スポーツオーソリティ破綻。「屋外エージェント」「独自アパレルブランド」「ライブ放送」、次々と新手を繰り出すAmazonに対してリアル店舗は何ができるのか?

March 9, 2016 スクラム代表・宮田ブログ

スポーツ用品チェーン大手の破産

最近は多くの「モノ」をオンラインで買うようになってしまいましたが、私が未だにリアルな店舗で買うことを楽しんでいるカテゴリーの一つが「スポーツ用品」です。

実際にラケットやクラブを試してみたいというのももちろんありますし、季節の移り変わりに合わせて、次にどんなスポーツやアウトドアをするかを考えながらお店を探索するのは楽しいですよね。

自宅の近所に店舗があり、私が日常的に愛用しているスポーツ用品チェーン、Sports Authorityが、先週Chapter 11を申請し、破綻しました

Sports Authorityは、米国第4位のスポーツ用品チェーンで、全米で店舗数は463、従業員は1.3万人。日本にはイオンとのJVで進出しています。昨年の売り上げ $2.6Bに対して、営業損失が$156Mと苦しんでおり、最終的に$1.1Bの負債を抱えて倒産しました。Chapter11なので、これから支援先を探すことになるようですが、すでに同業のDick’sなどが支援に興味を示しているようです。

変わりゆく消費者への対応の遅れ。「アスレジャー」と「エクスペリエンス」

破綻の理由についてはいろいろと書かれていますが、ユーザが求める「商品」と「体験」の急速な変化についていけなかったと、いうことが大きいようです。

「商品」については、売上の多くを占めるアパレル部門での大きなトレンド、「アスレジャー」対応が遅れたことが響いたと言われています。

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日本ではほぼ見かけませんが、アメリカではLululemonなどのヨガウェアを着て道を闊歩している女性を普通に目にします。アスレジャー(Athleisure)とは、AthleticとLeisureを掛け合わせた造語で、これまでジムやヨガスタジオでのみ着ていた服を、街中でもオシャレに着るというトレンドです。

Lululemonなどのおしゃれな専門店やアスレジャーを積極的に取り入れたチェーンが業績を伸ばす一方で、従来のスポーツウェア中心から変わることができなかったSports Authorityは売上に苦しんだ、という構図のようです。

一方の「体験」は、定量的なデータがあるわけではありませんが、あらゆるスポーツ用品がAmazonなどオンラインで購入できるようになる中で、店舗でも「オンライン並」の体験を求めるユーザの期待に応えられなかったのではないかという見方のようです。

確かに一人の消費者としてSportsAuthorityを利用している立場からすると、Target(店舗内にBeaconを配置)、WholeFoods(Instacartと提携)など、同じリアル店舗でも様々な形でスマホ、オンラインのトレンドを取り込もうとしているチェーンに対して、スマホアプリはそもそもないし、Reward会員の情報もスマホから確認できないなど、非常にもどかしい感じがしていました。やたらと週末20%引きなどを頻発しているのですが、それがターゲティングされている気配も全くなく、自らの首を締めることになっていったのかもしれません。

ユーザがどんどん賢くなり、スマートなExperienceを求めている中、旧来のやり方で新規店舗出店を続けた小売が、市場から退場を余儀なくされたということなのでしょう。

倒れる旧来企業を横目に進化を続けるAmazon

そんな老舗小売企業の倒産のニュースの脇で、オンラインの雄 Amazonからは「三つ」も新しい取り組みのニュースがありました。

一つ目は、最近力を入れている「Amazon Echo」の新製品、の発表。

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2014年から販売しているオリジナル ($179.99)に加え、コンパクトバージョンの「Echo Dot ($89.99)(冒頭画像)」と、ポータブルバージョンの「Amazon Tap ($129.99)(上図)」が発売開始となりました。いずれも、Echo同様に声で買い物をお願いしたり、音楽をかけたり、最近ではUBERを呼ぶなんてこともできるようになりました。実は「スピーカー」という分類で言うと、すでにBoseやSonosという専業のメーカーの売上を上回っているEcho。じわじわとスマートホームのエージェントとしての存在感を増し、家だけでなく屋外でもあらゆる「購買の起点」に入り込もうというアプローチです。

二つ目は、独自アパレルブランドのスタート。

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Franklin & Freeman、Society New Yorkなどすでに「7」つのブランドで、男性向けの靴、女性の服、子供服まで「1800」の商品をAmazon内で取り扱っているということです。どのブランドも写真で見る限り非常にセンスの良さそうなデザインのものが並んでいます。価格帯は男性向けスーツで$300以下と、スタイル的にもUNIQLOやH&Mなどのブランドと直接競合しそうなカテゴリーです。どのアパレルブランドよりも「消費者の購買行動を把握している」Amazonのファッションブランドが、今後どのようになっていくのか注目です。

そして最後は、昨日始まった生放送のショッピングチャンネル

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独自ドラマなど動画製作に力を入れいているAmazonですが、「Style Code Live」は、30分の生番組で、月曜日から金曜日までの午後9時(西海岸では午後6時)から放送されます。ファッションとビューティーに特化した内容で、様々なファッションなどのTipsを紹介しながら、すべての商品が買えるようになっています。テレビ局が長く取り組みあぐねている「テレビとショッピングの連動」の実現です。

三つとも、どれもなるほどの打ち手です。そして、いずれもAmazonだからこそできる打ち手で、なかなか真似が難しい。

「ファッションはサイズの問題もあるしオンラインではなかなか難しいよね」「スポーツ用品は試してみないと」と言っていた時代は今は昔。

シェアリングエコノミー、オンデマンドエコノミーと消費者自体が大きく変わり続ける時代に、リアル店舗はこうして滅びていくだけなのでしょうか?

近所にスポーツ用品店がなくなると本当に困るのですが。

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