経験豊かなCFOが、スクラムベンチャーズに参画したワケ―中田修二 [Staff Interview]

July 26, 2021 スタッフインタビュー

三和銀行の国際部門で欧米の地域戦略の企画立案などに携わった後、KPMGで金融機関向けのアドバイザリー、企業監査を担当。続いてコカコーラで日本のボトラー統合推進に携わり、アトランタの本社へ。2005年からゲーム業界に移り、バンダイナムコグループの米州担当のCFO等を歴任。企業会計において、非常に豊かな経験を持つ中田修二が、スクラムベンチャーズというベンチャーキャピタルのCFOに取り組む、その理由とは?

日本で言う『経理担当』とCFOの守備範囲の違い

まずは、CFOというお仕事について教えて下さい。

Chief Financial Officerですから財務・経理について取り扱うのですが、日本で言う『経理担当』と、アメリカでいうCFOはかなり違うように思います。私がずっと北米で携わってきたCFOの業務範囲としては、財務・経理はもちろん、法務や人事、企画戦略部門まで含まれます。つまり将来的な数字を立てながら、こういうことを会社がやっていけば、こう成長するよ……という会社のファウンデーション、つまり基盤を作っていく部門のトップということですね。

会社の上から下まで全部を把握しているから、アメリカのCEOには、CFOからなる人も多いんですよ。そのぐらい、北米ではCEOの重要パートナーとして重視されているポジションです。

日本の銀行に入り、MBA取得のためにアメリカのビジネススクールへ

それにしても、実に多様な企業でお仕事をされています。順にご経験を教えていただいていいですか?

京都大学を出て、三和銀行(現MUFG)に入りました。アメリカの大学院に行きたかったので、そんな機会を提供してくれそうな銀行を探しつつ、地元である関西が本拠地だったので入社しました。アメリカのビジネススクールに行って、国際金融を学びたかったので、OB面談の時にも、実際にアメリカに留学して戻ってきた人の話を聞きにいきました。

会社をグローバルに成長させることにすごく興味があり、たとえばプロジェクトファイナンスとか、そういうのをやってみたかったですね。その当時から、会社を成長させるための投資であるベンチャーキャピタルには興味があって、東京にあった独立系のVCに会いに行って話を聞いたりしていました。将来VCに携わりたい。VCの本場であるシリコンバレーで働いてみたいという気持ちはこの頃から持っていました。

アメリカに留学された時はバブルのまっただ中ですね。

三和銀行への入行は’87年。そして、コーネル大学の大学院に入ったのは’90年でした。まさに、ちょうどバブルのタイミングで、銀行もMBA取得者を増やそうと、海外の大学院に多くの人を送っていました。日本の経済力がとても強くて三菱地所がロックフェラービルを買ったりという時代です。アメリカのビジネススクールも積極的に日本から学ぶべき部分があると考えていたように思います。ビジネススクールはいろいろとケーススタディを取上げて、議論をすることが多いのですが、当時は日本の事例などが使われることが多かったですね。

コーネル大学のビジネススクール時代

銀行から、世界的な会計事務所へ

そして、その後、銀行をやめて転職されたのですか?

数年働いた後、三和銀行を辞めました。辞める時はいろいろとお叱りをいただきました。お世話になっていた上司の方がいて、仲人もやってくれた人だったのですが、呼び出されて「なんで、辞めるンやお前は!」と怒られました。最終的には「ちゃんと銀行に恩返しせえよ!」と言って送り出してもらえました。懐の深い時代でしたね。

留学した当初はもちろん辞めることなんて考えていませんでしたが、2年間留学しているうちに、だんだん気持ちも変わってきて。クラスメートに「MBA取ったらどこでも行けるよ」と言われたり。会計の勉強もしたかったので、大学院のコースで会計学も学び、在学中にアメリカの公認会計士の資格を取得していました。

その後、またアメリカの大学に戻って、ビジネススクールの教授になるための勉強をしました。日本と違ってアメリカのビジネススクールの教授は、教授をやりながらさまざまな企業のコンサルティングをしたり、外部取締役などができましたから。自分の専門領域を学校の外の実業でも活かすことができて「これは面白いな」と思っていました。しかし、そこで、ちょうど子供が産まれて学生を続ける余裕がなくなってしまい、断念しました。

では、日本に戻ってくることになったのですか?

いいえ。せっかくアメリカにいるので、このままアメリカで仕事を探そうと思い、コーネル大学院在学中に取得していたアメリカの公認会計士の資格を活かして仕事を探しました。いくつかオファーをもらったのですが、今度は西海岸に行きたいなと思って、KPMG(世界に20万人の専門家を持つ会計と経営コンサルティングを行う他国籍企業。4大会計事務所の一角)のロサンゼルス事務所にシニアのポジションで入りました。

そこで、大企業監査や金融機関向けのアドバイザリーをやっていました。不良債権の処理とか、日本企業が買った不動産の売却などの手伝いを行っていました。

世界有数の巨大企業のCFOと一緒に仕事

次はコカコーラに入られたのですね?

KPMGの仕事を何年かやって、そろそろ日本に戻ろうかなと思い、’96年に日本コカコーラに入りました。当時日本国内に17社あったボトラー(製造、販売会社)を、財務力、販売力強化のためにひとつにするアンカーボトラー構想というのがあり、それを手伝って欲しいと言われてそのプロジェクトに参加しました。

日本はコカコーラにとっても重要な市場で、このプロジェクト自体が本社の扱いだったので、アメリカにあるアトランタ本社の副社長クラスの人がプロジェクトリーダーとして加わっていました。ボトラーの合併を行ったり、フェイズワンが終わったところで、そのプロジェクトリーダーが本社のCFOになるタイミングで「アトランタに来ないか?」と呼んでくれました。これまで、東海岸と、西海岸には住んだことがありましたが、南部は住んだ経験がなく、言葉も少し違うし、少し躊躇していたのですがその上司に“I will make you happy”とまで言われたので行くことにしました。

結局、アトランタ本社には5年勤務しました。アトランタのコカコーラ本社ビルの最上階には、3フロア吹き抜けの場所があり、そこに役員の個室がありました。前出のCFOのオフィスもそこにあり一緒に仕事をすることができたので、アメリカの超巨大企業のトップがどのように仕事をしているのか、間近に見ることができて、非常に勉強になりました。そのCFOには個人的なメンターにもなってもらい、毎月のように会って仕事以外の相談にも乗ってもらいましたし、ネスレ社との合弁会社設立というようなジャイアント企業ならではの大きな仕事にも携わることができたのは幸せでした。

憧れていたシリコンバレーに

次はゲーム業界に移られましたね。

いったん、日本コカコーラに戻ったのですが、家族が「アメリカの方が住みやすい」と言うので、もう一度アメリカに行きたいなと思っていました。そんな時に、たまたまゲーム会社の社長さんと知り合って「ウチのオフィスがシリコンバレーにあって、そこの責任者を探しているのだけれど、来ないか?」と言ってもらって、北米事業の責任者としてシリコンバレーに渡りました。

シリコンバレーには、ソフトウェアエンジニアもいっぱいいるし、ゲームデザイナーもいるし、セガ、EA、カプコン、ジンガなどゲーム会社もたくさんあります。また、名だたるベンチャーキャピタル(VC)も数多くあり、「やっと、ここに来たなぁ」とワクワクしました。

その後、バンダイナムコに移って11年いました。CFOをやりながら、ルーマニアで買収した現地法人の社長もやったりと、忙しく過ごしました。

ルーマニア社長時代の現地スタッフと

そして、スクラムベンチャーズへ。

バンダイナムコを離れてから、自分の会社をスタートしてちょっといくつかの会社の経営を手伝ったりしていた時に、縁があってスクラムベンチャーズに入りました。銀行にいる時から、興味があったベンチャーキャピタルの仕事なので、ある意味夢に見た仕事です。

スクラムベンチャーズは、私の今までの色々な経験を活かすには最適な場所だと思っています。お金を貸すローンではなくて、相手の会社を成長させるための投資。そして、相手が上手くいったら、投資をしたVCとしてもちゃんとリターンがある。そういう仕事ができる会社に入社できて、とてもワクワクしています。

アーリーステージから携わる難しさ

スクラムベンチャーズではどんな仕事をしているのですか?

スクラムベンチャーズ自体のファイナンスと、ファンドの管理も行っています。ファンドの税務はとても複雑ですし、スクラムベンチャーズ自体もラッキーなことに急速に成長してきているので、日々忙しくしています。社外の方にもサポートいただきながら、仕事をしています。

スクラムベンチャーズは、他のVCとどう違うのですか?

我々のように日本人がファウンダーのシリコンバレーの会社で、シードラウンドなど、アーリーステージの投資を行っているVCは非常に稀です。シードラウンドの段階で良いスタートアップを発掘するのは、かなり難しいんです。ほとんどの場合は芽が出ずに終わってしまう。50ぐらいの投資先があるとすれば、その中で1つか2つが大きく成長すると、ファンドとしてもパフォーマンスが高くなるといった確率です。

またスクラムは日本の企業さんからのファンドへの投資を受け付けています。画期的な技術を持ったベンチャーとお付き合いすることは、日本の大企業にとっても大きなメリットになるので、多くの日本企業さんからお引き合いをいただいています。

これまでの経験を、VCで活かしたい

これまで、非常に多くの転職をされていますが、アメリカではこれがスタンダードなのですか?

たしかに、日本よりも転職する人は多いですね。私自身は、次のチャンスに繋がるかどうかで判断しています。短期的な給料うんぬんよりも、長いキャリアとして考えた時に、新しい体験ができて自分の経験値として積み上げることができると感じた時に、そちらに行く。縁の問題もあるし、運の問題もありますけど、根本的には「どこに行っても生きていられる」っていう楽観主義的なところもあるので、「ここにいても成長しないな」と感じたら、次のチャンスを探してみます。

スクラムベンチャーズでもそういうことを意識して仕事をしていますか?

これまで、いろいろな仕事で経験したことを、できるだけみなさんに還元したいと思っています。長い間、夢見ていたVCの仕事ができて幸せです。

スクラムベンチャーズには、人種的にも、文化的にも様々な背景を持っている人たちが集まっています。そしてそれぞれに尖った才能を持っています。ただ、それぞれがすごい力を持っていても、各自がバラバラの方向に向かっていると力が拡散してしまう。ベクトルを揃えて、チームとして大きな力を発揮できるよう、これまでの経験を活かして、スクラムの成長の手助けができればと思っています。

スクラムベンチャーズのサンフランシスコオフィスメンバーと

 

 

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