『市井の人の暮らしを守りたい』東京、シリコンバレー、そしてアジアへ広がる夢—黒田健介 [Staff Interview]

April 21, 2021 スタッフインタビュー

徳島県出身。弁護士を目指して東大法学部へ。その後、大手外資系コンサルで経験を積み、ベンチャーキャピタルであるScrum Venturesへ。祖母と耕した畑の記憶を大切にする若手ベンチャーキャピタリストの夢は、世の中を変える起業の支援。さらに、夢はシリコンバレーや、アジアの新興国へと広がる。

四国・徳島から、弁護士になるべく東大法学部へ

大学以前は四国・徳島で育った、どんな子供だったんですか?

徳島県の漁師町に生まれました。漁師や農家をしている人が多いような田舎です。祖母が畑をやっていて、子どもの頃は畑仕事を手伝ったりするのも好きでした。特に、母方の祖母の実家はクルマで3~4時間ほど四国の山中に分け入った場所で、子どもの頃はよく田畑や、海辺、奥深い山中などで遊んだりしていました。

小学校、中学校、高校はバスケットボール部に所属し、日々練習に全力で取り組んでいました。当時、テレビで法廷モノのドラマが人気でしたが、主人公が難題をバシバシ解決していく姿がかっこよくて、弁護士という仕事にぼんやり憧れを抱きました。確か『HERO』だったと思いますが、今考えると木村拓哉さんの役は検事なんですよね(笑)当時はそんなことも分かってなくて。でも、地方にいて、普通の生活をしている、僕のおばあちゃんや両親のような、市井の人の生活が豊かになるように、「どこかの誰か」という“三人称”ではなくて「周りにいる人」、自分にとって“二人称”の人たちを幸せにできる人になりたい。それが僕の原点です。

高校時代は部活をしながら、弁護士になるために東大の法学部を目指し、勉強をしました。終盤、部活を引退してからは本当に集中して勉強しました。睡眠時間は1日4時間ぐらい。地方なので、大きな予備校もなく、自分がどのぐらい出来ているか不安な部分もありました。好奇心は旺盛な方だと思うので、学ぶこと自体を楽しめていた部分もあると思います。

より広い視点で多くの人を幸せにするために大手外資系コンサルに

バスケットボールに打ち込んでいながら、東大法学部に入れたというのはすごいですね! でも、なぜその後憧れの弁護士にならずに、PwCに?

大学在学中は、弁護士になるべく、ダブルスクールで司法試験の勉強もしていました。ただ、社会経験も積みたいという気持ちがあって、半ば浮気心で(笑)在学中に民間企業のインターンにも参加しました。そのうちの一つがコンサルティング業界です。

インターンなので、言ってしまえばちょっとした職業体験のようなものでしたが、近くで見るととても興味深い世界でした。コンサルワークって、言わば総合格闘技なんです。マーケットを把握して、競合について調べて、プロダクトを深堀りして、法規制や政策動向についても熟知して……ロジックを組み立てて答えを出す。法律だけでなく、あらゆる要素を考慮して解を導く、それによって社会に価値を生み出していく、総合的な取り組みができる点に惹かれました。より広い視点で、大きなダイナミズムの中で、周囲の人の生活に貢献できるのではないかと。

インターンを経て、コンサル業界への就職を決め、最終的にブーズ・アンド・カンパニー(現PwC | Strategy&)に入社することにしました。

PwCでの仕事はどうでしたか? 社会に出て間も無く、大企業へのコンサルティング業務は、非常にハードルが高い仕事のようにも思えます。

とにかく徹底的に調べます。その企業のこと、競合企業のこと、ストロングポイント、ウィークポイント、どんな可能性があるか……。集中して、時間をかけて調査します。コンサルにはコンサルの手法、ノウハウの組み立てがあるので、それに基づいて資料を作って提案します。

若輩ですから、最初はクライアントに頼りなく思われることもあったと思います。だから、まず信頼関係を構築することが大切です。コンサルの仕事は、5割は論理的思考力ですが、残りの5割はコミュニケーション能力といってもいい気がします。企業の意思決定を担う人に、まずはどうやって信頼してもらうか? 信頼があってこそ、こちらの提案を事業に取り込んでもらうことができます。だから徹底的に調べて、その業界や競合企業については、その企業の方々以上に詳しくなれるように勉強しました。「若いけどコイツの言ってることにも一理あるな」と思ってもらえるようになることを常に意識していました。

世の中を変えるのは、ベンチャーのチャレンジ

PwCを辞めて、Scrum Venturesに転職。その理由は?

大きな企業のビジネスにアドバイスできるコンサルティング企業での仕事は、やりがいがあり、すごく達成感がある仕事でした。

しかし、大きな企業のコンサルティングは、規模が大きなプロジェクトになるだけに結果が出るまでに5-10年単位の時間がかかります。自分がやった仕事の結果が出るまで時間がかかるわけです。これではやったことが良かったのか、悪かったのか、なかなかフィードバックを得ることができないのが、自分にとって少しもどかしい部分でもありました。

そうやって、経験を積んでいく中で、これから成長していく企業のコンサルティングの方が、世の中を大きく変える可能性があることに気がつきました。今やテックジャイアントと呼ばれるGAFAも、元はベンチャーから始まって、世の中を大きく変えたわけですから。

新興のベンチャーであれば、成長するスピードも速いし、結果が出るのも早い。大企業のコンサルの場合は、その企業の持っている資産、能力、特徴を活かして、成長戦略を組み立てます。言い換えると、所与の条件が多いわけです。しかし、ベンチャーキャピタルであれば、世の中全体を見て「何が必要なのか?」を考えることができる。いわば、ベンチャー企業に関わる方が、ゼロベースで、よりビッグピクチャーで社会にとって本当にいいことを考えられるのではないかと思ったのです。

徳島を出た時に描いていたプランとは大きく変わりましたね。

今、ベンチャーキャピタルとして仕事をしていて、正しい判断だったと思っています。コンサルティング企業にいた時に学んだリサーチや分析手法などは、ベンチャーキャピタルに転職してからも役に立っています。

大きな組織を、現在のテクノロジーの進化に合わせて素早く方向転換していくのはなかなかハードルが高いと思います。その点、ベンチャーなら新しいテクノロジーにすべてを賭けることができます。

たくさんの起業家に会って、投資先を探す

Scrum Venturesでの仕事について教えてください。

たくさんあるベンチャー企業の中から、社会的に意義がある、成長できる企業のために資金やノウハウ、人的ネットワークを用意して、成長可能性を最大化していきます。

年間数千社が起業する中、キャピタルゲインの90%は上位10%のベンチャー企業からもたらされます。

普段の仕事をすごくシンプルに言うと、できるだけたくさんのベンチャー企業、起業家の方々にお会いする事です。会うきっかけは、アウトバウンド、インバウンド、リファラルなど様々です。

アウトバウンドは、一般的にウェブに発信されている情報を見たり、プレスリリースや、SNSを見たり、それぞれの会社のサイトを見たり、いろんなネットの情報の中から興味深い会社を見つけて、こちらからアプローチします。インバウンドは弊社のサイトやメールで連絡をいただいた方。リファラルは自分の知人などから、縁故を辿って連絡をいただくもの。

そうやってたくさんのベンチャー企業にお会いして、様々な観点から会社について投資検討をさせてもらい、投資を決めます。

意外と、ベンチャーに対する敷居が低い日本

日本でベンチャーを起業するのは、USで起業するより難しい?

USの方がチャンスが多いように思われがちですが、日本で起業するチャンスが少ないわけではないという考え方もできます。日本よりアメリカの方が上場の敷居はかなり高いのです。日本には東証マザーズがあって、アメリカより小さな規模感で上場することも可能です。そういう意味では、チャレンジしやすい状況が提供されているともいえるのです。

もうひとつはマーケットですね。世界で3番目の規模を持ち、かつ均質なマーケットというのは他にない特徴だと思います。例えばUSだと、人口3億人と言えど、宗教や、言語、経済力によって、社会階層が大きく別れているので、それぞれのセグメントに対して個別的なマーケティングをしなくてはなりません。一方、日本だと、単一人種で、教育水準や所得水準もばらつきが少ない。ひとつのメッセージで1億2000万人に伝わるじゃないですか。意外とアプローチしやすい大きな市場なのです。

社内コミュニケーションには英語も必須ですが、いつ勉強したのですか?

前の会社でも勉強しましたし、今も勉強中です。

Scrum Venturesに入って、最初に1カ月ほど研修を兼ねてUSに行ったのですが、その時に投資チームのメンバーに「病院の送迎をUberのようにシェアリングモビリティで行うベンチャーの案件があるから、病院でインタビューしてきて」といきないり言われて……毎日いろいろな病院の受付に質問に行きました。もちろん、忙しいと話を聞いてもらえませんし、始業前の患者さんが来ていない時間を狙って話しかけたり……英語で会話する度胸がつきました。

その後も様々なプロジェクトで、毎日USのオフィスとやりとりしている間に、ビジネス英語にもだいぶ慣れて来ました。

社会を変えて行く投資を行い、市井の人の生活を良くしたい

今の仕事の面白い点と、今後の抱負を教えて下さい

とにかく、大企業のコンサルをしていた時と、圧倒的にスピードが違います。コンサルだと、3カ月かけて精査して、実際に物事が動き始めるまで1~2年。今は、週次や月次、場合によっては毎日、社内ミーティングや投資先との打ち合わせを通じてとてもスピーディに物事が進んでいきます。そうしたスピード感とダイナミズム、社会や経済を小さいながらも良い方向へ変化させていく感覚をすごく面白いと感じます。

今は、スマートシティのプロジェクトにも関わらせてもらっていて、さまざまなベンチャーのプロジェクトに大企業の力を借りるお話を進めていたりもします。ベンチャーの持つテクノロジーやビジネスアイデア、スピード感と、大企業の持つアセットや“Power to Scale”と組み合わせることで初めて可能になることがたくさんあります。こうしたイニシアティブもとても興味深いと思っています。

社会を変えていくビジネス。私の地元の四国で暮らしている家族や友人、東京で出会った大切な人たちの生活をさらに良くするようなビジネスを作り上げていくことが夢です。一見抽象的で大きなビジネスに関わっているように見えますが、根っこは「自分にとって身近な人たちの暮らしを豊かにしたい」。ピントは、昔から変わらずそこにあります。

機会をもらえれば、シリコンバレーでも仕事をしてみたいですし、ベンチャーキャピタルにとって、アジアや新興国にもいろいろなチャンスがあると思っていますから、いつかはそういう場所にも行って仕事をしてみたいと思っています。国内に閉じずに、海外の優秀な人材やサービスと繋がることがひいては日本の成長にも繋がると思いますから。

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