アシックスにヤマハ。「老舗企業」のシリコンバレーでの活動が活発化。
目立つようになった日本の「老舗企業」によるシリコンバレーM&A / 投資
仕事でもスニーカーを履いている人が多いシリコンバレーで、最近よく見かけるのがAsicsのカラフルなスニーカー。スポーツ店でも、NikeやAdidasを押しのけて非常に良い場所に陳列されていることが多く、その人気を感じます。
先週、そのAsicsが、ランニングアプリのRunKeeperを$85Mで買収したことが発表されました。
iPhone発売直後の2008年にリリースされたこのアプリは、ガラケーではポピュラーではなかった「GPS」の機能(自分の居場所を正確に把握できる)をシンプルに活かしたことで当初大きくユーザを伸ばしました。
昨年社員を30%レイオフするなど、事業はかなり苦しんでいたようですが、まだユーザは世界中に4500万人いるということです。
この分野は、8000万人のヘルスケア情報を持つMyFitnessPalを買収し、「HealthBox」というヘルスケアパッケージを発売しているUnder Armourや、同じくランニングアプリのRuntasticを買収したAdidasなど先行者はたくさんいますが、ランニング分野で強いブランドを持つAsicsが、この買収をどう活かしていくことができるのかを注目していきたいと思います。
また、タイミングを同じくして、ヤマハも面白い投資を発表しています。
バス、タクシー、ゴミ収集車などの自動車をWiFiスポット化してメッシュネットワークを構築するVeniamという会社のSeriesBに、Verizon、Ciscoなどと並んで出資をしています。自動車分野は自動運転やスマートカーなど、新しい車のあり方が注目されていますが、これらの新しい車が普及するのは長い時間がかかるため、世界に10億台以上存在する「今ある自動車」をネットワーク化する分野には大きな可能性があると思います。
これまでこうしたステージでの日本企業による投資となると、これまではNTTドコモなどの携帯キャリアなどが中心のイメージでしたが、バイクの有名ブランドであり、四輪の自動車への参入も度々噂されているヤマハのような会社が投資をする、というのは非常にいいと思います。
「オープンイノベーション」成功の鍵
アシックスは創業67年、ヤマハは創業128年の老舗企業です。
ネットの勃興期からこれまで、シリコンバレーでの投資やM&Aの中心は、我々のようなVCを除くと、DeNAやグリーなどのゲーム系か、楽天などのネット企業でした。
そんな中で、アシックスやヤマハといった伝統のあるいわゆる老舗企業が、スタートアップへの投資 / M&Aに乗り出したというのは、注目すべき大きな変化です。
ネット系企業同士であれば話も通じやすいし、シナジーもわかりやすい。一方で、こうした老舗企業による投資 / M&Aには、ネット企業同士では生み出せない「大きな価値」があると思います。
オープンイノベーションについての講演スライドでも書いていますが、大企業によるオープンイノベーションの大事な成功の鍵が「自社のアセットのレバレッジ」です。
ネットビジネスがネットビジネスであった時代は、はるか昔に終わりを告げています。
UBERは交通業界、Airbnbは旅行業界、フィンテックは金融業界と、「既存の巨大産業をテクノロジーで再定義する」というのが、最近、そしてこれからの大きなトレンドです。
ネット技術だけでは本質的なイノベーションを起こすのが容易ではない領域で、既存のブランド、販売網、ノウハウを持った老舗企業とタッグを組むことができれば、パートナーとなるスタートアップにとっても大きな意味があります。
アシックスという巨大スポーツブランドとスポーツアプリ、ヤマハという自動車メーカーとネットワーク技術、老舗企業がこれまでに築いたアセットを惜しみなく提供することで、「これぞオープンイノベーション!」という成果が生み出されることを期待しています。
多くのバッターボックスに立ち続ける
ただ、一発でホームラン!といかないのが、スタートアップの世界です。
先日、楽天は四半期決算で、2011年に買収した電子書籍のKoboなどの減損が大きく影響し、8期ぶりの営業減益となったということが大きく報じられていました。
短期的には失敗と見えるような案件もあるかもしれませんが、楽天はずっと「シリコンバレーのバッターボックスに立ち続けている」ことで、大きな成果を上げています。
先日、時価総額$5.5BでGMから$500Mの投資を受けたLyftにはその1年前に出資をしていますし、1億以上のアクティブユーザを誇り独自のポジショニングを築いているソーシャルメディアのPinterestには4年も前に1/10程度のValuationで出資をするなど、他の日本企業では全く入り込めていないところに入れているという事実もあります。
シリコンバレーのど真ん中でバッターボックスに立ち続けていることで、他の日本企業からは見えてもいないチャンス、技術、ノウハウ、ネットワークを手にしているはずです。
ようやく動き始めた老舗企業による投資やM&Aも、一発目からうまくいくとは限りません。
失敗すると「ほらーやっぱり」「海外は難しいよ」となりがちですが、GoogleやFacebookでも、投資やM&Aにおいて10割バッターではありません。
ぜひこのトレンドが続き、多くの力のある企業がたくさんのバッターボックスに立ち、シリコンバレーにおいて存在感を増していくことを強く期待しています。