような価値を発揮できるのかを示す機会を求めていました。
また、多くの海外スタートアップと同様、日本での事業展開は東京を中心に考えており、当初、北海道は主要な候補地域ではありませんでした。
HFXへの参加をきっかけに状況は変わります。
北広島市をはじめ、さまざまな企業・自治体との接点が生まれ、実際の現場で技術を試す機会へとつながりました。現在も新たな連携に向けた取り組みが進んでいます。

自治体パートナーの北広島市と「ともに」との実証実験
高齢化が進む北海道・北広島市では、高齢者が安心して暮らし続けられる環境づくりが重要な地域課題の一つとなっています。
HFXの自治体パートナーである北広島市の紹介により、Pontosenseの技術を知った市内の地域サポートセンター「ともに」の中にあるサービス付き高齢者向け住宅「しおん」は、Silver Shieldの可能性に着目。北広島市、Pontosense、HFXチームが連携し、実証に向けた取り組みがスタートしました。
実証では、ともにの施設にSilver Shieldを導入。実際の生活環境の中でどのような価値を提供できるのかを検証するとともに、成果を確認するためのレポーティング体制も整えました。
実証は終了し、その成果をもとに、現在は市内でのさらなる展開・普及に向けて話し合いが進んでいます。
また、この取り組みがNHK「おはよう日本」、日本経済新聞、北海道新聞、テレビ北海道などで紹介されたことも、Pontosenseの日本における認知や信頼の向上につながりました。
現在は、Pontosenseのパートナーであるフジテックスとも連携しながら、地域でのさらなる展開を進めています。

HFXだからこそ得られた3つの価値
Pontosenseは、HFXへの参加を振り返り、特に3つの点が日本での事業展開を後押ししたと話します。
1. パートナーとの距離の近さ
HFXチームが企業や地域のパートナーと直接コミュニケーションを取りながら、双方の期待値や課題を整理。言語や商習慣の違いによるすれ違いを減らし、具体的な取り組みへとつなげることができました。
また、信頼関係を築いているパートナーからの紹介であることも、その後のコミュニケーションをスムーズに進めるうえで大きな役割を果たしました。
2. メディアを通じた認知の広がり
NHK「おはよう日本」、日本経済新聞、北海道新聞、テレビ北海道など、さまざまなメディアで取り組みが紹介されたことで、日本市場におけるPontosenseの認知が大きく広がりました。
技術そのものだけではなく、「日本の自治体や企業と実際に取り組んでいる」という実績が伝わったことも、その後の商談を進めるうえで重要な後押しとなりました。
3. 一つの実績が、次の機会につながる
自治体や大手企業との実証実績が生まれることで、他の企業との商談でもPontosenseへの理解や信頼が得やすくなりました。
一つの実証が次の商談につながり、そこで生まれた実績がさらに新しい機会を生む。HFXを通じて生まれた最初の取り組みが、日本での事業展開を加速させるきっかけとなっています。

同じ市場に挑戦する仲間とのつながり
HFXで得られたものは、企業や自治体との事業機会だけではありません。
同じように日本市場に挑戦するスタートアップや起業家と出会い、経験や課題を共有できたことも、Pontosenseにとって大きな価値となりました。
人材採用、言語の壁、日本特有の商習慣やオペレーションなど、海外企業が日本で事業を展開する際に直面する課題は少なくありません。
そうした経験を採択企業同士で共有し、継続的に意見交換できる関係が生まれたことで、日本でビジネスをすることへの理解も、事業面・文化面の両方から深まっていきました。

参加スタートアップのみなさんへ
1年間のHFXでの経験を振り返り、PontosenseのTravis Peterson氏は、参加スタートアップ企業に向けていくつかのアドバイスを挙げています。
ビジネスの機会が生まれたら、できるだけ早く動くこと。日本での経験がまだ少ないのであれば、HFXチームやJETROなどが持つ知見やネットワークを積極的に活用すること。
そして、同じプログラムに参加するスタートアップを競争相手ではなく、同じ市場に挑戦する仲間として捉えること。採用や言語、オペレーションなど、それぞれが直面する課題について情報を共有することも大きな助けになります。
さらに、ビジネスだけを見るのではなく、日本の文化そのものを理解すること。顧客を理解するためには、その背景にある文化への理解も欠かせないと話します。
そして、実証から得られる顧客の声やメディアでの紹介は、日本国内だけの資産ではありません。日本で積み重ねた実績や信頼は、グローバルで事業を展開するうえでも、新たな価値につながっていきます。
「HFXがPontosenseにもたらしたのは、単なる日本市場への足がかりではありません。すでに築いていた大切な関係を、具体的なビジネスへと前進させる推進力になりました。
HFXに参加するスタートアップの皆さんに伝えたいのは、目の前にあるチャンスは本物だということ。そして、そのチャンスを生かせるかどうかは、自分たちがどれだけ早く動けるかにかかっています。HFXというプログラム、そしてこのコミュニティが提供するものを、ぜひ最大限活用してください。」
— Travis Peterson, Pontosense






