「Amazonの家」に行ってきた。カギは、「三河屋」。
今年の4月にスマートドアベルのRingを$1Bで買収するなど、Amazonが「家」関連の取り組みを加速させています。
そのAmazonが、住宅大手のLennarと組んで、全米に「Amazon Experience Center」という「Amazonが考える未来の家」が体験できるモデルルームをオープンしたというので、早速行って来ました。
今回のポストでは、Amazon Experience Centerの体験記とそこから見えて来た、Amazonのスマートホーム戦略について書きたいと思います。
全米15箇所にオープンした「Amazonの家」
5月にオープンした「Amazon Experience Center」のページに行くと、他の商品と同様に家がリストされています。
流石にAmazonから「家自体」を買えるようになっている訳ではなく(近い将来そうなるでしょうが)、これらはAmazon仕様になっている新築住宅のモデルルームのリストです。
私は、San Franciscoから一番近所にあるVallejoという、フェリーで一時間ほどの場所のモデルルームに行って来ました。
こんな感じでいわゆる新築の住宅のモデルルームです。
各所で報道されていますが、シリコンバレーの地価の高騰は引き続き続いているので、フェリーで約一時間かかるこのエリアも、新興住宅街として開発が進んでいるようです。周りには綺麗な新築の建物がたくさん並んでいました。
実際に、全体がAmazon仕様になっている「Amazonの家」はこのモデルルームでした。外観は特に変わったところはなく、よくカリフォルニアにある普通の一軒家です。
モデルルームの説明員の方に導かれて、中に入って行きました。
「Amazon Key」家の鍵を他人と共有
まず玄関に到着すると、こんなメッセージがあります。
「Reimagine everyday living」
「毎日の暮らしを再定義します」という感じでしょうか。なんとなく、期待が高まります。
玄関には、先日買収したスマートドアベルRingが設置されています。
「玄関」は、Amazonのスマートホーム戦略の一つのキーで、昨年の10月からAmazon Keyというサービスを提供しています。
Amazon Keyの公式の紹介動画をご覧ください。
Amazon Keyは、自宅の鍵をスマートキー化することで「自分が不在の時に他人に安全に自宅に入ってもらえる」というプラットフォームです。
動画にあるように、クリーニングサービスやショッピングの宅配など、これまでは自分が自宅にいないと受けることができなかったサービスを、スマートキーのワンタイムキーを使うことで実現したプラットフォームです。同様に、自動車メーカーとも提携して、「車のトランクに荷物を届ける」というバージョンもあります。
自宅という究極のプライベート空間の鍵を他人に渡す、というのは抵抗がある人も多いようで、ネガティブな体験記もたくさん書かれていますが、同様のサービスを始めたWalmartでも申し込みが殺到しているということで、若者を中心に便利さを重視する層には受け入れられて行くのかもしれません。
さて、家の中に入って行きます。
「全部屋」「全家電」Alexa対応
やはり「Amazonの家」の中心は、Alexa対応家電です。
リビングルームにはEcho、
キッチンにはEcho Show、
ベッドルームにはEcho Spot、
スプリンクラー(※アメリカでは全ての家にあるのです)もAlexa対応、
EVチャージャーもAlexa対応、
全ての部屋にEchoが設置されており、全ての家電がAlexa対応になっています。
今年のCESのブログでも書きましたが、家電のUIに関しては、GoogleとAmazonによる「VUIの展開合戦」の模様を呈しており、「話しかけられる家電」の数は猛烈な勢いで増えています。
今は特に意識しないで買い物をしても、新しい家電にはデフォルトでVUIが搭載されるようになっているケースが多いので、「家電に話しかける」というのはどんどん一般的になって行きそうです。
Amazon Experience Centerのページを見ると、Amazonは、朝起きてから寝るまで、「全てのことをAlexaとやってもらいたい」と考えているようです。
“Good Morning” Alexaがカーテンを開けて、音楽をかけてくれる。
掃除は、Amazon Home Serviceに頼めば来てくれる。
午後には、ショッピングで頼んだものが届く。
子供が帰宅すると、スマートロックから通知が届く。
帰宅する頃には、自動で部屋が快適な温度に設定される。
ディナーの時には、Alexaがお気に入りの音楽をかけてくれる。
洗剤が切れたら、ボタンを押せばすぐに補充できる。
食後には、Alexaがテレビをつけ、映画を流してくれる。
“Good Night” ライトを消し、ドアの鍵をかけ、部屋を適温に調節してくれる。
これで「Amazonの家」というか「Amazon生活」の出来上がりです(苦笑
製品のライフサイクルが長いのですぐにということはないでしょうが、スマホのように誰かがOS的な立ち位置をとり、さまざな家庭用サービスがアプリ化される流れに向かうことは間違い無いでしょう。
我が家にも一応Echoが3台あるのですが、これほどまでに生活には入り込んでいません。これはモデルルームで撮影した動画ですが、鍵は「連動」にありそうです。
“Movie Time”というRoutineは、「映画を見るので部屋を暗くして、カーテンを閉めて、映画をつける」というRoutineです。
先日のI/OでGoogleも「Routine」をプッシュしていましたが、VUIではスマホのようにいろんなアプリを並行して操作するのが難しいため、一度に複数のアプリを処理できるRoutine、そして家電や家具などとの連動が鍵になりそうです。
「Alexa冷蔵庫」は、まだ
ここまでは極めて想定の範囲内で下が、個人的に期待していたのが、家電とコマースの連動「IoTコマース」でした。
2017年のCESでLGがデモをした「Amazon Freshと連動した冷蔵庫」は、「IoTコマース」の到来を予感させました。
「Amazonの家」では、「冷蔵庫の中に牛乳がなくなると自動的に届けてくれる」世界が実現されているのでは?と期待していたのですが、残念ながらまだDash Button止まりでした。
技術的、サービス的には「IoTコマース」を実現するピースはすでに揃っているので、来年のCESに期待したいと思います。
「Amazonの家」を支えるのは「三河屋」
しかしながら、全部屋でEchoやAlexa対応家電を快適に使うためには、家庭内の通信環境の整備が重要です。機器の故障もあるでしょう。
そこでAmazonが考えているのが「人」、いつでも呼べば来てくれる「Amazonの人」です。
動画の中でブルーのポロシャツを着ているのはAmazonの社員で、Echoや各種Alexa対応家電の設置、ネットワーク環境の整備など、Amazonの家を実現するために必要な技術的なサポートを全てしてくれます。
しかも設置をして終わりではなく、何か困ったことがあれば、週末でも駆けつけてくれます。
かつて町の酒屋さんである三河屋さんが御用聞きとしていつでも自宅に来てくれたように、「Amazonの家」は人のサポートありきで設計されているのです。
全米No.1の単位面積売り上げを誇るApple Storeを設計したRon Johnsonが立ち上げたECサービス、Enjoyも同様に単にものを届けるだけでなく、届けたものの設定や説明までしてくれるというものです。
昨年Whole Foodsを買収したAmazonですが、家に関してもやはりキーワードは「リアル」、人を核にした三河屋モデルのような気がします。AI時代の新しい雇用は、もしかしたらこういう所にあるのかもしれません。