AmazonGo体験記。AI時代のリテールUX。
約一年前に発表され、 これまでAmazon社員向けだけに公開されてきたAmazonの「レジなしスーパー」AmazonGoですが、先週ようやく一般向けに公開されたので、早速体験してきました。
すでに様々なメディアに動画などがアップされていますが、実際にその新しい仕組みを体験をしてみると、想像以上に完成度が高く、これは間違いなく広がっていくと確信できるものでした。
今回のポストでは、その「レジなしスーパー」でのショッピング体験を一連の流れに沿ってご紹介したいと思います。
概要や基本的な仕組みにご興味がある方は、一年前のポスト「Amazon Goの仕組み。「カメラとマイク」で実現するレジなしスーパー。」をご覧ください。
① アプリダウンロード
まず初めに、AmazonGoのお店に入るためには、専用のアプリをダウンロードすることが必要です。
まだ公開されたばかりですが、ブログを書いている時点でのレビューは4.6と非常に高いです。
アプリをダウンロードすると、必ずAmazonログインすることが求められ、Amazonで登録しているクレジットカードと紐付けます。
アプリの機能は、いたってシンプルで、1) 入店時の認証と2)レシートの受け取り、が現時点での主な機能です。
お買い物リスト、Amazon Echo連携、オンラインショッピング、など想像される付加的な機能は現時点では提供されていません。
② 入店
アプリの準備が終わると早速入店です。
AmazonGoの一号店は、Seattleのダウンタウン、最近新しくなったAmazonの植物園みたいな本社ビルの隣にあります(地図)。
オープン当日は100人以上が並んだということですが、私行った日(オープン10日後)は待つこともなくすぐに入れました。
入り口には、地下鉄の自動改札のようなバーコードリーダがあり、アプリに表示されるQRコードをかざして入店します。
最近はオフィスビルなどでもQRコードをかざして入るものが増えているので珍しくはありませんが、Amazon IDに紐づいたアプリで入店したユーザは、店舗中に設置されたカメラやセンサーで、店舗滞在時の行動を全て記録されることになります。
③ 商品選択
さて、次は買い物です。
店舗の大きさは、1800 sq ft(約50坪)と、コンビニの平均(約30坪)の1.5倍程度ですが、レジがないせいか、非常に広く品揃えも豊富に感じました。
これは店舗の中をざっと撮影した動画です。テクノロジーが詰まった店舗なので、「撮影はやめてください」などと注意を受けるかと思いましたが、写真も動画も取り放題な感じでした。
菓子、飲料、サラダ、乳製品、お酒など、品揃えは一般的なコンビニと同じようなものが並んでいます。
カメラの認識のためなのか、棚と棚の間は広く開いており、コンビニというよりもスーパーの感じに近いです。いわゆるカートはなく、レジかごも設置されていません。
以前取り上げたSan Franciscoのロボットレストラン eastaは、店内は徹底して無人化していましたが、AmazonGoは商品陳列をする人(3-4人)は普通にお店の中にいました。
また、商品の陳列には特徴があります。
これはAmazonGoブランドのチョコレートですが、多くの商品がこのように縦に陳列されています。
後ろを見てみると、このような可動式のストッパーがついており、棚にあるチョコレートの枚数を正確に測定しているようです。
どのようなセンサーが設置されているのかは分かりませんが、どんな商品もちゃんと一個単位で課金が行われる工夫がされているようです。
サラダのような大きな商品の棚には、ストッパーはついていなかったので、重量など他の手段で個数を測定していると推測されます。
少し期待と違ったのは、リアルタイム性です。
公式のビデオでは、商品を棚からピックアップするたびに、カートにそれが追加される様子がリアルタイムでわかるようなイメージだったのですが、実際のアプリの画面は上記のような感じで、変化はありませんでした。
処理スピードの問題ですぐに表示をするのは容易ではないのかもしれませんが、自分がとった商品がちゃんと認識されているのかは確認したいと思いました。
以前のポストにも書きましたが、AmazonGoのレジなしを支えているのは、カメラやセンサー類です。天井や棚には大量のカメラやセンサーがむき出しに設置されています。
陳列棚の上にも、商品の列毎にカメラが設置されています。
たまにカバンに入れたものが課金されていなかったという事例もすでに起きているようですが、下の写真のように二人の手を重ねて、上のカメラからは左の人が商品をとっている風に偽装してみましたが、ちゃんと右の手がとったと認識されました。
また、アプリのバーコードを別のユーザのスマホで撮影して入店するというテストをしてみましたが、同じバーコードで二人入店ができました。Alipayなどの店舗側のバーコードと違ってユーザ側のバーコードなので、この辺のセキュリティはしっかりして欲しいところです。
全体として非常に完成度が高いと感じましたが、こうした細かいケースはまだまだ存在しているのだと思います。
④ 決済
そして買い物が終了したら、決済です。
決済とは言っても当然レジはないので、買い物バッグやポケットに商品を入れて、入店時に通ったゲートを通るだけです。
分かってはいたことですが、これは全く新しい体験でした。
6-7年前に初めてUBERを使った時と同じような体験。能動的にお金を支払うという動作なしに、自然に課金がされるというスマートな決済体験です。
UBERの決済が全世界でスタンダードとなったように、この決済UXは今後確実にスタンダードとなっていくと思います。
⑤ レシート
そして、お店から出た後に、レシートが来るのを待ちます。
残念ながら、これが意外と遅い。
これが私が最初に来店した際のレシートです。商品と金額に加えて、滞在時間がわかるのもちょっと新しいですね。
ただ結局、お店を出てからレシートが届くまで、約5分程度かかりました。
お店のサイズもそこそこあるので、在庫データなどとの付け合わせなどで決済の確定に時間がかかるのかもしれませんが、ここはぜひ改善して欲しいポイントです。
ちなみに、購入した商品を返品したい場合は、アプリから処理をすることもできます。
AI時代の新しい買い物UXのスタンダード
以上、簡単ではありますが、AmazonGo一号店の買い物体験をまとめてみました。
現時点でのAmazonGoの特徴は、以下の3つのポイントになるかと思います。
-
スマート決済
- 一番大きなポイントですが、「レジがない」ことです。
- ユーザ体験から見たときに、一般的なスーパーやコンビニでの最大の課題は「レジ待ち時間」なので、これが完全に解消されるというのは非常に大きいです。
- 結果としてスペース的にも余裕が出るため、商品の陳列可能点数も増えているような気がします。
- 万引きなどのリスクはゼロではありませんが、AIの認識精度がことの他高いこと、AmazonIDと連携して入店していることを考えると、無視できるレベルだと思います。
-
Amazn ID連携
- オンラインで強大な力を誇るAmazon IDと紐づいていることです。
- 先行してスタートしているAmazon Booksなどではプライム会員向けに大幅な値引きを行なっていますが、今後AmazonGoでも同様の値引きやレコメンデーションが行われるものと思われます。
- これで、Amazon Echoと合わせて、「オンライン」「家」「店舗」というAmazon ID包囲網がさらに広がったことになります。
-
店舗内トラッキング
- 店舗内におけるユーザの行動が全てトラッキングされていることです。
- 一般的なスーパーなどでもトライしようとしていることではありますが、AmazonGoでは詳細なユーザ属性と棚におけるアクション、さらには目線、手の動きなどまでトラッキングが可能です。何を見てから何を買ったかなど、ウェブサイトのデザイン的な発想で店舗のデザイン、メーカーとの交渉を行うことが可能となります。
まだ実験的な位置付けも強いとは思いますが、改めて、利用するユーザ、小売店、メーカー、それぞれにとって新しいメリットのある店舗だと感じました。
まだまだ技術的にもオペレーション的にも改善すべき点はたくさんあるでしょうし、コスト的な課題もあるとは思いますが、今後の展開が非常に気になります。
AmazonGoブランドで多店舗展開するのも面白いと思いますが、個人的には、ぜひ「AWSの一機能」として幅広く提供していただき、全世界でこの「AI時代の新しい買い物UXのスタンダード」を拡げて欲しいと思います。
ちなみに、リテール、決済などに関わる事業をされている方は、すぐに体験されることをお勧めします。